ラベル 五輪騒動 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 五輪騒動 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2016/01/18

1165【五輪騒動長屋談議】新国立競技場ザハ・ハディド案を素人首相が突然白紙撤回する判断を何故できたのか未だに分らない

熊五郎:こんちわ~、ご隠居。寒いですねえ。
ご隠居:おや熊さん、いらっしゃい。うん、ようやく冬らしくなってきたねえ。
:でね、また、例の新国立競技場のことなんですがね。
:またその話かい、もう飽きたねえ。AKB48に決まっちまったことだし。
:なんでAKBが出てくるんです?
:あ、ちがった、AKTだったな、梓・隈・大成チーム。
:な~んだ、でもねえ、ここまで来ても、ずっと腑に落ちないことがあるんですよ。
:そりゃ、まあ、質じゃなくて「安かろう、早かろう」って、ファストフード流決め方だったから、腑に落ちないねえ。

:いや、それもあるけど、ずっと前から気になってるのは、なんで安倍首相はいきなり白紙撤回って言い出したのかってことですよ。
:ああ、そうだな、例の第3者委員会報告も、どういうわけかこれにはアンタッチャブルで、どうして超高額工事費になったか、そればかりだったな。まあ、超高額になってボロクソに叩かれたので、安倍内閣人気挽回策だろう。
:でもねえ、ワンマン社長じゃないんですよ、どこかの独裁国じゃないんですよ、民主主義国の総理たるもの、そんなことエイヤッと言えないでしょ。誰か裏で知恵付ける人がいたに違いないと思うんですよ。
:そりゃ政治の世界だから、裏だらけだろうよ。

:だからその裏は誰なんだろうと思うんですよ。馬鹿でかいし、高度に技術的な建物でしょ、しかも設計は終わって、もう工事にかかってた。なのに、あっと言う間に白紙に戻して、またやり直しても安くなってしかもオリンピックに間に合うって判断、こんなこと素人の総理大臣にできっこないでしょ。
:もちろん技術官僚にも無理、ってことは、どこか大どころのゼネコンが安い早い案を作って、これならいけますよって、裏から首相に工作していたってことかい。
:まあ、そう言ってしまっては赤新聞になりますが、そうとしか考えられませんよね。
:そういえば、やり直しプロポーザルの条件に、工事費の上限を1550億円とするってあったけど、ゼネコンならできるな。
:カネメでここまで問題になってるんだから、イイカゲンな金額に設定はできない世の中の雰囲気でしたからね。それに工期だって絶対に伸ばせない。
:だとしたら、いったん設計してみないことにはカネメも工期も出せない、しかしそれをやるには膨大な時間とカネがかかる。

:ところがカネも時間もかけなくても、それをできる人たちがいたんですね、ザハ・ハディド案をもとに設計をして工事を始めていた企業ですよ。
:そう、そうだな、彼らならいちからやらなくても、現にやっている仕事をアレンジすればいいんだからね。それなら工事費1550億円以下で、工期も間に合うって見込みが立つ案を簡単に作れたはずだな。
:さて、ではそれを作って裏から首相に白紙撤回をさせたのは、いったい誰なんでしょうかねえ、それは、たぶん……。
:待った、それは言わない方がいいよ、赤新聞になっちまうからね。ここんところは小説にして書くしかないな。
:それにしても、はなから1550億円と分っての入札同然のゼネコンのプロポーザルなんて、要するに言い値でまかせたってことですかね。普通に入札にすればもっと安かったかも。
:とすると、3000億円なんて一時言ってたのは、マスコミに高い高いって言わせて世論誘導して、白紙撤回を正当化するための高等戦術だったのかなあ。
:で、プロポに応募したのも既にやってた企業たちでしたでしょ。
:う~む、そうだったな。当選企業は2度の支払い受けるんだ、しかも税金原資の。

:でもね、これでもなぜ白紙撤回したのか、本質は分かりませんね。高いってのなら設計変更して安くすればいいでしょうに、それじゃあザハ・ハディドが承知しなかったんですかねえ。でもJSCは説得できない、文科大臣もできない、しょうがないから首相を首切り役にしたんですかね。
:でもねえ、カネメだけでの首切りだったんだろうか。それに、一方的な首切りは揉めると分ってるよなあ、それでもやったのかね。現にザハ・ハディドは大成チーム計画は白紙になった自分の案の剽窃である、てなことを言ってるらしいよ。
:そうそう、そこんところは、日本では知的財産権について甘いからなあ。ネットには、大成チーム案とザハ案との似ている点を詳しく見せているサイトがあり、なんだか例のエンブレム騒ぎの感じですよ。
:大成チームの建築家の隈さんが記者会見して、いや似てないとか、同じ機能だからどうしても似てしまうとか、妙なこと言ってるよ。これまで日本人の当事者建築家が誰も表に顔を出さなかったけど、隈さんが初めてだな。
:まあ、大成も梓設計もザハ・ハディド案をとことん知っているので、新プロポーザルもその延長上にあるとでも思い、ついつい似てしまうったのかもなあ。隈さんじゃなくて、梓設計が出てきてしゃべるべきですよね。
:ザハ・ハディドってメンドクサイ建築家を首切ったのに、こんども隈研吾って有名建築家を入れたのはなぜなんだろ。
:へへ、クマのことはクマにおまかせを、、たぶん、隈って建築家は、ザハ・ハディドと違って柔軟な態度の人なんでしょうね、悪く言えばご都合主義でどうにでもなる。伊東豊雄も前のコンペに応募落選したら、槙さんの尻馬に乗って新案を提案したり、柔軟というか日和見な人ですね。

:なんでもイギリスのメディアによると、JSCはザハ・ハディドに残金をほしいなら知的財産権を放棄して以後文句を言うなって申し入れして、ザハ・ハディドがそれを拒否したらしいな。
:おやおや、あらかじめザハ・ハディドに因果を含めておいてから、白紙撤回をしたんじゃないんですねえ、甘いなあ。
:まあ、なんだねえ、こうやっていろいろ揉めると、こちとら庶民は何の関係もないから、ただただ面白がって知的娯楽になって、年寄りにはボケ進行遅延策になるし、これからもどんどん揉めてほしいよな。
:この一連の事件は、安倍内閣による高齢者福祉対策なんですよ、たぶん。
:それにしちゃ、金がかかり過ぎだよ、オリンピックも要らないから1兆円ほど、われら貧乏高齢者に直接支払してもらいたいなあ。

参照●五輪騒動:新国立競技場と外苑都市計画に関する論考集(まちもり散人)

2015/12/29

1160【五輪騒動】建築家はあれこれやかましいが都市計画家は新国立競技場や神宮外苑の都市計画に何にも言わないのは何故か

 すったもんだの末に新国立競技場の計画は、どうやら決まったようだ。こんどはうまくいくのだろうか。
 でも、以前にあったように、突然にワンマン宰相がでしゃばってきて、また白紙撤回って言い出すかもしれないから、まだまだ五輪騒動の楽しみは尽きない。

 建築に関する騒動はこうやって出直しになったが、そのもとになっている都市計画については、景観とか風致とか髙さとか、世の評判からさっぱりと忘れられてしまったらしい。
 今度きまった新国立競技場案によって都市計画を変更するのか、しないのかさえも分らない有様である。ザハ・ハディド案をもとにしてそれを実現するように決めた都市計画だから、普通ならば、こんどの大成・梓・隈組案によって決め直す変更をするのであろう。
 もしも、そのままで公園も地区計画も都市計画の変更をしないのなら、大成案はザハ・ハディド案を踏襲したことになる。模倣とまでは言わないにしても、オリジナリティがない案であることを証明するようなものだ。

 建築界がこれだけ騒いでいるのに(ピントハズレもあるが)、不思議なのは都市計画界が何にも言わないことである。
 わたしがこのブログでその方面を何度も挑発しているのだが、都市計画家のどなたも乗ってこない。無視されている。
 今回のような騒ぎには、都市計画家は無関係ではあるまい。区画整理事業を持ち込むとかニュースもあるから、当然に地区整備計画の変更だってあるだろうし、その未指定エリアに新指定も必要だろうが、それについてどうあるべきか、都市計画の誰も言わないのはどういうわけだろうか。
 それとも、わたしが知らないだけで、都市計画系の学会や協会などでは、論文や意見がでているのだろうか。
 
 雑誌『建築ジャーナル』から、この地区の都市計画ついての論考を求められたので、2015年12月号に寄稿した。下記にそれを載せておく。執筆日は2015年11月16日。
 
====『建築ジャーナル』誌 2015年12月号寄稿論考=====


新国立競技場と明治神宮外苑で
都市計画家は何をしてきたのか

伊達 美徳 (都市計画批評家)    

