2015/11/01

1141中央アジアのキルギス共和国で活動する国連機関ユニセフ現地事務所代表の杢尾雪絵さんによる現地報告を興味深く聴いた

●中央アジア・キルギス共和国

 中央アジアのキルギス共和国で活動する、国連機関ユニセフ現地事務所代表の杢尾雪絵さんによる現地報告『若者を戦いに行かせないために』を、10月30日に東京のユニセフハウスで聴いた。
 2010年の民族紛争を経て中央アジアで初めての民主主義共和国を築いたが、貧困差別と国境をまたぐ民族紛争の中で、青少年を平和へとどう育成するか、心を砕きつつ活動をしている。

 この日本列島には、地続きで接する他の民族の国はないし、各種多様な民族が住んでいるわけでもないことで、民族紛争や国境紛争は無い。もっとも、国境紛争がない譯ではなく、千島列島の一部と日本海の孤島をめぐって線の引き方で諍いはあるが、人が死ぬような紛争はない。
 ところが、ユーラシア大陸では多民族がつばぜり合いしながら住む地域や国がいくつもあり、紛争が絶えない。中央アジアのキルギス共和国もそのひとつである。
キルギス共和国の位置
キルギス共和国と紛争地のフェルガナ盆地
  杢尾雪絵さんは、キルギスで国連機関のユニセフ事務所の代表として昨年から赴任している。その前はウクライナ代表だったが去年転任した。
もう20年も各国の国連機関で仕事をしている国際活動家である。
  転任直前の去年4月にも、一時帰国して紛争真っ只中のウクライナで、子どもの被害の状況といかにして救うかという現地報告を聴いた。
 そして今年、こんどはキルギスでの活動報告である。この貧困で多民族の国における、子どもや青少年の課題とユニセフができることを語った。

●キルギスの貧しさと日本の豊かさ

 キルギス共和国の2014年の人口は583万4000人、人口一人当たりGDPは1299$であり、一人当たり1000$以下とされる低所得国をようやく抜け出して中低所得国になった。これは世界国別比較で158位に位置し、近隣諸国と比較して見る。
アフガニスタン    650$ 174位
・タジキスタン    1113$ 159位
・キルギス      1299$ 158位
・パキスタン     1343$ 152位
・ウズベキスタン  2046$ 136位
・中国         7589$  80位
・トルクメニスタン  8270$  73位
・カザフスタン   12183$  60位
(日本        36332$  27位)

 日本人の1人当たりGDPはキルギスの30倍、それほどに日本は豊かな国なのである。日本の子どもは豊かなんだろうと思う。
 ところが、2014年の子ども貧困率を比較すると、キルギスでは45%の高率であるが、日本でも16%と意外に髙いのである。
 しかも日本の子ども貧困率は、1985年の11%からしだいに上昇している。つまりどんどん貧乏になっている。アベノミクスとかって浮かれているのは、どこのことなのだろうか。

 ソ連崩壊まではその一員のキルギス・ソビエト社会主義共和国であったが、1991年の独立後はキルギスタン共和国となり、ロシアとは独立国家共同体 (CIS) の集団安全保障条約のもとにある。
 2005年のチューリップ革命、2010年の反政府運動の大騒乱を経て、今は国会が主導権を握る議院内閣制となり、大統領は象徴的な地位になっている。
 中央アジアの近隣諸国が大統領による独裁制の中で、この民主主義体制は珍しいという。
 だが、産業がないこの国の最大の産業は、ロシアへの出稼ぎだそうだ。国民所得の3割に相当するくらいの基幹産業とか。

●貧困格差がまねく民族紛争の中で

 貧困が格差と差別を生み、それが民族間の争いになり、歪んだナショナリズムを生み出す。
 かつてソ連時代は、各民族は平等にという国家政策だったが、ソ連崩壊後に起きた混乱と貧困が民族対立を生み出し、それが民族間紛争を招いている。
 キルギス南部のウズぺキスタンとの複雑な国境地帯にあって民族が入り乱れるフェルガナ盆地あたりでは紛争が絶えない。

 それに近ごろは宗教過激派が青少年をリクルートすることも多くなり、穏健なキルギスのイスラムも原理主義へと染まる傾向もあって、紛争は国際化する。国際紛争も伴う民族間紛争は、いったん起きてしまえば憎悪が憎悪を生む悪循環構造となる。
 そのような中で、国連機関のユニセフの活動は、次の世代に民族間紛争が起きないように、子ども、少年、青年たちを教育することが最も大切なことと考え、大きく動くよりも小さなできることを地域ごとに、たくさん積み重ねていく方針でやっているという。

 例えば、紛争国境を挟んだ両方の地区に同じ教育施設をつくって、両方で同じような活動をすることで、教育を受けた若者たちが次の平和を築くことを期待する。
 そのために、国連ユニセフのキルギス事務所代表としての杢尾さんが、直接に折衝し連携する今の政府の教育担当閣僚は、若いやる気のある女性であり、期待できるという。

●いくつもの紛争国で仕事してきた国際人の杢尾さん
 
報告会の会場には、100名くらいの聴衆が来ており、若い人たちも多くいて、積極的に質問している姿をみて、杢尾さんの後を追う世代があることを頼もしく思った。
 そして、わたしの仕事仲間だった彼女が、こうして今、中央アジアの貧しい国で子どもの幸福のために、平和のために活動していることを、わたしは誇りに思い、嬉しいことである。
 彼女がわたしの仕事場から、湾岸戦争のクルド族難民キャンプ支援にトルコのUNHCRへ飛んで行ってから、アメリカ留学を経て国連へ、あれからもう四半世紀にもなるだろうか、月日は早く経つ。

 これまでトルコ、モンゴル、コソボ、モンテネグロ、タジキスタン、ウクライナなどの国情が複雑で、時には戦火が及ぼうとする地域で活動する彼女は、なにしろ若いころはスカイダイビングなんて空を飛んでいたくらいだから、やっぱり肝っ玉姐御だからできるのだろう。今は可愛い娘もやさしい夫もいるから、肝っ玉母さんか。
 わたしは何もできないが、北部の首都ビシュケクに住みながらも、紛争地域の南部にも月に2,3回は行くという彼女の身に、危ないことが起きないようにただ祈るだけである。 (2015/11/01)
杢尾さんが赴任した国々

ユニセフによる杢尾雪絵(もくお ゆきえ)さんのプロフィル
 ユニセフ・キルギス共和国事務所代表。
 大学卒業後、都市計画建築コンサルタントとして就職後、青年海外協力隊員(JOCV)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の国連ボランティア(UNV)を経て、1991年から1994年末まで米コーネル大学地域計画学科に留学。
 国連食糧農業機関(FAO)ローマ本部インターンを経て、1995年にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)としてユニセフ・モンゴル事務所に勤務。ユニセフ・コソボ事務所長(1997年~)、モンテネグロ事務所長(1999~2001年)、タジキスタン事務所代表(2001~2008年)、ウクライナ事務所代表(2009~2014年)を務めた後、2014年7月より現職。

参照:
タジキスタンで活躍するユニセフ杢尾雪絵さん(2002)
https://sites.google.com/site/matimorig2x/mokuoyukie-tajik
紛争地ウクライナの国連機関ユニセフで活動する杢尾雪絵さん(2014)
http://datey.blogspot.jp/2014/04/918.html


外部関連ページ
◆いつも心に青空を ユニセフ タジキスタン代表・杢尾雪絵(NHKオンライン)
http://www.nhk.or.jp/professional/2006/1130/

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