昨023年9月10日の午後、横浜能楽堂で沖縄の組踊などを観た。このまえ組踊を見たのは2019年(「執心鐘入」と「道成寺」https://datey.blogspot.com/2019/02/1185.html)あったから4年ぶりである。野の能楽堂に来たのは6月の能「二人静」以来である。コロナが引いてようやく能楽堂も満員のようであった。
わたしが芸能を見るのは能との比較が目的だから組踊「万歳敵討」(ばんざいてぃちうち)さえ見ればよいのだが、その他に踊りや独唱もあった。初めて聴いた独唱は「二揚仲風節」(にあぎなかふうぶし)、歌い手は西江喜春というかなりの高齢者であったが、高音を使い分けて上手であったと思うがよく分からない。しかしちょっと能楽堂の屋根から異界のものが下りてくる気配を感じた。
組踊「万歳敵討」 |
「万歳敵討」は仇討ちものだが、プログラムに概要の筋が書いてあるものの、言葉をほとんど理解できなくて、字幕表示を欲しかった。能からの翻案ものならば、元の能を知っていれば類推できるのだが、それもないと会話場面の前場はお手上げである。
組踊の演技をどう観るのかもわからないが、とくに勉強する気にもならない。だが今回あらためて思ったのは、若い女や若い男の装束と顔の化粧である。若い女はともかくとしても、若い男(若衆)の女に近い衣装と顔化粧の、あまりに美しすぎることである。男と女の区別がほとんどつかない。なお、舞台上に居る人たちは、地謡(歌と音楽担当)には女性がいるが、役者はすべて男性である。
特に思ったのは、若衆の化粧の特別の美しさであ、あの化粧の目で舞台上から見つめられると、女性はボ~ッとするかも、いや男もそうかももしれない、なんて思っていて、突然に連想したのは今世間で妙に話題となっているジャニーズとかいう芸能タレント事務所の前社長(男性、故人)が、実はお抱え芸人少年専門の強姦魔であった事件である。
若衆徳牛節 若衆の扮装 |
要するに近世までは普通であった男色行為が、現代では不同意性行為として犯罪となった(はずの)事件である。芸能界では東西を限らずこの類のことがしょっちゅうある(あった)らしいが、わたしはTV観ず、週刊誌も読まず、芸もゲイも知らぬことばかり。
それで、もしかしたら組踊の役者たちもかつては、琉球貴人たちの男色の相手であったのかもしれないと、能の世阿弥のことに思い至り、ふと連想が働いた。
時代は14世紀、時の将軍・足利義満(弱冠16歳)があるとき能を観た時に演じた夜叉若(弱冠11歳)という美少年を気に入り、すぐさま側において寵童とした。これが後の世阿弥である。
そして世阿弥は時の独裁的権力者の庇護のもとにその天才を発揮して、いまにつづく能楽を大成させたのであった。他の能役者が一般的に貴人の男色の対象者であったどうか知らない。それが時代が近世になって武家の社会での衆道であり、町人の社会では歌舞伎役者や陰間がそうであったようだ。
そしし話が琉球沖縄に戻れば、その王府における芸能であった組踊は、近世初めに朝貢していた明国からの使者たちを接待するために日本の能を参考にして創作したのだから、その芸能者は男色相手であったかもしれない。これは類推である。
薩摩の侵攻によって支配を受けるようになった近世からは、薩摩からの支配者の接待があるとすれば、有名な薩摩の男色が持ち込まれたかもしれない。これも類推に過ぎない。
留意することは、日本では中世・近世において貴族支配階級においても町人階級でも男色は普通のことであったらしいのである。
中世の説話集「今昔物語」の諸所に男色の話が出てきて、これはなんだと思ったことがある。近世の「東海道中膝栗毛」にも弥次喜多コンビが実は男色コンビであることが出だしあたりに書いてあるの発見して驚いたこともある。
近世以前の日本では性に対する考えが、近代以後とは違っていたらしい。多分、近代になって外国から入ってきたキリスト教文化が男色を排除したのだろうか。
三島由紀夫や釈超空のそれを、わたしでも知るように語られるのはこの30年くらいの内か。
少年強姦事件の社長は、死ぬまでそれが犯罪とは思っていなかっただろう。どんな天才芸能者のを育てたのかしらないが、たぶん、現代の足利義満のつもりだったのだろう。
時代のもたらす人権と性に関する文化の変化がそれを犯罪に仕立てたが、その時は肝心の当人は死んでいて、これはある文化過渡期の矛盾現象なのだろうか。
それにしても能楽堂の舞台に現れた美少年(若衆=元服前))・美青年(二才=15~25歳男子)の化粧した舞台顔は、どれも同じように見えるのだが面ではなくて本物の顔だからそれなりに個性がある。能では能面があるから、そうはならない。
一方、わたしはTV見ないから事件被害者美少年たちを一人も知らないが、たまに新聞の広告面に美少年芸人集団公演とかで全員の並ぶ寫眞が登場するので、彼らなのだろう。
それがどれもこれも同じ髪形と目付きをしていて、なるほどこれが今流行りの顔なのか、そうか、見ようによれば美少女と紙一重の感、フムフム、これが現代の人気男の顔なのか、へえ~。
ネットで拾った芸人グループ写真 |
ついでに地球上世界のLGBTXへの容認度合いの地図がったのでのせておく。概してイスラム世界が不寛容らしい。
性的指向に関する世界地図(東京新聞20230910) |
話が組踊と関係ない方向になってしまった。(20230910記)
ーーーーーーーーー資料ーーーーーーーーー
●開館25年謝恩 横浜能楽堂「中締め」特別公演
第2回「琉球芸能600年」 2023年9月9日午後一時開演
【第1部】
王府おもろ「あおりやへが節」「しよりゑと節」 安仁屋眞昭
若衆踊「若衆特牛節」 佐喜眞一輝 知花令磨
二才踊「麾」 田口博章
組踊「万歳敵討」 謝名の子:東江裕吉、慶雲:新垣悟、高平良御鎖:川満香多、
高平良妻:佐辺良和、高平良娘:伊波心、列女1:佐喜眞一輝、列女2:髙井賢太郎
供1:金城真次、供2:上原崇弘
道行人:嘉手苅林一、 きやうちやこ持:下地心一郎
独唱「二揚仲風節」 西江喜春
女踊「瓦屋節」 田口博章
歌三線:西江喜春
地謡
歌三線:仲嶺伸吾、照喜名朝國、仲嶺良盛
箏:名嘉ヨシ子
笛:大湾清之
胡弓:森田夏子
太鼓:比嘉聰
ーーーーーーーーーーーー
●これまでの組踊鑑賞記録(まちもり散人著)
・怖く哀し女ストーカー「執心鐘入」と能「道成寺」2019/02/10
・琉球古典芸能の組踊をみて現代の沖縄問題考える2015/01/19
・横浜能楽堂で琉球のゆったり時間を過ごすぜいたく2011/06
●関連「趣味の能楽等鑑賞記録」(まちもり散人著)
0 件のコメント:
コメントを投稿