 都市計画家は
建築から都市までマネージする

 この新競技場建築計画に関しては、多様な問題が世間の話題になったが、要はその建築のあまりの巨大さへの批判である。
 では事業主の日本スポーツ振興センター(JSC)のもとでその巨大さを決める仕事をした専門家は誰であったか。新競技場の建築計画をまとめ、国際コンペの裏方を務め、実現のための都市計画案を策定し、東隣の神宮外苑も含む大規模な都市計画へと歩を進める役割をした都市計画家とその都市計画の抱える問題に目を向けよう。

 これまで新国立競技場について多くの建築家が登場したが、では都市計画家は誰なのか。有識者会議に都市計画家の岸井隆幸(日本大学)が名を連ねており、2012年11月決定の国際コンペの審査員でもあった。しかし、都市計画の実務作業をしたのは、その下に技術調査専門員としてついた都市計画家・関口太一(都市計画設計研究所)であった。

 JSCが関口が主宰する都市研に「国立霞ヶ丘競技場整備に係る基本計画策定等」の業務を発注したのは2012年4月だが、実際にはかなり前から作業していたであろう。
 その内容は、新国立競技場の建築計画、国際コンペ実施の裏方支援、それを実現させるための都市計画案づくりなど多岐にわたった。都市計画家・関口太一による基本計画の上に、建築家たちがあの巨大な新競技場の絵を描いたのであった。

 その基本計画をもとにして国際コンペによるザハ・ハディドの競技場案が生まれるのだが、巨大すぎて現在敷地におさまらない。だが、オリンピックの錦の御旗のもとに無理矢理はめこむとて、足りない敷地は隣地も公園も道路もとりこみ、厳しい都市計画規制の緩和措置も必要だ。これは都市計画の出番であり、都市計画家の仕事である。
 そして新競技場関連地区の都市計画の変更案や新設の地区計画の詳細案をつくる。

 これとは別に、東隣の神宮外苑に関しても計画が進められてきている。2003年に都市計画学者の伊藤滋を長とする委員会が「明治神宮外苑再整備構想調査」報告書をまとめた。
 外苑の出自に留意しつつ新時代の都市公園としてのあり方を構想しており、この都市計画家は今井孝之(都市設計研究所)である。

 これら東西ふたつの計画をひとつに合体した都市計画が、「神宮外苑地区地区計画」である。これはJSCを代表者として国、都、明治神宮、隣接民間企業等の土地所有者が共同で、東京都に都市計画法に基づく提案(2012/12)をして、受理した都が評価の上で都市計画決定(63.3ha、2013/06)をした。

 地区計画はそこに整備する建築をベースにした都市計画であるから、都市計画家は官と民の多数の関係者の建築計画をひとつの地区計画にまとめて、このプロジェクトの実現へのマネージメントをしてきたことになる。
消えた国立競技場の向うに東京都体育館が見える

都市計画公園指定の神宮外苑は
どのような姿で開園するのか

西側の"新競技場関連地区"の地区計画は具体的であり、ザハ・ハディド新競技場案と日本青年館・JSC新ビル計画案に合わせて高さ、容積率、用途の緩和がその内容である。
 高さ制限の緩和は、許可基準を変更して風致地区も高度地区も大幅に突き抜けた。これについて都市計画としても都市公園としても妥当か否か、総合的な検討があったのだろうか。

 東側の"神宮外苑関連地区"の地区計画は、大きく2分して、絵画館と銀杏並木のあるラケット型エリアは保全地区として、創建当初への復元を目指している。
 この保全地区を除く神宮球場等のある外苑と、外苑外のラグビー場及び企業用地等については再開発等促進区としている。企業用地が取り込まれた事情がわからないが、地区整備計画も未指定で詳細はいまだに不明である。

 しかし、外苑再開発地区の土地利用基本方針には、"既存スポーツ施設及び関連施設の更新・再編、新時代のスポーツニーズに対応した施設整備、神宮外苑の緑豊かな風格ある都市景観と調和、魅力的な賑わいの商業、文化、交流、業務機能の集積"とある。
 地権者たちのつくった地区計画企画提案書には、"見直し用途地域は商業地域、見直し容積率は現行の指定容積率に上乗せ設定"と、都市計画的にドラスティックな表現がある。

 一部に企業用地を含むからか、これでは何でもありの商業地再開発の意図で、神社境内だからとて縁日の見世物小屋や屋台店を常設の大規模商業ビルにして立ち並ばせるのか。
 地区計画は、開発構想計画に基づいてそれを実現するように定めるものだが、都市計画家はどのような絵を描いているのだろうか。既に地区計画指定しながらその構想図さえも非公表であるのが不可解である。

 忘れてならないのは、この神宮外苑には都市計画公園の指定があることだ。そもそも神宮外苑はかつて国家神道の国有地であり、戦後に宗教法人となった明治神宮に時価の半額で譲渡(約5.5億円、1956)したから、いわば半分は国民の財産である。
 であればこそ東京復興内環状緑地(1945)、都市計画公園(1957)、風致地区(1970)等の指定をして、都市公園という公共的施設への方向づけをしたのであろう。
 しかし、公園指定から半世紀を過ぎた今も未開園のままである。この機会にその歴史を踏まえた構想計画を練りあげて公表し、例えば特許公園としてでも、全面開園へと進めてほしいものである。

地区計画の区域設定が
都市計画として不可解である

 この地区計画区域には都市計画として不可解な点がいくつかある。都市計画家たちはどう考えたのだろうか。
 第1に、西側の事業が明確な新競技場地区と、東側の内容不確実な神宮外苑地区とは、実体的には無関係なのに同時にひとつの地区計画としたことだ。
 オリンピックで急ぐ官側の計画に、民が便乗したのか。

 第2に、霞ヶ丘都営住宅の廃止である。JSCが都に都市計画提案した時点では、東京都住宅マスタープランに霞ヶ丘都営住宅は"建替え等の事業実施が見込まれる特定促進地区に指定、公営住宅建替事業"との文言があるから、廃止する提案は上位計画との整合性に問題があった。
 この廃止が必要になった都市計画的理由は、移転する日本青年館・JSC新ビル用地(図の)が都市公園指定地であり、公園には建てられない建築用途だから公園指定を廃止、だが、都市公園法により公園面積の減少をできないので、都営住宅地を代替公園としたからであろう。
 オリンピック敗退第1号が公営住宅であるのが、いかにも居住政策のない日本らしい。
消滅させられる都営霞丘団地

 第3に、その南隣の民間共同住宅ビル(図の)は、盲腸のようにぶら下がり、都市計画的に何の脈略もない。
 ①及び都営住宅と一体再開発ならまだしも、私営の民間共同住宅ビル単独建て替えを規制緩和して優遇の一方で、都営の共同住宅ビルを消滅さてしまうとは、なんとも不公平かつ不可解である。
どういうわけか地区計画に入っている外苑ハウス
第4に、青山通り沿いの複数民有地(図の)には、既に大規模建築が大規模敷地に建ち並び、都市的整備済みであるのに再開発計画に含むのはなぜか。
 その一方で、外苑前交差点あたりの細分化した土地に鉛筆ビル群が並ぶ整備が必要な地区(図の)を除外しており、いずれも不可解である。
どういうわけか向うの大規模ビル群が再開発区域

 都市計画批評を試みるつもりが批判となってしまった。建築批評のように、専門家の間に都市計画批評が根づき、一般社会に広まることを期待している。
(写真は、このブログののために付加した)



参照●五輪騒動:新国立競技場と外苑都市計画に関する論考集(まちもり散人)

2015/12/24

1157【五輪騒動】当選案は〝早い安い不味い〟ファストフードスタジアムなんだ~!新国立競技場の審査採点結果一覧を見て分ったぞ

 寒さが迫ってきた東京へ、知人の展覧会を観にいったついでに、信濃町であった新国立競技場に関する、市民勉強会を覗いた。
 70人ほどが集まって、建築や運動競技の専門家を招いて、こんどの公募の結果に関しての自主勉強である。熱心なことで頭が下がる。

 わたしはオリンピックにも競技場そのものにも、ほとんど興味はないのだが、こういう場外乱闘には興味がある。JSCの発表を読むのがメンドクサイので、他人から聞こうとの魂胆である。

神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会 緊急勉強会 
原っぱ組の岡目八目・・・新国立競技場二案をどう読むか


 司会の方が見せてくださった、この一枚のAB両案の比較表が面白い。
 このたびの二つの応募案に対する、審査員たちの評価点を並べたのものである。こうやって点数をつけて、客観的(なふりして)評価をしたらしい。
 結果は合計点が多かったA組の勝ちだが、詳細を見るとこうなのであったらしい。

