2012/07/28

647横浜港景観事件(11)新港地区という島全体をこれからどうしたいのだろうか

 これまでこの事件についてあれこれ書いてきたことは、もともとは景観という目に見える姿について起きた事件がきっかけであるが、書いているうちに、この新港地区という島全体のまちづくり計画は、いったいどうなっているのかと気になってきた。
 ここにある施設群は、どのような計画に基づいているのだろうか。

 よくある話では、横浜市の総合計画があり、これに基づくMM21の開発計画があり、それを実現していくための実施計画があり、そして現場の規制誘導策として都市計画があり港湾計画があるということだろう。
 あまり大局的な計画を見ての概論では面白くない、あまり現場的なことは実情を知らないからかけない。
 だから、法的な規制とか誘導策はどうなんだろうかと、ネットで調べて見た。

 まず重要な結論から先に書くが、この新港地区には住宅を建てることを禁止している。 すぐ隣のMM21地区の中央地区が、やたらに超高層共同住宅群が建っている(私は嫌いであるが)のと比べて、こちらには一戸も建てることができないのは、なぜだろうか。

 人が住んでこそ都市であるのに、人を住ませない都心とは、どういうわけか。部分的には住宅が望ましくないエリアもあるかもしれないが、この島全部がどうしてそうなのか。
 これには私の想像だが、実は現実的な立地条件ではなくて、港湾行政と都市行政の狭間の問題があるのだろうと思っている。

 ここには臨港地区という用途規制がかかっている。これは港湾行政が都市行政よりも優位に立つ制度である。つまり、都市計画法よりも港湾法のほうが上にあるのだ。
 日本の港湾は、歴史的に大蔵省、運輸省、建設省と所管争いがあり、現在では国土交通省港湾局と都市局・住宅局の所管争いになっている。

 臨港地区は、港に接する陸域の土地について都市計画で決めるのだが、発議者は港湾行政側である。 
 その基本となる考えは、この土地は港湾行政の縄張りであるから港湾事業に関係する施設のほかはつくってはならん、という縄張り宣言である。都市計画の線引きみたいなものか。

 そしてその臨港地区のなかをいくつかに区分して、それぞれの土地の用途を決める分区を指定する。その土地の用途指定は、都市計画の用途指定を外れて、市町村が条例で定める分区指定によって決まることになる。

 横浜市が条例で定める分区は、商、工業、マリーナ、修景厚生(レクリエーションのこと)の各港区があり、そこに建てることができる施設の用途を決めて、それ以外を禁止している。
 臨港地区全部の土地に分区を定めているのではなくて、臨港地区だけで分区のない街区もある。分区のない街区の用途は、都市計画の用途によることになる。

 さて新港地区の中を見ると、たとえばワールドポーターズの街区の分区指定は「商港区」である。
あのショッピングがここに建ったのは、分区条例に商港区に建てることができる施設として挙げてあるうちの「港湾関係者の利便の用に供するための日用品の販売を主たる目的とする店舗及び飲食店」を適用したのであろう。

 これがなんだかおかしいのは、ワールドポーターズで売っているものは、「港湾関係者の利便の用に供するための日用品」なのだろうか、ということである。
 あるいは「港湾関係者の利便の用に供するための船用品販売店及びその附帯施設」、あるいは「港湾関係者の利便の用に供するための銀行の支店、郵便局及び保険業の店舗並びにこれらの附帯施設」も、中にはあるのかもしれないが、わたしは知らない。

 ホテルのナビオス横浜が建つ土地も商港区である。条例によれば、「港湾関係者のための休泊所、診療所その他の福利厚生施設」にあたるのであろう。
 このホテルの公式名称が「横浜国際船員センター」であり、経営者が(財)日本船員厚生協会であるので、それとよくわかる。
 だが、実際のところは、ネットの情報を見ると宿泊者を船員に限っているとは思えない。実は私も一泊したことがある。

 赤レンガ倉庫は、「修景厚生港区」の中にある。条例による規制でみると、これは多分「港湾関係者の利便の用に供するための物品販売業を営む店舗及び飲食店並びにこれらの附帯施設」なのであろう。これも「港湾関係者の・・」とあるところが引っ掛かる。

 つくってよい施設で「港湾関係者の・・」とついていないのは、「図書館、博物館、水族館、展示施設、公会堂、展望施設及び海事研修施設並びにこれらの附帯施設」と、海や貿易関係の官公庁施設のみである。

 どうして赤レンガ倉庫のような、あるいはワールドポーターズのような、海や港と関係なさそうな商業施設ができるのか、そこがわからない。なにか少しでも関係(たとえば輸入品を売って店が一軒)があればよいのだろうか。
 もっとも、法令には臨港地区の利用を港湾関係者に限るとは書いていないから、港湾関係者でなくても利用してもよいのだろう。
 でもそうとなると、なんで臨港地区なんだ、ということになる。単にショバ争いの結果か。

 赤レンガパークの西隣の空き地も、修景厚生港区である。
 これからどのような港湾関係者の利便に供する施設、あるいは図書館、博物館、水族館、展示施設、公会堂、展望施設及び海事研修施設ができるのか、楽しみである。

