1923年9月1日の関東大震災、今年はそれから100年、天災は今も盛んになるばかり、関東大震災100年で何か大きなイベントがあるだろうとは予想できる。
その大震災の余燼がくすぶる中の東京駅前、中央郵便局裏の掘立小屋で若者建築家たちが、建築運動のグループ「創宇社建築会」を立ち上げた。それから百年目になるので、誰かが何か記念行事をやるのかなと、ちょっと期待を持っていた。
3年前の2020年に「分離派建築会100年展」なるものが分離派100年研究会によって、開催された。建築史界では、創宇社建築会をその分離派の亜流のごとくにを位置づけているようだ。
創宇社建築会が創設100年目にあたるなら、こちらも研究会を作って何か展覧会とかシンポジウムをやるだろう。どうせなら研究を推し進めて、亜流説を脱するような展開があると面白いだろうと思っているのである。
そんなところにドンピシャ、『創宇社建築会100年研究会 第1回シンポジウム「建築運動」を語る アーカイブズをめぐって』への参加お誘いが、名古屋市立大学の佐藤美弥さんから来た。3月25日、東京都市大学世田谷キャンパスである。
おお、やっぱりこちらも100年目イベントがあるか、分離派ほどに有名エリート建築家グループではないので、世間が知らないのは当たり前としても、建築界、建築史界でもどれほど興味持つのだろうか、特に若い建築家たちが知っているだろうか、それがわたしの興味の一つでもある。第2回、第3回へと期待する。
分離派が東京帝大出の石本喜久治、堀口捨巳、山田守らの、後に有名建築家になるメンバーたちに比べると、創宇社は帝大出は一人もいない。後に有名建築家になった海老原一郎がエリート学校といえばそうである東京美術学校出であるのみ。
会のリーダーの山口文象は後に有名になったが、東京職工徒弟学校出であったし、多くが実業専門学校出であった。これらの出自のせいであるということもできないだろうが、これらふたつの会の活動の展開方向がおのずから異なっていったのが、実に興味深い。
コロナでこのところシンポジウムとか会合参加はZOOMやU-tubeばかりで、参加度合いが浅いままに終わるから不満がたまる。たとえ自分の発言がなくても、実際にその場の雰囲気で面白度合いも理解度合いも大いに異なる。ズームやっててムズムズしてきた。
そんなところにこのお誘いで、ちょっと顔を出して知ってる人たちに会うかもしれないなと、久しぶりにちょっとうれくなって参加した。この3年間ロクに遠出していないから、子どもの遠足の気分でもある。
せっかくだから久しぶりに会った旧知のお方たちを書いておく。会場参加者は全部で20人ほど、ネットではどれほどか知らない。
挨拶した順に、岡山理香さん、佐藤美弥さん、鈴木進さん、山口勝敏さん、山口麗子さん、小町和義さんである。
4年ぶりの小町さんには驚いた。山口文象の最後の弟子で95歳のはずだ。こういう会合に参加するとほとんどの場合、わたしが最高齢になってひそかに当惑するが、今回は小町さんにその地位を奪われた。小町さんから「北鎌倉の宝庵に一緒にまた行きたい」と誘われてしまった。う~む、元気すぎるお方だ。
さてシンポジウムの内容である。「アーカイブズをめぐって」京都大学の西山卯三、東京都市大学の蔵田周忠、建築家竹村新太郎が、それぞれ遺した資料についての各報告、次いで討論や質疑であった。
いずれの資料も近現代の建築や社会を語る歴史的資料として貴重であると分ったが、その膨大な数をどのように評価し、どう整理して、世にどう公開するか、課題はいっぱいらしい。特に公開するときのプライバシー問題が深刻らしい。
わたしは研究者でも学者でもない趣味人だから、聞いていて気楽なものである。わたしが建築家のアーカイブズらしきものにかかわったのは、建築家山口文象が遺したRIAにある資料である。山口は西山や蔵田と違って資料を積極的に保存する性格ではなかったが、それでもかなりの点数がある。
それらをアーカイブズとして保存し、時に外部からの閲覧に対応するには、それなりの組織体制と人材が必要である。
わたしがRIAにいるころに、その基礎的な仕掛けは作っておいたが、大きくもない民間組織でアーカイブズ化をどこまで可能か。わたしがRIAを出てから収集した紙資料類は、RIAの文象アーカイブズに数年前にエクセル目録と共に全部納めた。
この創宇社建築会100年という節目で、また山口文象資料への需要が出るかもしれない。シンポ会場にRIAの若い人が3人来ていたから、文象アーカイブズに取り組むらしく、頼もしくも楽しみだ。
わたし個人としてもアーカイブズがある。ほとんどデータ化してネット空間とPCディスクに入れてある。そのうち山口文象関係に関しては、そのサイトでわたしに自主研究遊びとして公開しているが(山口文象+初期RIA)、個人趣味のサイトだから勝手なものである。
しかし、大学あるいは企業のような立場でのサイトでは、わたしのような勝手な個人と違って、著作権や版権あるいはプライバシーに厳重に配慮しなければならないから、半端では公開できないだろう。
実を言えば、わたしの山口文象関係のサイト掲載分もPC内データ分も、勝手な言い分だがどこかに引き取ってもらいたい気がしている。わたしはこれらの維持管理が不可能になる日が、もうすぐくるに違いないからだ。
その時にすべて消滅させてもわたしはかまわないのだが、ちょくちょく院生や学生から問い合わせがあるように(最近は東北大のドクターコースの人から高松美術館についてのインタビューを受けた)、もしかして誰かが研究用に使うこともあるなら、どこかのアーカイブズに今のうちに引き取ってほしいとも思う。
シンポジウムの主催者側の佐藤美弥さんが、創宇社建築会の本「創宇社建築会の時代 戦前都市文化のゆくえ」を今月末に上梓するとのことである。最上の創宇社建築会創立100年記念になった。http://yoshidapublishing.moon.bindcloud.jp/pg4784863.html
0 件のコメント:
コメントを投稿