新国立競技場再公募2案の審査員による評価点一覧
工期短縮でブッチギリの差をつけてA組の勝ち

 勝ち点のほうに赤丸を、わたしが今ここでつけたのだが、要するに、「早い・安い・ヘタ」A組「遅い・髙い・うまい」B組ってわけである。
 これには笑ってしまった

 吉野家って牛丼ファストフード屋の宣伝文句が、「うまい やすい はやい」といったが、実体は「まずい やすい はやい」である。まさにそれである。思い出したが、糸井重里がこれをもじって「はやい、うまい、いとい、よろしく」と言っていた。
 B組は「うまい」だけじゃあ勝てなかったんだ。ワンマン宰相の白紙撤回騒ぎの結果が、「はやい、やすい、まずい、クマ」かよ~、

ファストフードスタジアム



 会は2時間もすすんで、年寄りは寝る時間が近づいたし建築家たちのお話にも飽きたので、中座して帰ろうと会場の外に出たら、司会者が追いかけてきて、何かしゃべって行けとのこと。
 建築のことじゃなくて都市計画のことでもよいかと聞くと、それで良いとて引き返して、10数分しゃべった。時間がなくてうまくしゃべれなかったのが残念、ここに発言要旨を書いておく。

=========

●発言要旨     2015/12/23            伊達美徳

 わたくしは、一介の都市建築ディレタントの都市徘徊人です。オリンピックにもラグビーにも、サッカーにも全く興味がありませんが、このような場外騒動には大いに興味があります。
 ザハ・ハディド案(コンペ応募案)が実現したら、この大嫌いな神宮外苑の国家権威主義的な景観をブチ壊してくれるだろうと、大いに期待していました。
 しかし今回きまったのは、ベランダで盆栽を楽しむ「名ばかりマンション」の広告の絵のような軟弱な姿のものとて、実に残念です。ワンマン宰相がまた白紙撤回を白紙撤回してくれることを期待しています。 

 都市計画の面から意見を申し上げます。
 まず最初に、世間に流布しているらしい、本件の都市計画に関する情報の間違いを指摘しておきます。
 ひとつは、神宮外苑の地が日本で最初の風致地区指定されたという風説が間違いであることです。1926年9月14日内務省告示第134号において、東京都市計画風致地区を指定しましたが、この場所は神宮外苑の中ではなく、その外の街でした。外苑も内苑も風致地区ではありませんでした。外苑の全部を風致地区指定したのは1970年のことです。内苑も同じです。

 もうひとつは、都市計画である地区計画を、コンペの結果を見て決めたのは、順序を間違っているという風評ですが、これも誤りです。
 地区計画は、その計画する地区の特性によって、どのような建築や景観を作り、守るかという具体的な計画を前提として、それが適切であり悪影響をもたらさないと評価したうえで、その具体的計画を確実に実現させるために、強制力を持つ都市計画によって担保するものです。異なる形の建築計画等を禁止していると言ってもよろしい。
 したがって、ザハ・ハディド案を的確な計画と評価したからこそ、それを実現するための地区計画を定めたのです。
 結果として、白紙撤回になったのは、的確な計画でなかったことになるのですが、それは都市計画のせいではなく、カネメのせいという奇妙なことでした。

 ということで、今回はザハ・ハディド案とは異なる、このA組の案が登場したのですから、その名のごとく、Aクラスの計画であると都市計画的に評価をして、その上でこれを的確に実現するための地区計画・再開発等促進区の地区整備計画に、変更をするべきでしょう。

 また、都市公園の都市計画変更も行うべきです。ザハ・ハディド案をムリヤリ納めるために、都市計画公園の明治公園・四季の庭を立体公園にするという、ウルトラCの奥の手の離れ業をやりました。今回それを元に戻すように、新国立競技場の外郭を調整し、変則極まる立体公園を廃止するべきでしょう。コンクリ床の上に、本物の森は育ちません。ついでに言えば、建築のバルコニーに森はできません、名ばかりの杜です。
 
 そして提案ですが、新国立競技場の敷地全部を、明治公園として新たに開園するべきでしょう。 
 もちろんそこにはこの地に適した樹種、つまり潜在自然植生種の樹木等の苗木を植えて、時間をかけて本物の森を作ることにしましょう。市民参加で植えると、かつての「勤労奉仕」ですね。
 神宮外苑も、東京都体育館も、ラグビー場もこのあたり全部が都市計画公園の明治公園なのです。ただし開園しているのはそのうちの1割ほどです。新国立競技場ができた暁には、開園公園をできるだけ広くしたいものです。

 都市計画に関しては、さらに国立競技場の南にある、都営住宅、三角公園、テニスコート跡地、外苑ハウス等のエリアについても、変更すべきでしょう。
 このことに関しては、ここでは時間的に述べきれませんので、わたくしのウェブサイト
に、提案を書いておきましたので、ご覧ください。

 たぶん新国立競技場とこのあたりを含めて、地区計画の変更、地区整備計画の変更と追加が、今後の都市計画手続きに乗ってくるはずです。東京都民は注意深くこれを監視して、手続きに積極的に参加しましょう。

 さらに今後の都市計画で大きな問題は、現段階では地区整備計画がないままに、地区計画の再開発等促進区に位置付けられている、神宮外苑とそれに隣接するラグビー場や青山通り沿いの民間ビルのある地区です。

 そもそも、地区計画の再開発促進区で、地区整備計画がないのが非常に不思議と、私は思っています。具体的な計画なしに、あるいはそれを見せないで、都市計画決定するのは、法的には違反しなくとも、なぜそれで再開発等促進区を定めるのか、行政当局、都市計画審議会、そして手続き中に何も意見書を出さない東京都民に、わたしは不審を抱くものです。

 この議案を審議した新宿区の都市計画審議会の議事録に、専門家の委員から、具体的な開発計画の絵がないから内容が分らないと、指摘されています。
 審議会にも構想図を見せていなのです。よくまあ、それで都計審は承認したものです。多分、無いのではなくて、隠しているのでしょう。

 これから、新国立競技場周辺と神宮外苑周辺の、地区整備計画が都市計画手続きに出されるでしょうから、東京都民はしっかりとそれをチェックされるように、神奈川県民のわたくしは要望しておきます。

 都市計画と並んで、都市公園のことも留意する必要があります。公園は都市計画法ではなくて都市公園法によって律するので、緩和の考え方が異なります。
 今後、都市計画公園の開園に向けての手続きがどう進むのか、もしかして明治公園計画を廃止とか縮小するのかもしれないから、それが決まってから騒ぐのでは、行政手続等の段階からしっかり見守る必要があります。

 以上、都市計画の面からのコメントでした。ご清聴を感謝します。
==========

 ということで、発言の機会をいただいた主催者にお礼を申しあげます。(つづく)

●五輪騒動:新国立競技場と外苑都市計画に関する論考集(まちもり散人)

2015/12/22

1156【五輪騒動】おやおや白紙撤回再公募新国立競技場案は、クマ組の勝ち、イトウ組の負けかよ

1155【五輪騒動からのつづき

●クマの勝ち、イトウの負けだってさ

熊五郎:ご隠居、てえヘンだ、決まりましたよッ、負けました~。
ご隠居:おや、熊さん、なんだよ、朝から騒々しい、。
:へへへ、あっしが負けましたよ、ほら、昨日の新国立競技場の賭けですよ、A組の勝ちですってよ、ほら、この新聞記事。
:どれどれ、おお、あたしゃA組に賭けたんだっけ、じゃあ、ラーメン奢っておくれ。
:しょうがないや。ご隠居がA組がいいっていうから賭けたのになあ。
:うん、わたしの好みとは違ったなあ。まあ、どっちでも、どうでもいいんだけどね。これで一番ほっとしてるのは建設業界だろうな。
:なんでです?
:あのね、壊した国立競技場は大成建設の施工だったし、白紙撤回されちまったザハ・ハディド案も大成が既に着工してたからね、業界常識的では大成がやるのが当たりまえなんだな。
:なーるほど、では、もしも単純に入札で決めたら、業界で談合して大成になるはずだったんですね。あ、プロポで既に談合があって、B組が負ける提案したかも、、。
:まさか、そこまでは言わないがね。
:でも、まだわかりませんよ、このまえだってワンマン宰相の一言で突然に白紙撤回になったんだから、こんども審査結果をお得意の解釈変更して、B案当選にするって言い出すかもしれませんよ。
:そうかもしれんなあ。そうなると面白いね。白紙撤回を撤回してザハ・ハディド案にする、とか。


