2023/09/25

1705【神宮外苑再開発は不採算事業】意外にもこの再開発に超多額の国民負担が必要と知った

●外苑再開発は不採算事業

 いま反対運動であれこれ取りざたされる東京の明治神宮外苑再開発事業について、事業採算の基本となる資料の一部を知ったので、忘れないうちにコメントを書く。
 2023年9月24日に岩見良太郎氏による公開ZOOMレクチャーがあった。岩見氏をわたしは知らないが、昨今の都市開発事業(たとえば土地区画整理事業や市街地再開発事業)について批判的な立場にあるらしい。神宮再開発について初めて登場した市街地再開発事業に関する専門家と言ってよいだろう。そのレクチャー内容についてわたしは論評しない。

 そのレクチャー資料の一部に事業資金計画等があり、この事業は市街地再開発事業一般としては権利者にとって大赤字の採算割れ事業であることを知った。ここで言う赤字とは、市街地再開発事業の中で権利者の収支が完結しないで、権利者たちが土地のほかに資金投入をして長期回収する必要があるという意味である。零細な権利者にはできない事業である。

 ここですこしだけ基本を解説する。都市再開発法の適用による市街地再開発事業の一般的な方法は、地権者たちが土地建物を持ち寄って、共同して新たなビルを建てる。そのうちの権利者たちの再開発前の資産に相当する床(権利床)部分を受け取り、その他の床(保留床)を第3者に売却する。この保留床売却金を建設事業費に充てることで、権利者は権利床を無償で取得することができる。(後日補足:なお、ここで無償と書いたが、実は事業の中で金銭支出しないで取得する意味であり、実際には保留床に対応する土地の売却金を権利床取得に充てる)

 これが市街地再開発事業の仕組みの基本であり、その建築規模が巨大になればなるほど保留床売却収入が大きくなり、事業採算性がよくなる。これが市街地再開発事業で建設する建築物がが巨大になる原因である。逆に言えば、だから事業に取り掛かる前に、事業区域の都市計画を変更して事業用地の容積率を上昇させておくのである。外苑再開発では再開発等促進区の地区計画がそれである。

 もちろん事業はそれぞれ事情が異なるから、この基本に忠実である必要はない。低層建築でも、赤字でも、権利者や事業関係者それぞれの判断である。金持ち権利者ならば保留床を他人に売らないで自分が買い取る投資をするだろうし、零細権利者ならば保留床を他へ売却できないならば事業を見合わせるだろう。

●事業費の7割は権利者たちの持ち出し

 では神宮外苑地区第1種個人施行市街地再開発事業(以後、「外苑再開発事業」という)の事業採算はどうか。
 結論から言えば、権利者たちにとっては採算割れが著しい大赤字事業である。何しろ権利者たちの持ち出しがものすごい。普通ならば事業をしないだろうが、金持ちばかりのメンバーだからできるのだろう。

この記事は岩見レク資料の内のここに引用した3件の表をもとに書いた

 全事業費は約3千5百億円(349,053,566千円)である。その全部を保留床処分金で賄うのだが、実はそのうちの7割近くは権利者たちが自己負担しており、非地権者で参加してきた三井不動産が負担するのは3割余である。つまり権利者たち(JSC、明治神宮、伊藤忠等)が、事業費の7割を持ち出しで行うのである。

 金持ちの民間事業者がどのような採算割れをする事業をやってもわたしには関係ないから、それらについては金銭的にはどうぞご勝手にというばかりである。
 せめて思うのは、通常の市街地再開発事業では国と都から多額の補助金が入ってくるものだが、この金持ち事業ではそれが一切ないのが、タックスペイヤーとしては幸いである。それは非都市計画の市街地再開発事業だからだが、それを選んだ権利者たちの金持ちぶりを表している。

ラグビー場建設にも新規巨額国費投入

 しかしJSCは文科省所管の特殊法人である。つまり国家機関であり、税金で運営している。わたしも納税者の端くれとしてひとこと言う権利があるので、その事業採算性についてコメントする。

 そのラグビー場の建設費用であるが、市街地再開発事業だから権利床として取得するので新たな支出はないものと思っていた。つまり第3者等床(多分、三井不動産と伊藤忠)に売却する保留処分金収入でラグビー場は建ち、新たな税金からの支出はないものと思っていた。最初に解説したように、それが市街地再開発事業の常識である。

 ところが岩見さんのレクチャーで見た資料によれば、ラグビー場の建設のためにJSCは、約540億円の支出をするのである。え、なんだこれは?、そもそもこのラグビー場建設を面倒な市街地再開発事業に仕立てるのは、保留床処分金を充てることで新たな支出を回避するためであると思っていたが、違ったか?、しないどころか540億円も支出するのである。

 ついでに書けば、明治神宮は新たに約240億円の支出(投資か)、伊藤忠は約1670億円の支出(投資)である。第3者の保留床取得者として登場する三井不動産の投資支出は約1070億円である。これら民間権利者がいくら投資支出しようとどうぞご自由にである。明治神宮は意外に金持ちなんだなあ、事業後の運営や三井からの地代で回収するのであろう。

