紅葉ヶ丘あたり現況 |
ご隠居:おや熊さん、いらっしゃい、まあ、おあがりよ。
熊:先日、紅葉ヶ丘に登ってきましたよ、神奈川県立図書館と音楽堂があるところ。
隠:おやそうかい、もうひとつ県立青少年センターもあるよ。どれも前川國男の設計のモダニズム名建築だよ。
神奈川県立青少年センター(1962年、前川國男設計) |
隠:それは前川じゃなくて大江宏だね、モダニズムじゃなくて日本伝統建築モディファイの姿をしてるね、伝統芸の能楽堂らしくね。
横浜能楽堂(1996年 設計:大江宏) 写真は横浜能楽堂公式サイトより |
隠:あ、ウン、いや、その、、。
熊:前川の図書館や音楽堂が名建築なら、なおさらそうすべきでしょうに、違うんですか。
隠:タジ、タジ、、
県立音楽堂はほんとうに名建築か? |
隠:貧乏建築と名建築とは対立関係ではないのだよ、豪華な材料を使ったり手間のかかる装飾をしなくても、美しい空間を作るのがモダニズムだよ、すっぴんの美しさだね。
熊:なるほど、でもねえ、あの音楽堂のホワイエ、案内のボランティアの方は褒めていましたが、あそこはどう見ても縁の下と言うか床下でしたよ。
隠:そうだよ、そこは客席の床の下だね、その構造を素直に空間として表現している、これがモダニズムだよ。
床下利用のホワイエは落ち着かない |
隠:でも周りが明るいガラス張りだから、鬱陶しいことはないだろ。
熊:それがねえ、ガラスの外の景色が庭園とか海とかならいいけど、表側は殺風景な駐車場、図書館側は石垣、隣の掃部山公園は向うが高いから緑が少ししか見えないし、何だか機械を置いてあるから、まったくもってガラスの向こうがちっとも美しくないし、あれじゃあ空調も不経済だろうし、設計が下手。
隠:ま、そういやそうだけど、いやいや、マイッタな。
音楽ホールは下から上まで歩いて登る |
隠:う~む、まあ、若者が活躍する音楽堂にしてもらうかな。
熊:今じゃあ横浜には県民ホール、芸術劇場、関内ホール、みなとみらいホールとかいっぱいありますよ、更に横浜市立の芸術劇場計画もあるし、この音楽堂は要るのですかね。
隠:あ、そりゃ要るよ、ここに昔は超有名演奏家を招いてたけど、今はもっと良いホールがあってそちらに行くけどね、昔と大違いは音楽を自分でやる人たちがぐ~んと増えて、その市民活動の場としてもこの音楽ホールは必要だよ。この音楽堂が約千席、隣の青少年センターのホールが約800席で、興業には向かないけど一般市民活動にはちょうど良いよ。
熊:なるほど、そうですね、ガイドの話だと、音楽堂は建ってすぐに楽屋の増築、更に続いてリハーサル室や控室も増築したそうで、デザインはモダンでも機能は足りなかったらしいですよ。それでも名建築かなあ。
隠:そうだねえ、あの東と北の増築部分は道路際までぎりぎりに建ていて、まわりへの配慮に欠けるねえ。
熊:はは、ご隠居も悪口を言い出しましたね。その増築部部は裏側だからか、いろいろ機械が裸で露出していて、能楽堂と掃部山公園側の景観を悪くしてますよ。
隠:柱や梁ばかりか機械も美しく露出させるのが、モダニズムの手法だけどねえ。
熊:じゃあ、裸の空調機が壁に幾つもぶら下がってるのも、広場がむき出し駐車場なのもモダニズムですかい。
リハーサル室などの増築部、あちこちにむき出し機械類 |
熊:そうそう、図書館の周りの大きな木がバサバサ伐られて、お知らせの紙が貼ってあり、昔の景観に復元するから我慢して見ていてくれ、なんて書いてある。ところがねえ、そこにある完成イメージ図を見ると、ますます殺風景になるんですよ。