●都市計画の変更はまず都市公園から

:ところで、これでまた都市計画の変更をするんでしょうかね。
:そうそう、それだよ、このあたりの今の都市計画は、ザハ・ハディド案を造ることを前提にして、都市公園を変更し、地区計画もそれに合わせて決めたんだよ。
:ということは、こんどはA案を造ることを前提にして都市計画変更するんでしょうねえ。
:この前の変更はかなり大慌てで決めたからか、いろいろ不可解なところもあるんだよ、だからこの際、再変更して決め直すべきだね。
:どこが不可解なんです?
:一つは都市公園の変更だな。このあたり一帯に明治公園という名の都市計画公園の計画蹴ってしてるんだな。その一部が開園しているんだけど、その四季の庭ってところがもろに新国立競技場の建物にひっかかるもんだから、無理やり変更して立体公園なんて、空中に持って行ったんだな。
:空中公園なんて、かっこいいでしょ。
:でもねえ、コンクリ床の上に木を植えたって育たないしなあ、渋谷川をコンクリ床の上を流すこともできないしなあ。
:で、こんどの変更で四季の庭を元にに戻そうってことですか。
:そうそう、どうせ変更するんだから、建物を寄せて立体公園をやめてもらいたいね。そしてね、わたしの新提案は、新国立競技場の敷地全部を四季の庭にして、開園すればいいと思うんだよ。
:おお、そうすればまさに「杜のスタジアム」になるなあ。ご隠居もケチ付けるだけじゃないんですね、時にはいいことも言う。
:年寄りをからかうもんじゃないよ、わたしだって真面目に面白がってるんだよ。そこでだな、わたしは役に立つかもしれない変更都市計画案を考えたんだよ。
:まったく大きなお世話ですね、何の関係もないし、オリンピックに興味ないって言ってるクセして。
:うん、そう、暇つぶしにだよ、この図をご覧よ、まず、さっき言ったように、新国立競技場敷地全部を「スタジアムの杜」って名の都市公園として開園するんだよ。どうだ、いいだろ。

(参考までに)現在の都市計画公園

上のように変更前の都市計画公園


●区画整理に合わせて地区整備計画を変更

:シャクだけど、いいですねえ。じゃあ、ついでにほかにも真面目な提案があるんですかね。
:おお、あるとも、ほら、この敷地の南側の都営住宅などのあるあたりの不可解さを何とかしたいね。
:そうそう、JSC・日本青年館新ビル建設のトバッチリで都営住宅が消されるってことと、外苑ハウスってマンションがどういうわけか都市計画に入ってるってことですね。
最近のニュースによると、そのあたりに土地区画整理事業をかけて整備をするらしいんだな。それなら当然のことに、ここらあたりも地区整備計画を変更しなくちゃならないよ。
:そうか、新国立競技場ばかりじゃなくて、なんにしても都市計画変更が要るんですね。それじゃあ、この前のようなドサクサまぎれ都市計画じゃなくて、きちんとやってもらいたいですね。
:そこでだな、上の図は、わたしが勝手に妄想する土地区画整理の案も画いてるよ。土地区画整理ったって、ここじゃあ土地の入れ替えだけだからね、ごらんのように、三角公園を復活、都営住宅用地の一部と財務省用地の入れ替え換地、建て替えする都営住宅用地の復活、外苑ハウス用地を外苑西通り沿いに換地、その跡地を街区公園にする、まあ、こんなところだね。
:財務省ってなんです?
:それは日本青年館が建ってた土地が財務省の土地なんだよ。青年館がJSC用地に移るから、跡地を都営住宅用地の一部と交換して新国立競技場の敷地にし、「スタジアムの杜」と名付けた明治公園の一部にする、という方法で、外苑西通り沿いに換地したらどうかってことだよ。
:へえ~、おかしいなあ、ご隠居は急に親切になったみたいですねえ、オリンピック敗者第1号の都営住宅が敗者復活、外苑ハウスも道路沿いに高層化、公園も必要なところに必要な大きさで復活、おお、こんないいこと提案して、頭は大丈夫ですかあ?
:うん、善良な年寄りになるとポックリ逝けるかもと思ってな、でもまあ、わたしは勝手に遊んでるだけだよ、誰からも何にも教えてもらってないよ。まあ、おかげでボケ進行が遅くなってるかもしれんなあ、一連のオリンピック騒動に感謝だよ、これからもいろいろ騒動があるといいなあ。
:さて、この次は何がありますかね?
:まだまだあるよ、イチャモンが、こんどは神宮外苑関係の不可解な都市計画問題だね。お楽しみに。(つづく

●五輪騒動:新国立競技場と外苑都市計画に関する論考集まちもり散人)



2015/12/21

1155【五輪騒動】もうすぐ「ザハ・ハディド案白紙撤回再公募新国立競技場案」が決定するらしいがスポーツトトカルチョやってるんだろうか

俗受けA組案対プロ好みB組案

熊五郎:ご隠居、出ましたよ、とうとう。
ご隠居:おや熊さん、いらっしゃい。出たかい、とうとう、ボーナスが。
:ボロ長屋に住む町場の大工にボーナス出るわけないでしょ、ホラ、新国立競技場の新案ですよ。
:ボロ長屋で悪かったな、そうかい、ザハ・ハディド案白紙撤回再公募新国立競技場案だな。
:そう、そのザ白再新国競ですよ、縮めても長すぎるなあ。
:再公募したらたったの2組だけ応募だったってな。
:これがその応募の2組の絵ですよ。これみてどうです、ご隠居。
:フム、このA組案がクマさんだな。
:いや、あっしは応募してませんよ。
:いや、お前さんじゃなくて隈さんだよ、大成・梓・隈がA組だな。で、こっちが竹中、清水、大林、、日本、伊東のB組だな。
:どうしてそうだと分るんですか、JSCは匿名で発表ですよ。
:うん、わたしは建築をみてケチ付けるのが趣味だからね、この絵を見ただけで、わかるんだよ。伊東と隈じゃあ、伊東がだんぜん上手くてプロ受けする、隈は下手くそだけど俗受けするって、これが定評なんだよ。これ見りゃそうだよ。
:へ~、こっちの緑が建物中に植わっているA組のほうが格好がいい、あっしはそう思いましたが、やっぱり俗人ですかねえ。
:これねえ、土のない建物に木を植えたって、管理に手間ばかりかかるだけなんだよ。こんなところで税金で盆栽遊びしないでもらいたいね。
:あ、そうだ、これってプラスチックで作った樹木ですよ、きっと、今じゃあ見ただけで本物と区別できませんよ、それなら管理費がかからない。
:ケッ、まあB組案だって、列柱の回廊をめぐらして、ナチかファッショ建築かねえ。
:ケッ、ケチ付けりゃいいてもんじゃないでしょ。で、どっちがいいんです?
:まあ、どっちかと言えば、B組案だなあ。どっちでもいいんだよ、あたしゃ、オリピックもサッカーもラグビーも興味ないんだから。それにここは神社境内だよ、縁日には見世物小屋やら屋台やら神楽やら百鬼夜行の風景が出現するところだから、なんでもいいんだよ。ま、正確には境内じゃないけど、昔はそうだったんだよ。

●日本的建築を求められたらしい

:今回の公募には、日本的なデザインを求めたらしいですよ。
:だからかい、B組は法隆寺とか唐招提寺とかの列柱と大庇をイメージしたのかねえ、どこかクサイよなあ。日本的なものを求めるって、なんだか大昔のコンペにもそんなことあったなあ。
:そうそう、有名なのが国立博物館でしょ。
:そう、当時は帝室博物館だったな、瓦屋根を載せたのが当選したよ。その頃からなんだかんだと大きな公共建築には瓦屋根が流行ったもんだよ、帝国主義の冠をいただくので帝冠様式って言われたもんだよ。
:でも、新国立競技場の隣りの絵画館は、帝国主義の象徴だった明治天皇を記念しているのに、瓦屋根が載ってませんね。
:それはだな、神宮内苑が和の帝国主義なら、外苑は洋のそれというコンセプトだったからだよ。内苑は日本の神として森の奥深くに祀り、外苑は西洋式帝王として衆人に見せるように祀ったんだよ。
:そうか、和と洋の二つの権威主義景観を作ったんですね。
:そういや、いつだったか二人でこんな和のデザインを造ったよな。
:そうそう、なんてったって明治神宮本殿の屋根なんですからね。
:庶民がお好みの銀杏並木から絵画館への風景全部が、日本帝国主義を象徴する作りこんだ西洋流の帝冠洋式なんだね。わたしはそれが嫌いでねえ、だからザハ・ハディド案の新国立競技場が、20世紀半ばまで日本を支配した国家主義の風景をぶち壊してくれるって期待してたんだよ。惜しかったよなあ。
:こんどの両案とも、そのインパクトにはかけてるんですね。
:ザハ・ハディドのコンペ応募案をどこか別のところで建てるってプロジェクトがあるといいなあ、例えば皇居前広場とかでね。