 いま、話題になっているアニヴェルセル結婚式場が建とうとしている土地は、分区無指定であるから、都市計画の用途地域と地区計画の規制がはたらく。商業地域だから結婚式場はOKである。
 だがしかし、ここで疑問が生じる。都市計画法第9条の22項には、「臨港地区は、港湾を管理運営するため定める地区とする。」とある。

 分区は指定していなくても臨港地区内であることは変わりないから、この結婚式場は「港湾を運営管理するための施設」、つまり「港湾関係者の利便の用に供する」結婚式場なのであろう。
 他の分区無指定の街区にある万葉倶楽部、カップヌードルミュージアム、コスモクロック、JICAなど、いずれも「港湾を運営管理するための施設」であるらしい。

 まあ、硬いことを言いなさんな、なんていう声もあるだろうが、もとが法令の定めなのだから、ここは厳密にならざるを得ない。
 そもそもどうしてまだら虫食いに分区を指定しているのか。全部指定して港湾行政で一元化するほうがすっきりするような気がするが、そういうものではないのか。
(わかってます、12年通知のⅡレベルで手を打ったのでしょ、と、突然にマニアックコメント)

 あるいは逆に、実態からして「港湾を運営管理する」とか「港湾関係者の利便の用に供する」とかのための施設ではない施設が立地している現状からすると、臨港地区を解除してしまって、都市行政に一元化するほうが実際的という考え方もできる。
 まあ、港湾行政当局からいえば、都市行政に縄張りとられるっってことで、お気にいらないでしょうが。タックスペイヤーからいえば、どちらになっても同じことなんですがねえ。
 へんに2重行政では余計な手間がかかるばかりで、行政にも開発事業者にも余計なコスト負担になる。

 この話の出だしが新港地区での住宅禁止のことであった。話を戻す。
 これは今もあるのかどうか知らないが、わたしが昔あるところで臨港地区開発にかかわった時に建設官僚から聞いた話だが、臨港地区に住宅をつくることは都市行政が絶対に許容しない方針であるとのことである。
 それは臨港地区をめぐる運輸省対建設省の長い領土縄張り争いがあり、その確執のひとつらしい。それゆえかどうかしらないが、この新港地区でも住宅は地区計画で禁止してしまっている。

 中央地区では住宅を許容し、新港地区では住宅を禁止するのは、どうもしっくりこないい。
 この地区では中層の質の高い海辺の環境を生かした住宅をつくれば、かなり面白い計画になるだろうと、わたしは思うのだが、そういう考えはこれまでなかったのだろうか。
 港湾行政と都市行政の狭間に落ち込んだ都市住宅、いや、都市生活者が哀れである。ここに賃貸の公的住宅を作ってくれたら、わたしは今いる関外から大喜びで移転する。あ、津波が怖いか。

 わたしは1980年代に横須賀港でウォーターフロント開発にかかわったことがあり、運建戦争と揶揄された臨港地区問題に巻き込まれた。
 そのいっぽうで、世界の港での開発をいくつも何度も楽しく視察した経験がある。
 記憶に残るのは、バンクバーのグランビルアイランド、サンフランシスコのピア39、ロサンジェルスのマリナデルレイ、サンディエゴのシーポ-とビレッジ、ニューヨークのサウスストリートシーポートビレッジ、ボルチモアのインナーハーバー、シドニーのダーリングハーバーなどである。
 日本バブル期ににそれを真似したものがいくつか実現したが、今は大苦戦らしい。神戸のハーバーランドが今大苦戦らしい。

 都市生活が海の生業や遊びと密接な関係を持つような、アメリカやオーストラリアの暮らし方は、どうも日本では無理のような気がしている。
 しかし、これからはありうると思うので、新港地区では中央地区のような高密度高層開発ではなくて、結婚式場も遊園地も小売店もよいが、歴史と文化と水辺の景観を満喫できる都心での暮らしの場をぜひ作ってほしい。

 ここでさらにやってほしいことは、水面の積極的な利用である。レストラン船、デッキテラスカフェ、海水浴場(海の上のプール)、水上シアターなど、静かな運河水面をもっと使ってはどうか。

 新港客船ターミナルは、どれくらい使われているのだろうか。昨年の横浜トリエンナーレ期間中に、ここで興味深いアートイベントが開催されて、わたしも何度か通った。
 ただし、建物の中だけであり、港としての立地には関係なかった。
 ということは、あれだけ長い期間をあの大きな建物建物全部を、港湾と関係ない利用をしても差し支えないということなのだろう。
 ならば、ここも新たな住宅とかアートの場とかを誘致して、港と一体のなった開発をしてはどうか。そのような開発をシドニーのダーリングハーバーで見てきた。

 はなしが景観よりも新港地区全体のあり方に身が入りそうになってきたので、ここらあたりで一段落する。
 また新展開があったら、面白がって何かイチャモンを書いていきたい。(一応,終わり)

  追記(120821)  と思ったのだけど、8月20日に横浜市から結婚式場計画のGOサインの発表があり、ついつい続きの(12)を書いた。
 参照⇒横浜港景観事件(12)
http://datey.blogspot.com/2012/08/660.html

●参照→横浜港景観事件(1)~(12)一覧

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