広場には木がたったの一本だけ |
整備し直しても木は一本だけ |
植栽の剪定と伐採についての貼り紙 写真では広場が砂利敷きだがこれも復元するのだろうか |
隠:わたしも見たよ、そこは気になるね、あの広場には樹木がたった一本しかなくて、全部が駐車場に占められているし、広場から昔は海が見えたろうけど、今じゃあ周りは高層共同住宅でその上から超高層ビルに見下ろされて、なんとも鬱陶しいねえ。
熊:そう、広場はクルマに占拠されてるし、夏は暑くてたまんない、だから緑を植えて木陰のある庭にして人が集まるようにするのかと思ったら、この絵を見るとやっぱり駐車広場ですよ、写真見ると砂利敷きだから、水の浸透性をよくするように砂利を復活するのかな。隠:紅葉坂を登って行くと右手の歩道沿いに広い植栽帯があるだろ、花咲町の共同住宅の建替えの時にできたね、あれができて坂を登るのが少しは気分がよくなったね、途中で腰を下ろして休めるしね、で、紅葉ヶ丘の青少年センターまで登ってきたら、何だか土をいじって工事している、見れば張り紙があって「もみじ坂景観改善工事」と書いてある。
熊:そうか、あの坂沿いの緑地帯を、丘の上へも延ばしてくるんですね。
隠:わたしもそうも思ったら、そうじゃないんだね。
熊:あ、そうか、この絵のように広場に登る大きなL型の階段を作るんですね、でも、これって復元なんですかね。
隠:せっかく下から緑地帯が登ってきたのだから、それに続けてこちらにも緑地帯をつくって広場も緑地にする、なんてのじゃなくて真反対にコンクリの車優先広場にするって、公共事業として間違ってるでしょ、民間の事業を見習いなさいって言いたい。
紅葉坂沿いの緑地帯 |
紅葉坂の緑地帯を坂上から見下ろす 坂の上までこれを続けて整備するのかと思ったら、、 |
熊:アレレ、建築では違ったけど、緑の整備ではご隠居と同意見になった、なんでも復元ならいいんだと建築家はバカみたいですね。
隠:いや、建築家は人工の文化を大切にするけど、自然のことをよく知らないんだね。熊:あ、そうだ、復元と言えばあの前川建築群が建つ前は、あそこらへんは緑がいっぱいあったんでしょうね、その緑の復元をしてもらいたいですね。
隠:あの紅葉ヶ丘は、図書館・音楽堂が建ったところには県知事の官舎のあって、広い敷地に庭や林があり、青少年センターの建ったあたりも広い官舎だったらしい。
熊:ほう、写真や地図を見ると緑豊かだったようだから、それを復元してもらいたい。
2018年紅葉ヶ丘あたり |
隠:その前の幕末から明治開港時の紅葉ヶ丘は、横浜開港場を統括する幕府の奉行所があったんだね。その前は野毛山から伊勢山、紅葉ヶ丘から掃部山へとひと続きの山だったのを、このときに横浜道の開削と紅葉ヶ丘の開発で区切ったんだ。
熊:じゃあ、せめて掃部山から伊勢山に続くように緑の森の復元をしてもらいたい。隠:広場に樹木を植えるのはできるだろうけど、掃部山とつなげるのは無理だね。
熊:じゃあ、まあ、音楽堂だけはせっかくの日本の歴史的モダニズム建築であるとしてこれからも使うことにして、図書館を取っ払って緑の森にしてはどうです。
隠:うわっ、図書館もモダニズム名建築だよ、壊せないだろ、だって図書館はわたしも時々使うんだもの。
熊:う~む、音楽堂にケチをつけたけど、こんどは図書館にケチをつけるかな、あれも名建築って、本当ですかねえ。東側は音楽堂につながるモダニズム建築なんでしょうけど、西側に回ると全然違う普通の白いビル、あれも名建築?