●神宮外苑も内苑のような森にするなら

:神宮の森っていうけど、内苑はともかくとしても、外苑は森じゃなくてベルサイユ宮殿みたいに帝王のための西洋式庭園なんですね。
:そうだよ、森に見えるのは幅の狭い境界保全林だよ。
:あ、そうだ、今空き地になっている国立競技場跡地に植林したら、これは森になりますね。
:そう提唱している人たちがいるね。内苑の森はいかにも日本の自然林のように見えるけど、全国から集めた多様な樹種を植栽したので、生態学的にはバイアスがかかっていて、この地にふさわしい本物の森じゃないんだね。こちらに植林するならこの地の潜在自然植生種の樹木を植えると、20年もすると本物の森になるね。
:じゃあ、こうしましょうよ、新国立競技場がA,Bどっちになるにしても、その建物の周りの敷地を、その生態学的に本物の森にしましょうよ。昔、全国から青年団が勤労奉仕したみたいに、苗木を市民参加で植えるんですよ、ほら、いま東北の海岸部で緑の防波堤をやってるみたいに。
:思い出したけど、ずっと前にこんな森の案を考えたことがあったな
:そうそう、パロディ戯作ですがね(⇒こちらを参照
:そうだな、ついでに新国立競技場の建設費用も、オリンピック好きな人たちや、外苑景観の好きな人たちの寄付でやったらどうかね。昔々、神宮外苑はそうやって作ったんだからね。もっとも、全国各地に割り当てだったらしいがね。とにかく、あたしの払う税金で、なんの関係もないものを作られてはたまんないよ。
:もうすぐ、A組かB組かの審査の結果と、それを審議する閣議とかで、どっちか決めるらしいですよ。さあ、どっちが勝つか、賭けましょうか。
:よし、なにを賭けようか、そうだ、負けたらラーメンを奢るってどうだい。
:ケッ、1500億円の事業にラーメン一杯ですか?
:それくらいしか賭ける価値がない事業だって意味なんだよ。
:しょうがない、じゃあ、あっしはB組に賭けます。
:さっきと違うだろ、熊は隈に賭けるんじゃないのかい、うむ、やられたな、しょうがない、わたしはA組だ。
:あっ、ちょっと待ってくださいよ、引き分けって場合もあるでしょ。ほら、同点で優劣着け難いから、両方とも合格ってね。
:おいおい、それにも賭けるのかい。じゃあ。八五郎をそれに賭けさせよう。で、そりゃどんな格好になるんだい。
:はい、ごらんのとおり、左右真半分で。(つづく


●五輪騒動:新国立競技場と外苑都市計画に関する論考集まちもり散人)

2015/12/16

1153【五輪騒動】オリンピックで大急ぎ新国立競技場ドサクサまぎれ都市計画にチャッカリ便乗した周辺開発イイカゲン都市計画

   1152【五輪騒動】より続く

●霞丘都営住宅廃止の不可解

 明治公園ことで前々から気になっていたのは、霞ヶ丘都営住宅地を新たに明治公園にしたのは、なぜなのだろうか、ということである。
 国立競技場の敷地に明治公園の「霞丘広場」を取り込んだので、開園している明治公園面積が減る、その代りに都営住宅敷地を公園にした、ということなのだろうと、単純に思っていたのだが、よく考えるとどうも、それがオカシイのだ。

 オカシイからとて、東京都の都市計画部局のどたかに教えを乞うのも、何の関係もないわたしでは気がひけるし、聞くのもシャクだから、ヒマにまかせて図面をにらみつつ考えてみたのだ。
 それで分ったかというと、よく分からないし、関連してもっと不可解なことも発見して、余計に分らなくなった。まあヒマだから、ナンダカンダと考えたこと書く。
 
 前に述べたように、霞丘広場も日本青年館も敷地にとりこんだ国立競技場の全部を、明治公園として開園すれば、霞丘広場の代替地は不要なのである。それをしないで、わざわざ都営住宅敷地を公園代替地にしたのは何故か。
 東京都は霞丘都営住宅を潰したかったのか。しかし、東京都の住宅マスタープランには、建て替え事業をここでやると書いてあったのだから、それもおかしい。

●都営住宅廃止はJSC・日本青年館新ビルのトバッチリか
 
 どうも、霞丘都営住宅は、近くに移転してくるJSC本部ビルと日本青年館のトバッチリを食らって、あえなく廃止という犠牲になった様な気がする。
 JSC・青年館新ビルの敷地は、都営住宅のすぐ南東の外苑西テニスコートがあった、JSCの土地である。ここに新ビルを合築するとて、すでに工事中である。
都営住宅、外苑ハウス、JSC/青年館新ビルあたり
黄色線内は地区計画の範囲

外苑地区計画全体図

明治公園指定区域全体図

このテニスコート敷地も国立競技場や外苑などと同じく、都市計画公園の指定をしている土地であったが、例の立体公園を決める時に一緒に、この土地を都市計画公園から除外する変更を行った。
 それはなぜか、たぶん、こうだろう。JSC・青年館新ビルは都市公園法からすると、都市公園内には立地できない施設である。将来、ここも明治公園として開園するとなったら違反建築で取り壊しになるおそれがある、あるいは知っていながら既存不適格建築を文科省が建てるわけにはいかないと思ったのか。だから公園を廃止した。
 
 ところが、この廃止をしたままだと、都市公園指定の面積が減少するのだが、都市公園法第16条で、廃止の時は代替公園をつくるように決めている。そこで代替の公園用地として、霞丘都営住宅をそれに充てる都市計画変更したのである(のだろう)。

 つまり、このわたしの妄想が事実ならば、都営住宅はJSC・青年館新ビルの犠牲、そのもとは新国立競技場の犠牲、そのもとは東京2020オリンピック・パラリンピックの犠牲になったのだ。
 オリンピック敗退者の第1号が、公営住宅であるってところが、なんとも住宅政策のない日本の象徴的な事件である。

●都営住宅と外苑ハウスの不可解かつ不公平

 このたびのプロポ案のグランドレベルの図面を見ると、霞丘広場と日本青年館を取りこんで、競技場の前庭は十分に広いように見える。都営住宅跡地にできる公園に、わざわざデッキまで掛けて渡る理由が、どこにあるのだろうか。
 都営住宅を新霞丘広場にしなくとも、一向に問題がないように思えるのだ。元に戻しなさいよ。
 まあ、でも、そうして元に戻したら、JSC・青年館新ビル用地を公園に戻さなければならないから、困るだろうなあ。

 そこで、このあたりの地区計画の図面をにらんでいたら、妙なことに気がついた。霞丘都営住宅の南隣に外苑ハウスなる共同住宅ビルがあり、これが地区計画区域に入っているのである(ここを公園指定すればいいかな)。
 このあたりで新国立競技場とは何の関係もない民有地である。地形もゲリマンダーのシッポのように飛び出しているし、まわりは地区整備計画があるのに、ここだけが方針のみである。

 ここを地区計画区域に取りいれ、しかも再開発等促進区としているのだが、地区整備計画がないからその開発内容が分らない。
 一つの敷地の一棟のビルを都市計画として独立的に定める、しかも緩和型にするのは何故か。こういう都市計画がありうるのか、ヘンでしょ。

 都営住宅はあえなく廃止、こちら単独民間共同住宅は容積や高さ緩和して再建築とは、不公平かつ不可解である。 
 
●総合的な再開発計画があるなら地区計画決定の時に出せ

 最近のマスメディアの報道によれば、このあたりを土地区画整理事業を行う予定があるとのことである。
 その範囲がわからないが、国立競技場、日本青年館、都営住宅、JSC・青年館新ビル用地、外苑ハウス等をその区域として、土地や道路・公園の入れ替えや整形を行うのだろうか。

 そうやって総合的に再開発を進めて、明治公園も新たに開園し、都営住宅も外苑ハウスも建て替えをし、JSC・青年館ビルもそれらと一体の景観の中で建てなおすのなら、どのような姿になるかわからないにしても、まあ、理解できなくもない。
 でも、それならそうと、地区計画決定の時にそれを組み込むべきである。そもそも再開発等促進区は、そのような具体的な再開発計画がないままに定めるべきではない都市計画なのだ。

 周辺に影響が大きい緩和型地区計画の再開発促進区を、方針だけで指定するのはあまりに安易な都市計画である。
 それは、外苑地区地区計画全般について言えることだ。どうもオリンピックで大急ぎの新国立競技場ドサクサまぎれにチャッカリ便乗して、内容が決まってもいない外苑ハウスばかりか神宮外苑や隣接民有地までもイイカゲン地区計画に取り込んだ気配が濃厚である。
 提案書を作った都市計画家、審査して計画書を作った都や区の行政の都市計画家、それを審議した都市計画審議会の都市計画家、どいつもこいつも恥ずかしくないのかい? (うわ、言いすぎか、天に唾か)

