2010/05/02

264【各地の景観】スイスアルプスのアイガー北壁

 ドイツ映画「アイガー北壁」を見てきた。
 映画館に入ったのは何年ぶりだろうか。
 シネなんとかっていう、いくつも映写ホールのある映画館だが、スクリーンがずいぶん小さいし、客席も100人もはいるだろうか。8割くらいのいりこみだった。
 老人料金は1000円であった。さてこれは高いのか安いのか。もうちょっと待てば、近くの貸しディスク屋で老人料金200円で1週間かりられる。

 どうして見に行ったか。
 大学時代の山岳部仲間から、面白かったというメールが来たこと、昔々、この映画原作となっているハインリッヒ・ハーラー著「白い蜘蛛」を読んだ記憶があること、そして2006年6月にわたしはアイガー北壁を登ったことがあるからだ。
 登ったとは、北壁の中のトンネルをユングフラウ登山鉄道で登ったのである。
 それにしてもこんなところを電車を通すなんて、ものすごいことをやるものである。今なら環境保護派が承知しないだろう。
 長いトンネルを掘ったズリを、北壁の横にあけた穴から下に落としたのだそうで、途中の駅でその穴から外をのぞき見ることができる。
 ユングフラウ・ヨッホからの帰りには、トンネルを出たところのアイガーグレッチャー駅で途中下車し、歩いて下山を始めた。
 左にメンヒとユングフラウを眺めつつ、アイガー氷河に沿って下る。氷河の末端部が滝のように崩れ落ちる巨大さやら、その汚れやらに驚嘆する。
 とにかくあらゆる風景がスケールが雄大であり巨大であることに驚いている。

 放牧の牛の糞だらけの草原を下って、クライネシャイデック駅につく。ここのホテルが、北壁と共にもうひとつの映画の舞台であった。
 北壁の雪と氷と岩の壁に宙吊りとなって苦闘するトニー・クルツたちの苛烈な風景の映像が突然に一転して、暖炉の火の燃える温かく優雅なホテルの内部に替わる。
 この極端なる対比を映像は狙っていたのだろうが、ちょっと常套的すぎる。
 対比といえば、当時(1936年)のナチの台頭による政治的な様相を、オーストリア併合の問題も含めて、このアイガー北壁登攀に絡ませていることも、違和感があった。
 もちろん原作にはそんなことは書いてないのである。
 ただ登りたいだけのアルピニストに、政治を絡ませるのは映画としてはありうることだ。ただし、描き方がどうもとってつけた感があり、どこかしっくりこなかった。

 クライネシャイデックで一息入れて、右に方向を変えて下っていく。今度は右にアイガー北壁の正面をいつまでも眺めていられる。
 下のほうはよく見えているのだが、上方の「白い蜘蛛」辺りから上は雲の行き来が忙しい。あまりに巨大すぎて、見上げる首が痛い。足元に注意しつつ真正面から見上げるアイガー北壁を堪能する。
 これだけでかいと日本の山の岩登りはものすごく小さく思えて、ルートハンティングの勝手がおおいに違いそうだ。
 なんだかどこでも登れそうだが、はっとスケールを勘違いしていることに気付き、どこも登れそうにないと見えてくる。
 
 赤い断崖の下あたりや、その左あたりにいくつかの穴が見える。左の穴は窓になっていて、アイガーヴァント駅のところで、登りには途中下車してそこからこちらを見下ろしたことろだ。
 右のほうの穴は、最後にトニー・クルツ救助隊がここから北壁に取り付いた。
 悲劇の主人公トニー・クルツの恋人はここから出て、トニーを励ましつつ、氷の岸壁で夜を明かしたし、目の前にぶら下がるトニーの死を見つめることになる(原作にはない)。
 この女性を登場させるのも、映画の常套手段として、もっともらしいことであるとは思った。
 トニークルツに肩入れしたい昔山岳部としては、彼女をもっと純粋な形に登場させてほしかった。
 さて、たっぷりと北壁の眺めを味わいつつお花畑を下っていった。仲間は咲き乱れる花にしゃがみこんだりしているが、わたしはもっぱら見上げているばかり。
 そうやってアルピグレン駅まで歩き、また登山電車でグリンデルヴァルトに下った。

 映画の原作といっている「白い蜘蛛」を、昔々わたしは読んだ覚えがあるのだ。学生の頃だろうか。
 その中にあった一枚の写真、トニー・クルツがザイルで空中にぶら下がる姿に、強烈な印象をうけたのだった。救助のために出た坑道辺りから撮った書いてあった(ような気がする)。
 映画を見てきて、「白い蜘蛛」を県立図書館から借りて再び読んだ。奥付を見ると、1938年に初登攀したハイリッヒハーラーが1958年に出版した「DIE WEISSE SPINNE Die Gschichte der Eiger-Nortwand]で、日本では「白い蜘蛛-アイガーの北壁」と題して1960年に横川文男訳で出版している。
 ところが不思議なことに、そのトニー・クルツの写真がないのである。ということは、わたしの読んだのは別のなにからしいが、いったいそれは何だったろうか。

 岩壁登攀の映像は、かつて岩登りをしていたことがあるものから見ても、なかなか迫力があった。
 「アイガーサンクション」という映画があったが、岩壁登攀映像はインチキ臭くて見ていてあほらしくなったものだ。
 ただ、岩登りをしていたものや、登攀ルートの知識のあるものには興味深いが、それだけに物足りない感がある。
 もっと事前のルートハンティングや、現場でのルートファインディングの苦労を見せてほしいものである。
 逆に、岩登り知識のないものには、場面場面の迫力はあるが、なぜそうなるのか全然分からないだろう。自然は厳しいものだなあ、てなくらいなものだろう。
 まあ、娯楽映画はそんなもんだ、といえばそうなのであろう。
 日本の山岳映画として最近評判になった「剣岳 点の記」よりははるかによかった。点の記はストーリーがなってないし、風景映像は美しいが順序がでたらめ、下界でのあれこれ場面がなんで必要なのかさっぱり分からなかった。

●参照→昔山岳部●参照→・ヨーロッパアルプスは棚田だった(2006)
http://homepage2.nifty.com/datey/swissalps.htm

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