隠:あ、あの新館は本館に後で増築したんだね、あれは前川の設計じゃないね。
図書館新館玄関(左)と青少年センター荷物搬入口(右) |
熊:ホレね、本館が名建築なら新館だって名建築として増築するべきでしょ、それがあの姿じゃあ、別に名建築の必要が無いと言ってるようなもんでしょ。
隠:う~む、本館の名建築とはわざと違うデザインにして、区別したのだろうなあ。まあ、音楽堂の北側増築部分も真っ白に塗ってわざと違ってみせているね。熊:だからツギハギに見えるんですね、なんかうまくないなあ、そうか、最初に建てる時に、増築を予想しないで完結するデザインをしてるのがいけないんですよ。
隠:うむ、それはあるな、ほら、鎌倉の旧県立美術館では初めから増築予定してあったからあの本館と新館は実にうまく調和していたね。
熊:前川ってそこのところが坂倉より下手クソですね。
隠:う~ん、だから壊してもいいってのかい。
熊:あ、そうか、図書館を壊して緑の森にする話でしたね、そう、あの図書館の良いところは、利用者が少ないのでいつも静かなところだけですよ。言いすぎかな。
隠:うん、まあ、そのとおりだな、
熊:おや、なんだかおとなしくてヘンですよ、どこか具合が悪いのかな。
隠:いや、わたしはいつも熊さんに従順だよ、ハハ、でも、あの吹き抜けの閲覧室がいい空間だろ、そう思うだろ。
図書館本館の吹き抜け閲覧室(県立図書館公式サイトより) |
隠:じゃあ、2階の閲覧室はどうだい。
熊:ガラス窓の外に穴空きの焼き物が格子状に積んであるところでしょ、中から外の景色を眺めるにはその格子が邪魔ですよ、あれは西日よけのデザインらしいけど、部屋側にブランドを下ろしているから、ほとんど役立たずですよ。
穴空き陶器に囲まれる西側窓の外面(県立図書館公式サイトより) |
熊:なんだ、保存に値する名建築じゃないんですか。
隠:いや、そこのところは苦しいけど、もうこの図書館は役割が終わったように思うんだよ。実はこれまでに、何度も建て替えの検討があったらしいよ。
熊:ほれやっぱりそうでしょ。
隠:実際使ってみると新館と本館の連絡が悪いし、これまでいろいろな調べものするのに、蔵書検索するとたいていは市立の方で間に合ったしね。
熊:そうそう、だから県立図書館を壊して、山の緑を復元してもいいでしょ。
隠:う~む、壊さずに別の文化施設として使い続ける方法があるといいけどなあ、
熊:そうですねえ、う~む、そうだ、ここ紅葉ヶ丘には中小の劇場が3つもあるのだから、総合的に再編して舞台芸術創造活動の場にするってのはどうですか。
隠:図書館を廃止してもその建物を再利用するってわけか、それもいいなあ。
熊:そういえば隣の伊勢山には市民ギャラリーがありますよね、そうだ、こことも一連の活動の場として、舞台だけじゃなくてアート全般の創造活動の場にするといいですよ。
隠:おお、紅葉山市民アート活動センター構想だな、
熊:市立県立の壁を取っ払ってやりましょうよ。
隠:いいねえ、いいねえ、ところで、わたしは能楽堂にもちょくちょく行くのだけど、あそこはいかにも図書館の裏でございます、って感じがいやなんだな。
図書館(右)の裏の感じが強い横浜能楽堂(左) |
隠:おお、いいこと言うねえ、いやいや、図書館の本館の建物は残してほしいなあ。
熊:あ、そうだ、図書館の北の庭園を音楽堂と能楽堂の共同の広場にすればいいんですよ、音楽堂の正面をこちらにするんですよ。
隠:そうだな、その上でいまの駐車場広場の車を地下に入れればいいね。
熊:そうそう、今の広いコンクリ広場を樹林の庭園にすれば、掃部山から伊勢山に緑が続くことになりますね、掃部山の春の花見の場がひろがりますねえ。
隠:おお、いいねえ、はなしだけだとなかなかいいこと言うねえ。
熊:そう言えば、近くの野毛山の中腹に横浜市中央図書館がありますよ、どっちかと言うと、こちらの方が方がよほど充実してるし、利用者も断然多いですよ。
隠:そうだね、県立と市立両中央図書館が、ほとんど内容に違いが無くて、近くで張り合ってるのも奇妙なもんだね。わたしは両方を使えてありがたいけど、一般論としてはもったいないよな。
左の野毛山中腹に横浜市中央図書館、右の紅葉ヶ丘上に県立図書館 |
隠:県立と同じ前川國男だよ。
熊:えーっ、同じ人ですかあ、ずいぶん違うデザインですよ、建築家って器用なもんですね、まあ、それじゃあ県立図書館の方を壊しても、前川図書館はこっちにあるから勘弁してもらいましょうよ。
隠:そういうもんじゃないんだけど、まあ、いいか、。
坂を登ってたどり着いたらまた階段を登らされる横浜市立中央図書館 |
隠:そうそう、まったくなんであんな不便なところに建てたのだろうね。
熊:建築家は与えられた土地で設計するしかないんですかね、建築家の前川は設計するときに、ここよりも市民に便利なところに建てろと提案しなかったんですかね。
隠:まあ、あそこは以前の図書館の建替えだったからなあ。
熊:じゃあ、もっと下のほうからトンネルとエレベーターでアクセスするように設計すればよかったのに、前川は下手だ。
隠:いや、まあ、、。
熊:それじゃあこの長屋談議の締めくくりに、今日のホラ話を戯造画像にしました。
広場:樹林にして伊勢山から掃部山に緑を連続復元 図書館:一部保存大改装増築して芸術創造活動の場に |
参考:『「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方」の取りまとめについて』(2016年10月28日 神奈川県教育委員会)
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