 じっと地区計画の図面をにらんでいると、なんともはや外苑地区地区計画全体が不可解なことがたくさんあるのだ。(つづく)

●五輪騒動:新国立競技場と外苑都市計画に関する論考集(まちもり散人)



2015/12/15

1152【五輪騒動】やり直し新国立競技場プロポーザル2案を勝手に審査、イトウに軍配、クマの負けだよ

●やっぱりクマよりイトウの方が数段うまいなあ

 突然、ワンマン宰相による白紙撤回指示で、振り出しにもどった新国立競技場地競技場計画の、やりなおしコンペ(正確にはプロポーザル)による応募案が公開された。
 噂通りのたったの2案応募、しかも応募者のうちの大半が、白紙撤回前の計画に携わっていたんだから、他のものでは手を出しようがないどうにも変なコンペである。


 提案書を全部見るのがめんどくさいから、図だけを見て、ここで勝手に審査をすることにした。
 結論を先に書く。ジャジャ~ン、当選は「B組」です。
 B組とは、公開文書では隠してあるけど、提案者名は、竹中工務店、清水建設、大林組、梓設計、伊東豊雄(あるいは伊東豊雄建設計事務所)である。
 ついでに、勝手審査落選のA組の提案者名は、大成建設、日本設計、隈研吾(あるいは隈研吾都市建築設計事務所)である。

 思い出したが、伊東豊雄って国際コンペに応募して落選、槙文彦の後にくっついてザハ・ハディド案反対の言説やら新案提示、そして今度はまた新案提案、ふ~む、今回は最初のコンペ応募案と同じなんだろうなあ、同じじゃない、また違うん案だとしたら、なんだか節操がない人だよなあ、デザインはうまいけど、。

●権威に頼る応募者たち

 どっちも優秀な建築家を抱える大手の設計事務所がいるのに、デザインアーキテクトにどっちも東大教授を起用しているところが、なんとなく権威に頼ろうって雰囲気が見えて、気にくわない。
 国立大学教授がこんなところでアルバイトやっていいのかい。
 ま、両教授の腕前競争になったが、これまでの両者の建築から予想したとおりに、伊東の腕前には、隈はとてもかなわないってことを再確認したようなものである。

 これらの応募者のうちの大半が、かつてザハ・ハディド案の実施設計や工事アドバイスなどやっていたから、両チームとも内容は熟知しているので、細かく見るヒマはあるが面倒だから見ないことにしても、たぶん、機能的には全く同じものであろう。
 違いは、外観と周辺環境対応のデザインである。

 わたしが観るっところでは、どちらもB案のほうが優秀である。
 ここでは外観についてはあまり論及しないが(世の人々があれこれ言いいたいだろうから)、A案の森のスタジアムとて、建築に木を生やすなんて、子どもっぽい絵には笑ってしまう。建築家の森への認識って、この程度のものなんだよなあ。
 ま、M2から続く隈流のポピュリズムデザインであるが、機能的にはこういうニセモノは森とは言わない、盆栽である。手間ばかりかかる。

 B案のもつ、ある種の様式性が、記念的な意味を持つスタジアムにふさわしい。白い帽子の鍔が広がり過ぎだが、貴婦人を気取ったか。
 なお、念の為にまた書いておくが、わたしはザハ・ハディド案に反対ではないし、期待もしていた。明治神宮外苑の持つ20世紀半ばまで日本を支配した国家主義的な景観を、これでぶち壊してくれるはずだったのだ。
 その意味ではA案はどうしようもないし、B案にも不満を持つしかないのである。

●都市計画公園への対応をどう考えるのか
外苑地区地区計画
明治公園全体像


明治公園の都市計画変更
立体公園部の右側カーブはザハ・ハディド案をなぞっている


 出直しになって、わたしがいちばん期待していたことは、都市計画的対応である。
 とくに都市公園の明治公園を、ザハ・ハディド案に合わせるために、一部を大幅にいじめる立体公園に都市計画変更したことに対して、出直し案がそれをどう修正するか、ということである。
 いじめた内容は、「四季の庭」の部分を、渋谷川も流れず、草木も繁茂しないコンクリ床の空中庭園にしたことである。

 要するにザハ・ハディド案の建築の幅が広すぎるので、四季の庭にはみ出すのだが、なにがなんでもと言われるもんだから、都市公園の下に潜り込ませて、公園を空中に持ち上げたのである。しかも道路の上まで含む空中に持ち上げたのだから、姑息極まりない。
 なお、国立競技場敷地も都市公園指定範囲であるから、都市公園そのものの面積は減少してはいない。空中という妙なところに一部移転したのである。

 さて、この立体公園を、A,B両案はどう扱ったか。平面図と断面図だけで判断する。
 A案は、グランドレベルの四季の庭をつぶして、屋上に空中公園をもうけているから、ザハ・ハディド案の通りである。渋谷川を描いているが、姑息である。
 B案は、現在の都市計画決定の立体公園の位置を避けて、本体建築をしている。つまち立体公園でなくてもよいのである。それでも立体公園だからとて、下がピロティになった空中デッキを、建築本体とは別にわざわざつくっているのが奇妙だが、こんなものは不要である。
もう少しうまく配置を考え直すと、四季の庭を復活できそうである。
 だからこれは、B案のブッチギリ勝ち(のように見える)。

 そもそも、立体公園にしたのは、ザハ・ハディド案をなにがなんでも実現せよとの、オリンピック筋から脅迫されて(多分)、しょうがないからドサクサ、ムリヤリ考え出した方法である。
 こんどは白紙出直し案がでたのだから、それに合わせて都市公園の変更も白紙見直しするべきである。それは渋谷川の四季の庭の復元である。そうなるように、新計画を調整するべきである。
 ドサクサムリヤリ都市計画なんて、プロとして恥ずかしいだろ。

●国立競技場を明治公園として拡大開園を

 この明治公園であるが、そもそも東京都体育館、国立競技場、明治神宮外苑まで、このあたり一帯全部が都市計画決定している明治公園である。
 都体育館まわり、四季の庭、霞丘広場が開園しているが、そのほかは未開園で、開園面積は指定面積の1割程度である。
 だから国立競技場も未開園だが、じつは明治公園の一部なのである。

 今回の新提案を見る限りでは、両案とも周囲に広い緑地を計画しているから、この際、ここも明治公園として開園すればよいのである。明治公園の開園区域の拡大である。
 東京都体育館の敷地のように、国立競技場の建築だけを避けて(その理由は都市公園法の建蔽率制限対応のため)、ここの敷地の全部を明治公園として開業するのだ。
 立体公園なんて、草木も生えないような姑息なことをお止めなさいよ。そうしたのはオリンピック開催という恐喝にあって、ムリヤリだったんでしょ。

 新国立競技場敷地を明治公園として開園すれば、霞丘都営住宅用地を霞丘広場の代わりの明治公園にしなくても良いはずである。
 それなのに都営住宅を廃止してまで公園にした理由が、不可解極まるのである。地区計画図を見ながら考えていたら、その不可解さの原因が分かった。つづく
 

●五輪騒動:新国立競技場と外苑都市計画に関する論考集

2015/11/29

1149【五輪騒動】明治神宮外苑はドサクサ新国立競技場大急ぎ都市計画変更に便乗して何をやる気なのか

●開発構想図を見ないで審議する都市計画審議会の能力は

『全体の構想というようなものを前提となっている(はずだから)、それを示していただいて、ゆえに地区計画が必要なんだということをお示ししていただく必要があるのかなと。いきなり地区計画(図書が)が出てきても何でこうなるのかという話にどうしてもなってしまう…』(2013年2月158回新宿区都市計画審議会議事録より、括弧内は引用者補足)。

 これは委員の都市計画家・倉田直道さん(工学院大学)の発言である。専門家でも都市計画手続き用の図書だけではわからない、審議できないという。
 その次の159回新宿都計審の議事録を見ると、これに応えて出した絵は国立競技場とJSCビルの予想図であったらしい。倉田さんが求めたのは地区計画区域全体構想の絵、つまり外苑も含めての全体構想図であるが、それは出ないままだったようだ。
 構想図が無いままに審議した都市計画審議会の委員たちの能力は、すごいものだと思う。また、東京都の行政職の都市計画家の能力にも敬服するばかりである。わたしだったら、到底不可能であった。
 ではそのようなものは、存在しないのだろうか。

●再開発等促進区地区計画は開発構想図が元になるはずなのに

 地区計画はミクロの都市計画であり、具体的にどのような姿にするのかを構想し、それが都市計画として正しい方向であると市民も行政も認めて、的確に実現にむけて誘導するために定める都市計画である。
 特に再開発等促進区では、土地利用を開発方向に、つまり規制を緩和する方向に変更するから、その土地利用と建築計画に関して具体的なイメージがないままに定めることはできない。緩和したことでどのような影響が出るのか、知っておいてこそこの地区計画の適用か不適用が分るものだ。

