ここに書くエッセイの1番目は2000年10月掲載、2番目は2003年6月掲載である。この間に、事情が進んで、ことが明らかになったので、イチャモンを繰り返すことにした。
1.乗っ取られる江戸の名園(2000年10月7日)
(気まぐれコラム・その28)伊達美徳
これから書くことは、どうも不動産屋の手の内にはめられたかと、承知の上で書く。書けば書くほど敵の宣伝をしそうだ。
10月5日朝日新聞東京版の真ん中2ページ見開き大カラー写真、東京の名園・浜離宮庭園の池と緑の美しい風景、その上の青空になんとドドーンにょっきり超高層ビルが2本、庭園を踏んづけて"押しかけ"借景になってしまっている。
これじゃあもう、徳川将軍家別荘の天下の潮入り池の回遊式庭園はぶち壊し、いつの間にとびっくり仰天。
よく見まわすと、これは新橋汐留開発の集合住宅の広告だった。写真は合成したもので、建物はまだできてはいないが、実物写真みたいだ。
宣伝文句に曰く
『浜離宮というこの上ない借景を得て真の都市居住・・』
うーむ、普通は、庭園のほうから借景とは言うがねえ、家の中kらとなりをのぞき込んで借景と言うかねえ。外から隣の庭園を借景にして、お借りした相手方をぶちこわしにすることを、これほどはっきりと宣言しているのも、珍しい。
それにしてもよくマア、これほど無神経な合成写真と宣伝文句がよくもまあ書けるもんだねえ。つくづくと感心している。一体どういう神経なんだろうか。
と、思ったが、もしかしたら、これはどうも、広告した方は実に良いことと、真実思っているのかもしれない、と思えてきた。
だって、普通ならこれほどの犯罪的行為を、三菱地所以下8社のそうそうたる業界リーダー会社がそろって、これほどあっけらかんと正面きって宣伝するはずがないですよねえ。
普通なら、こうなることは分かっていても遠慮して、これほど堂々と写真にしませんな。
この駄文を書くと、ますます宣伝の片棒を担ぐ羽目になるのかなあと、心配になってきた。 と、思いながら広告をみまわすと、あった。
宣伝文句の続きに曰く。『あらゆる価値観が大きく変わろうとしている、、、』
ふーん、あらゆるねえ、価値観がねえ、変わるんですかねえ。
「普通なら、」とくり返しているこちらが遅れているらしい。いやもう恐れ入りやした。
(2000/10/07 気まぐれコラム・その28 伊達美徳)
2.江戸の名園乗っ取りに成功した汐留開発(2003年6月1日)
近頃、東京新橋のあたりと品川のあたりが、いつも妙に空がうっとうしい。国鉄操車場跡地の再開発が立ち上がってきたからである。
たくさんの超高層ビルがあるのだが、どうも、それぞれ勝手に向いたり、勝手な姿でありながら、妙に高さがそろっているものだから、ただうっとうしい、ごちゃごちゃした壁に見える。
悪名としてのペンシルビルが建ち並ぶ日本の典型的な市街地を、そのまんまに拡大した風景である。少なくとも景観としては、なんの計画性もないとしか見えない。
前項で2000年秋に書いた乗っ取り計画がどうなったか、2003年春の過日、浜離宮に入ってみてきた。それが下の写真である。
浜離宮庭園 2003年の景観 |
●関連ページ⇒「景観戯造」
おお、見事に上の広告写真どおりに、いや、写真をはるかに超えたレベルで、借景というか、貸景といったほうが、それもムリヤリ押しかけ貸景に成功している。
これでニューヨークのセントラルパークに負けない、超高層と緑の「調和」する景観を、やっと戦後58年にして日本も手に入れて、アメリカ並みになりましたな。
写真の中央あたりのビルの上のほうには、「日本通運」と押しかけ責任者の名が堂々と書いてあるくらいだから、わが社は風景についての見識は持ち合わせておりません、という宣言だろう。
庭園の中で、絵の趣味グループらしき数名の男女が、まさにこの風景の方を向いて写生している。ちょっと覗かせてもらったら、あら、みなさん、ビルをまったく無視した絵になっている。緑の樹冠の上には、青い空が直ぐに広がるのだ。
風景画を描く人は、美しく描きたいと素直に思うのだろうから、やはりビル群はごく素直に邪魔な風景なのであることが、こうして証明されたのだった。
押しかけ貸景の前例がここにもある。
(2003/06/01)
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