 だが国有財産であるラグビー場については、約540億円も支出するのは合点がいかない。タックスペイヤーとしては、それだけの金を出すなら、現ラグビー場の改修費用の方が安いだろうに、とも思う。なんにしてもこの建て替えで約540億円の国民負担を必要とする。

●ラグビー場と野球場の土地交換について

 更に問題があることを見つけた。JSCはラグビー場を再開発前の位置から神宮第2球場の位置に移転して建てる。つまり外苑と土地の交換をすることになる。事業の仕組みとしては交換と言わないで権利変換というが、実は交換と同じである。当然のことに等価交換である。

 そしてこのレクチャーで新たに知った資料の中に、再開発前と後のそれぞれの土地面積があった。現ラグビー場の土地面積は41100㎡であるが、神宮第2球場がある位置に移ると43480㎡となり、事業後は2380㎡増加している。

 ところで事業前つまり現在のラグビー場の土地価格と、事業後の土地つまり現野球場の土地の価格を比べてみよう。正確には専門家による鑑定が必要だが、ここでは相続税路線価を比べてみる(ネットで知ることができる)。

 路線価を見ると、ラグビー場の前の道(外苑西通り)は2010千円/㎡である。一方、野球場の前は1490千円/㎡(国立競技場との間の道では960千円/㎡)である。これだけで土地総額は分からないが、両方の土地の単価の比は想像できる。現ラグビー場の土地は現野球場の土地よりも6割ほど高いのである。(当初3割と書いたが6割に修正した20231002、下図参照)


 ということは、現ラグビー場の土地が野球場の場所に移れば、いまよりも倍以上の広さになるはずである。だがこのレクチャーでの資料を見るとわずかに6パーセント弱の面積増加に過ぎない。とすればその差分の土地価額は建物建設費に変換(権利床)されるのであろうが、それでも建設費には届かないので約540億円の支出をすることになる(のであろう)。

 一方でに入れ替わって建つ神宮球場の移転先の土地(現ラグビー場の位置)は3割ほど面積が減るはずだが、そうはなっていない。減らすと野球場が入らないからそうはいかないのだろう。土地全体の広さは変わりようはないのだから、結果的には野球場(明治神宮)がラグビー場の土地(国有地)を買ったことになり、そのカネはラグビー場の建設費の一部になるのだろう。このような権利変換だろうが、要するに結果的にJSCは土地の一部を売ってラグビー場の建設費の一部に充てるのだ。

 この概略推測計算がどれほど正しいか自信ないが、どうもすっきりしない。権利変換計画書を見れば明確にわかるが、国有地処分にかかることだからいずれ公表するのだろう。

 高額な土地と安価な土地を交換するのだから、広すぎる土地の一部を売却すれば(一部転出補償金)、国民負担はないどころかうまくすればもうかるかもしれないとの、タックスぺーやーとしての考えは甘いのか
 市街地再開発事業だから権利者負担はないものと思いこんでいたのが間違い、ということになる。なぜ国民負担が必要な再開発なのか、もっと国民にとって採算をよくしてはどうか。

●JSCはもっとがんばれ

 JSCは権利交渉でもっと頑張ってもらい。自分が使う建築を自分で買い取り、つまり保留床買取をしなくてもよい方法にしなさいよ。せっかく市街地再開発事業に乗ったのだから常識的に行きましょうよ。
 全員同意型事業なのだから、権利変換で権利証として全取得できるように、三井不動産や明治神宮と談判交渉してほしい。このラグビー場建設事業を委託されているらしいUR都市機構には、再開発プロとしてもっとガンバレと言いたい。

 この再開発ができるようにした、つまり公園廃止をした原因者(元凶)であるJSCは、事業者の中で一番の貢献者であるのだから、もっと強い立場で権利交渉してはどうか。下世話に言えばゴネルのである、町場の再開発によくあるようにね、勿論冗談。
 JSCはこんな赤字再開発事業に乗った(乗せられた)のが間違いだったかもなあ、今のところで建て替えるか修復する方がよいのかもなあ。

 以上は、初めて見た基本資料だけで、年取った今も多少は覚えているプロ的な知識で考えたことであり、詳細なことを知らないヒマな老人のピンボケヒマツブシたわごとである。
 まだしばらくボケ進行遅延策に外苑再開発を利用することができそうで、うれしい。

(20230925記)

●最近の外苑再開発瓢論4部作(伊達の眼鏡ブログ)

2023/10/05・ラグビー場はPFI入札ダンピングで国費新規投入抑制か

2023/10/02・国立ラグビー場だけ大損の再開発にJSCは参加するな

2023/09/30・見世物スポーツのためにラグビー場に多額税金投入やめよ

2023/09/25・意外にもこの再開発に超多額の国民負担が必要と知った

●関連するわたしのブログ記事

【五輪外苑騒動】国立競技場改築騒動と神宮外苑再開発騒動瓢論集

2 件のコメント:

k さんのコメント...

すごい!勉強になりました。

ターリン さんのコメント...

ずっと読ませて頂いてますが、まだ??があります。
【保留床処分金】て、お金を”払わないと自分の物にならない”んでしょうか?
540億円?
私もてっきり”タダ”で作れないので80億円払うと思ってましたが、それは
”運営費で建設費を賄えない”からだと。
540億円の”つながり”がなんです。
頭悪くて・・・