 地区整備計画でそれを詳細に示すとしても、基本方針段階においても構想図がないままに地区計画の文言書くことは事務的にはできても、それでは内容が余りにいい加減な都市計画である。
 この件の東京都都市計画審議会では、新宿区都計審での倉田発言のような意見は無いまま、ほぼなにも審議しないままに原案通りに可決したのはどういうわけなのだろうか。
 結論を言うと、無いのではなくて、あっても見せないのに違いない。見せないとなると、なにか後ろ暗いことがあるのかもしれない、と思うよ、へそ曲がりのわたしはね、、。
着色範囲が地区計画指定範囲。
紫色の民有地がなぜ含まれるのか不可解。
詳細指定の新国立競技場関連エリアと、
詳細未指定の外苑等民有地エリアが、
再開発等促進区地区計画を同時決定したのが不可解。

●国立競技場と神宮外苑がひとつの地区計画なのはなぜか

 そもそも、新国立競技場の地区計画と、神宮外苑の地区計画とは、実体的には関係がないのだ。だって、土地の入れ替えがあるわけじゃなし、容積率の移転があるわけじゃなし、たまたま隣合せているに過ぎない。
 競技場側では建築、敷地、公園、道路などの具体的な姿が提示されて、都市計画的変更内容が明確になっているのに、外苑側は基本方針の文言と区域割の図だけで、なにをやるのか何も具体的な絵が示されない。それを同時に都市計画決定なんて、不可解である。

 それらをひとつの地区計画にして、しかも同時に定めたのは何故か。
 オリンピック会期に追われている国と都の側(図の水色)の大急ぎの都市計画手続きに、民間側の外苑(図の緑色)や民有地(図の紫色)が開発計画も決まらないのに、ドサクサまぎれにチャッカリ便乗したとしか思えない

 ここで再開発等促進区さえを通しておけば、内容は後の地区整備計画でなんとでもなる、うるさい市民の眼は競技場に向いている今がチャンスだ、ということだったのだろうか。なぜ再開発等促進区なのか、そもそものこの制度の出自に照らしても、一向に理解できない。
 現に、新国立競技場については、世間がゴタゴタ言ったけれども、外苑側の都市計画については、誰もなにも言っていない。うまいことすり抜けたものである。
 外苑の将来がどんな姿になるのか知らないが、わたしが言いたいのは、こんないい加減な再開発等促進区の決め方は、都市計画として実に不可解であるということだ。

●『建築ジャーナル』誌に外苑都市計画の不可解さを寄稿した

 他にもいろいろ不可解なことがあるので、雑誌『建築ジャーナル』2015年12月号に寄稿したので、お読みください。

 寄稿小論の表題は「新国立競技場と明治神宮外苑で都市計画家は何をしてきたのか
 前置きはこうである。
この新競技場建築計画に関しては、多様な問題が世間の話題になったが、要はその建築のあまりの巨大さへの批判である。 では事業主の日本スポーツ振興センター(JSC)のもとでその巨大さを決める仕事をした専門家は誰であったか。新競技場の建築計画をまとめ、国際コンペの裏方を務め、実現のための都市計画案を策定し、東隣の神宮外苑も含む大規模な都市計画へと歩を進める役割をした都市計画家とその都市計画の抱える問題に目を向けよう。

 本文をここに載せたら雑誌が売れなくなるから、小見出しだけを書く。
・都市計画家は建築から都市までマネージする
・都市計画公園指定の神宮外苑はどのような姿で開園するのか
・地区計画の区域設定が都市計画として不可解である

●参照
『建築ジャーナル』 

参照
◆【五輪騒動】新国立競技場建設と神宮外苑再開発瓢論集


2015/11/06

1144【神宮外苑あたり徘徊③】なんだか懐かしい風景の霞ヶ丘都営住宅団地を消滅させる外苑都市計画提案は実は都住宅マスタープランに背反していたのでは?


●どこか懐かしい風景の霞ヶ丘都営住宅団地へ

 銀杏並木から消えた国立競技場そしてと体育館へと歩いてきて、消えた明治公園四季の庭に沿って外苑西通りを南へ、半分消えた明治公園霞が丘広場、そして霞ヶ丘都営住宅へとやってきた。

 この都営住宅はまだ建っているが、いずれ新国立競技場のトバッチリを受けて、消える運命にある。トバッチリ組の霞ヶ丘広場がここに移ってくるからである。都営住宅を地区内のどこかに建てるのかと思ったら、完全に消えるらしい

 なんとも懐かしい団地風景である。5階建てだけどエレベーターがなくて、階段で上り下りする。給水塔があるのも懐かしい。わたしは1970年代に10年ほど、このような団地に住んでいたことがある。
 庭には今、たくさんの果樹があり、柿やミカンや柚子等がたわわに熟している。いまどきのキレイに刈り込んだ造園ではなくて、草も繁っているのだが、なにやら懐かしく成熟感がある。


●建て替えられた北青山都営住宅団地

 実はここによる前に、外苑銀杏並木の東隣にある北青山1丁目都営住宅に寄ってきたのだ。
 そこはかつてはここと同じような低層棟が建ち並んでいたのだが、いまは高層住宅に建て替えられている。
 その周りはここと違って、いかにも造園デザインの風景で、キチンとしているのである。いまどきで言う高級マンションのようだ。立地条件も高級住宅地並である。
北青山1丁目都営住宅

 霞ヶ丘都営住宅だって、ほとんど同じ立地条件である。建て替えすれば、暮らしやすい良い住宅になるだろうに、なぜトバッチリで消滅させるのだろうか。
 代替の都営住宅として、JSC・日本青年館ビルに高層都営住宅を併設したってよさそうなものを、もったいないと思う。

 いま、空き家問題やマンション問題が起きている。大災害で住宅難民が大量に出ることが予想されている。東北地方では大震災後に大慌てで大量の公営住宅を建てている。
 そういうことから分るように、いまこそ公的賃貸住宅が重要な時なのである。遊びの場の競技場のトバッチリで、こんな良い立地の公的住宅が消えるなんて、なんともやりきれない。

●霞ヶ丘団地を消す地区計画提案は都マスタープラン違反

 そこでちょっと調べてみた。東京都や新宿区には都市マスタープランとか住宅マスタープランとか呼ばれる、まちづくりの基本計画がある。そこにこの霞ヶ丘住宅のことをどう書いてあるか。
 外苑地区計画を提案したときの書類「地区計画企画提案書」に引用してある「東京都住宅マスタープラン」には、「霞ヶ丘地区の都営住宅建て替え事業が特定促進地区として指定」と書いてある。新宿区の都市マスタープランにも同じことが書いてある。
 そして引用の図には『「低中層個別改善地区」地区の特色を考慮した良好な住環境へと改善するために地区計画等を活用して整備する』と記入がある。
 つまり霞ヶ丘団地も、北青山団地のように、建て替えをすることに決めてあったのだった。

ということは、ここの地区計画を提案内容には、もちろん霞ヶ丘都営住宅が競技場のトバッチリで消えるようになっているから、これは上位計画に背反している提案である。
 う~む、それを受け取った東京都は、自分のところで作ったマスタープランと違う内容なのに受理したのであったか。
 受けとってからマスタープランを変更したのかしら、行政裁量として適切だろうか。

参照
◆【五輪騒動】新国立競技場建設と神宮外苑再開発瓢論集

2015/11/04

1143【神宮外苑あたり徘徊②】今日は祭神の誕生日の明治節、神社境内の外苑は祭礼の見世物小屋群で賑わっている

●自然を無理に仕立てる銀杏並木

 神宮外苑を訪れたのは、一昨年の秋に来て以来だ。また同じことを書きそうだが、あの時と違うのは、国立競技場が消えたことである。
 正面ゲートの青山通りから銀杏並木を入っていく。東京は暖かいから、未だ並木の銀杏は黄葉を迎えていない。
 葉張りが隙間があり過ぎるし、樹幹の先端あたりが妙に細く細く立ち上がっているのは、最近になって剪定をしたのだろう。


 銀杏の木の自然の姿は、絶対にこのようにはならない。ばらけて四方に広がるのが自然なのに、ここではわざわざ剪定して不自然な円錘形の銀杏並木をつくるのである。
 それは絵画館(小林正紹デザイン)という明治日本帝国の記念碑に、一点透視で視線を集める仕掛けのひとつとして重要な造園景観なのだ。ヨーロッパに学んだ造園家・折下吉延のデザインである。

