熊五郎:ご隠居、出ましたよ、とうとう。
ご隠居:おや熊さん、いらっしゃい。出たかい、とうとう、ボーナスが。
熊:ボロ長屋に住む町場の大工にボーナス出るわけないでしょ、ホラ、新国立競技場の新案ですよ。
隠:ボロ長屋で悪かったな、そうかい、ザハ・ハディド案白紙撤回再公募新国立競技場案だな。
熊:そう、そのザ白再新国競ですよ、縮めても長すぎるなあ。
隠:再公募したらたったの2組だけ応募だったってな。
熊:これがその応募の2組の絵ですよ。これみてどうです、ご隠居。
隠:フム、このA組案がクマさんだな。
熊:いや、あっしは応募してませんよ。
隠:いや、お前さんじゃなくて隈さんだよ、大成・梓・隈がA組だな。で、こっちが竹中、清水、大林、、日本、伊東のB組だな。
熊:どうしてそうだと分るんですか、JSCは匿名で発表ですよ。
隠:うん、わたしは建築をみてケチ付けるのが趣味だからね、この絵を見ただけで、わかるんだよ。伊東と隈じゃあ、伊東がだんぜん上手くてプロ受けする、隈は下手くそだけど俗受けするって、これが定評なんだよ。これ見りゃそうだよ。
熊:へ~、こっちの緑が建物中に植わっているA組のほうが格好がいい、あっしはそう思いましたが、やっぱり俗人ですかねえ。
隠:これねえ、土のない建物に木を植えたって、管理に手間ばかりかかるだけなんだよ。こんなところで税金で盆栽遊びしないでもらいたいね。
熊:あ、そうだ、これってプラスチックで作った樹木ですよ、きっと、今じゃあ見ただけで本物と区別できませんよ、それなら管理費がかからない。
隠:ケッ、まあB組案だって、列柱の回廊をめぐらして、ナチかファッショ建築かねえ。
熊:ケッ、ケチ付けりゃいいてもんじゃないでしょ。で、どっちがいいんです?
隠:まあ、どっちかと言えば、B組案だなあ。どっちでもいいんだよ、あたしゃ、オリピックもサッカーもラグビーも興味ないんだから。それにここは神社境内だよ、縁日には見世物小屋やら屋台やら神楽やら百鬼夜行の風景が出現するところだから、なんでもいいんだよ。ま、正確には境内じゃないけど、昔はそうだったんだよ。
●日本的建築を求められたらしい
熊:今回の公募には、日本的なデザインを求めたらしいですよ。
隠:だからかい、B組は法隆寺とか唐招提寺とかの列柱と大庇をイメージしたのかねえ、どこかクサイよなあ。日本的なものを求めるって、なんだか大昔のコンペにもそんなことあったなあ。
熊:そうそう、有名なのが国立博物館でしょ。
隠:そう、当時は帝室博物館だったな、瓦屋根を載せたのが当選したよ。その頃からなんだかんだと大きな公共建築には瓦屋根が流行ったもんだよ、帝国主義の冠をいただくので帝冠様式って言われたもんだよ。
熊:でも、新国立競技場の隣りの絵画館は、帝国主義の象徴だった明治天皇を記念しているのに、瓦屋根が載ってませんね。
隠:それはだな、神宮内苑が和の帝国主義なら、外苑は洋のそれというコンセプトだったからだよ。内苑は日本の神として森の奥深くに祀り、外苑は西洋式帝王として衆人に見せるように祀ったんだよ。
熊:そうか、和と洋の二つの権威主義景観を作ったんですね。
隠:そういや、いつだったか二人でこんな和のデザインを造ったよな。 熊:そうそう、なんてったって明治神宮本殿の屋根なんですからね。 |
熊:こんどの両案とも、そのインパクトにはかけてるんですね。
隠:ザハ・ハディドのコンペ応募案をどこか別のところで建てるってプロジェクトがあるといいなあ、例えば皇居前広場とかでね。
●神宮外苑も内苑のような森にするなら
熊:神宮の森っていうけど、内苑はともかくとしても、外苑は森じゃなくてベルサイユ宮殿みたいに帝王のための西洋式庭園なんですね。
隠:そうだよ、森に見えるのは幅の狭い境界保全林だよ。
熊:あ、そうだ、今空き地になっている国立競技場跡地に植林したら、これは森になりますね。
隠:そう提唱している人たちがいるね。内苑の森はいかにも日本の自然林のように見えるけど、全国から集めた多様な樹種を植栽したので、生態学的にはバイアスがかかっていて、この地にふさわしい本物の森じゃないんだね。こちらに植林するならこの地の潜在自然植生種の樹木を植えると、20年もすると本物の森になるね。
熊:じゃあ、こうしましょうよ、新国立競技場がA,Bどっちになるにしても、その建物の周りの敷地を、その生態学的に本物の森にしましょうよ。昔、全国から青年団が勤労奉仕したみたいに、苗木を市民参加で植えるんですよ、ほら、いま東北の海岸部で緑の防波堤をやってるみたいに。
隠:思い出したけど、ずっと前にこんな森の案を考えたことがあったな 熊:そうそう、パロディ戯作ですがね(⇒こちらを参照) |
熊:もうすぐ、A組かB組かの審査の結果と、それを審議する閣議とかで、どっちか決めるらしいですよ。さあ、どっちが勝つか、賭けましょうか。
隠:よし、なにを賭けようか、そうだ、負けたらラーメンを奢るってどうだい。
熊:ケッ、1500億円の事業にラーメン一杯ですか?
隠:それくらいしか賭ける価値がない事業だって意味なんだよ。
熊:しょうがない、じゃあ、あっしはB組に賭けます。
隠:さっきと違うだろ、熊は隈に賭けるんじゃないのかい、うむ、やられたな、しょうがない、わたしはA組だ。
熊:あっ、ちょっと待ってくださいよ、引き分けって場合もあるでしょ。ほら、同点で優劣着け難いから、両方とも合格ってね。
隠:おいおい、それにも賭けるのかい。じゃあ。八五郎をそれに賭けさせよう。で、そりゃどんな格好になるんだい。
熊:はい、ごらんのとおり、左右真半分で。(つづく)
●五輪騒動:新国立競技場と外苑都市計画に関する論考集(まちもり散人)
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