 ここではいわば絵画館が神殿であり、参道が銀杏並木である。
 明治天皇の後に立った大正天皇では、カリスマ性の形成がおぼつかないために、明治政府が一生懸命に作り上げた明治帝国という仕掛けが崩れかねない。そこで明治天皇を神に仕立てて明治神宮を作り、その境内地の外苑がここである。
 外苑の土地はほとんどが官有地だったが、土木、建築、造園等の整備の費用は、全国から寄付と人力奉仕を集めた。その方法は官僚機構を使って地方各地に割り当てが及ぶことで、明治国家の末端への浸透を意図する国家事業であり、明治神宮は国営施設であった。
 また、青年団活動を起して勤労奉仕も求めることで、その団体活動は強兵づくりの基礎となった。
 相撲場や競技場を作ったのも、青年たちが兵士として壮健な肉体を養う場としてであり、それはここの前身である青山練兵場の歴史を受け継ぐものである。

●祭神誕生日の祭礼で見世物小屋が立ち並ぶ境内

 さて、今日は、まさにその明治天皇が生れた「明治節」の11月3日、お祭りの日であろう。神社で祭りならば、境内に屋台や見世物が出てきて賑やかなはずである。
 おお、そのとおり、絵画館前広場にはたくさんのテント小屋が立ち並び、なにやら芸事の披露大会をやっているようだ。この賑わいこそが神社境内らしさなのだ。妙に気取った銀杏並木と絵画館のパースペクティブ景観なんて、お呼びでないのである。
 見れば絵画館の右後ろに、なんだか背が高い(名ばかり)マンションのようなビルが建っている。一点透視の焦点が乱れた。東京都都市景観計画の規制は、役に立たなかったのか。
 

 今日は仮設の小屋がたくさん出ているが、ここには常設の見世物小屋もたくさんある。絵画館、神宮球場、第2球場、そして国立競技場(いまは外苑施設ではないが、かつてはそうだった)、ラグビー場が5大見世物小屋である。
 それらはいずれも巨大すぎて、じつは都市計画の風致地区の高さ制限に違反しているのだが、いずれも風致地区指定(1970年)以前に建ったから、既得権がある。
 そのほかにも観客参加兼用見世物小屋として、水泳場、ゴルフ練習場、テニスコート、草野球場、バッティングセンタなどなど、神社境内らしく雑多に立ち並ぶ。

 肝心の絵画館も、その威容を見せるための周囲に階段や噴水や植え込みでデザインしたオープンスペースは、平らなところはどこもかしこも駐車スペースになっており、威容をいや増しに見せるどころか、これも雑多な神社境内風景らしくなった。
 
 この前来た時は、絵画館にむかって左に眼を転じたら、森の上に何やら鉄骨造りの無粋な代物がいくつも立っていて、それはこの境内で最大の見世物小屋だった国立競技場の夜間照明等であった。
 そして今日はそれが消えている。5年後にはまた立っているのだろうか。
2013年には向うに国立競技場の照明塔が見えていた

●外苑の聖なるモニュメントは駐車場扱い

 あまり知られていないようだが、絵画館の真後ろには、聖なるモニュメントがある。ここが神宮外苑となる前の青山練兵場で明治天皇の葬式を行った時に、その棺を安置した葬場殿跡を記念している場所である。
 そのモニュメントは、丸い石組の草の生えた基壇の上に、大きくその葉を茂らせている楠が一本立っているだけである。絵画館の裏庭の、しかも駐車場の中にあって、その雑多なる風景には聖なるモニュメントの風情はない。
 だが実は、外苑の銀杏並木から絵画館への真直ぐなる軸線上の頂点に位置するこここそが、明治神宮の祭神である明治天皇へのフォーカスポイントなのである。



 そこに神殿を設けずに常緑の大樹としたのは、いかにも日本的信仰の形らしい。これは外苑のプランナーであった建築家・佐野利器の考案であったという。
 そのモニュメント大樹のまん前にひろがる絵画館は、いわば絵馬を飾った拝殿みたいなものである。この拝殿は、いかにも西欧王権的な大仰さである。

●2020年再登場する外苑最大の見世物小屋は

 聖なるものは森の中に隠れて奥に居ますべきとする日本的信仰の姿(神宮内苑)と、西欧近代に追いつき追い越せの明治帝国を露骨にプレゼンテイションする姿との間のギャップが、秋の日の外苑の見世物小屋群の喧騒なる風景に見事に現れていて、妙に面白かった。

 さて、2010年に再び姿を現すはずの巨大見世物小屋は、どんな形を見せるのだろうか。ザハ・ハディド案の未来宇宙船が没になったからには、日本の神社境内にふさわしいとして、檜皮ぶき屋根が乗っていて玉垣に囲われて登場するのだろうか、まさか。 
これはわたしの戯作
 しかし、見世物小屋はしょせん見世物小屋、伝統的なテントやヨシズ張りの小屋掛けがいちばん似合う。そんな軽~いデザインを伊東豊雄か隈研吾(どちらもただ今ゼネコンとグルになって準備中)が見せてくれるだろう。
 あ、そうだ思い出した、1964年オリンピックに、神宮内苑の脇に建った代々木の国立体育館(丹下健三デザイン)は、まさにサーカステント見世物小屋そのものであった。
代々木国立体育館

キグレサーカス

(つづく)
参照
◆【五輪騒動】新国立競技場建設と神宮外苑再開発瓢論集


2015/11/03

1142【神宮外苑あたり徘徊①】消えている今だからこそ見える束の間の風景を探しに消えた国立競技場を観に行く

●東京体育館と絵画館が呼応する期間限定風景

 秋晴れの日、東京ひとり徘徊は、神宮外苑あたりへ、消えた国立競技場を観に行った。
 消えたものは見えないが、消えたからこそ観える風景、5年先には変ってしまうから今でなければ観ることができない束の間の風景を探しに行ってきた。

 まずはこの風景はいかがですか。向うに見える坊主頭は、言わずと知れた神宮絵画館、手前左に大きくかぶさる丸がいくつも重なる建築は、これまた言わずと知れた東京体育館である。傾いている四角な箱は、ゲージツらしい。

 もう少し引いてみるとこうなる。

  東京体育館と神宮外苑絵画館の位置関係はこうである。

●渋谷川の明治公園が消えた

  東京体育館を背にして、消えた国立競技場を観るとこうなる。絵画館の坊主頭から神宮球場まで見える。この風景は、今でなければ見ることはできない。
 つい半年ほど前までは、この向うに国立競技場が立っていて、この風景ではなかったはずである。残念ながらそのころの写真を撮っていない。
 体育館との間には渋谷川が流れている谷間に、明治公園四季の庭があるはずだが、いまや白い板囲いの中の工事現場になっていて樹木を撤去しつつあるようだ。川はどうなるのだろうか。

 この写真に見える黒い庇や階段は、もちろん体育館である。向うの坊主頭の手前の大きな空き地が、消えた国立競技場である。2020年には、ここに新国立競技場が建っていることであろう。

 上の写真を撮っている位置は、下の写真(google street)の外苑西通り左のコンクリート壁上にある東京体育館の裏出入口から右を見おろしている。
 こうやってみると渋谷川の谷間に擁壁を立てたという地形的なせいもあって、体育館も実際にはかなり高い建物になっている。


●現れた懐かしい未来都市のような期間限定風景

 では逆に、坊主頭絵画館の側から東京体育館を見るとどう見えるか。
 絵画館を背にして、競技場撤去工事の板囲いにある透明プラスチック板を通して覗き込んだ。
 おお、消えた国立競技場の跡地の向うに、今だからこそ観えるのは、ロケットと宇宙船そして高層ビルが林立する未来都市だよ~、、、これって、わたしが少年時代の雑誌で観たデジャビュ感のある風景だなあ。
 今や幻となった新国立競技場ザハ・ハディド案も未来型宇宙船であったが、東京体育館は既に地球に降り立った前世期型宇宙船というところか。
 
NTTのタワーとの取り合いが絶妙で、ヘンに懐かしいような。

では、ちょっと悪戯して


●没になったザハ・ハディド案は東京体育館に良く似合う

次は、東京体育館の正面にまわって、千駄ヶ谷駅前の側から眺めると、ふむふむ、こちらから見るともうちょっと近代的宇宙船かもしれない。
 宇宙船つの体育館を大いに意識して、一義的にはこちらとの調和を求めたのであったらしい。
 一方、クラシックな絵画館との関係は、むしろ極端に対比することで記念性をさらに高揚させようと考えたのであろうと、いまさらながら確認したのである。
 実はこのことは、神宮外苑地区地区計画の企画評価書に、それらしいことを記してある。その評価書は、都市計画家の関口太一が書いたのであろう。

これが幻のザハ・ハディド案と東京体育館の並ぶ模型写真
よく似た仲良し母娘みたい

 つぎは、絵画館の方にもいってみよう。(つづく)

参照
◆【五輪騒動】新国立競技場建設と神宮外苑再開発瓢論集