といっても、わずか1間半×半間の物置小屋である。家具というには大きく、建築というには小さすぎる。
韮崎に大学同期の友人Mが住んでいる。ロボット工学(情報工学かもしれない)が専門らしい国立大学名誉教授だが、自宅のそばにざっと千平米もの大農園があって、なにやら農作業もしている。
その半分以上は雑草を育てている気配だが、その中にリンゴ、サクランボ、ナシ、クリ等の果樹が、まだ背丈くらいだがあちこちと植わっていて、その下にはてんでな方向の畝に、イチゴ、アスパラガス、トマト、チンゲンサイなどが育っている。ミョウガやフキは適当に生えてくる。てな具合の楽しい農作遊びをしているらしい。
この3月に遊びに行ったとき、「雨水貯留装置プロジェクト」を手伝った。畑にやる水を、家の水道からバケツで運ぶのがいやなので、畑で雨水を貯留しようというのである。
ようするに畑よりちょっと高い道端の地面に青テントを敷いて、そこに降った雨を低いほうの角に流して如雨露でタンクに流し込友人も畑にむという、不精なものである。一応は水がよく貯まっているという。
雨が降らないと役に立たないのが難点であるが、雨が降ると畑に水をやる必要がないという矛盾もある。
その次は、畑の隅に「肥料や農機具の収納小屋プロジェクト」であり、手伝ってくれと、Mは言い出した。
家の裏壁に寄りかかる半間角の農具の物置があり、Mが木材と塩ビ板で自作しているのだが、どの面も長方形ではなくて平行四辺形というデザインに、少しは自覚して困っているらしい。
そこで、昔々建築家のわたしに、既製品物置が簡単だけど、味気ないから設計しろ、という。ふん、面白そうだ、たかが物置だ、それくらいなら設計できる腕前は、まだ残っているだろう。
で、二人でホームセンターに行って、日曜大工用品売り場をうろうろしながら、あれを使いこれを使いとアイデアを出し合った。
それから2ヶ月くらいあれこれとメールやり取りして、設計図はできた。もちろん自分たち素人が施工するのだから、それなりの能力に見合うものでなければならない。
農作業小屋の設計図 型枠用36べニア7枚から部材をきりだして組み立てる |
1間半×半間の大きさにすると決まって、CADソフトなんて持っていないから、ペイントで設計図を描いたのだった。
設計の一番のポイントは、2つの既製品スチール製棚を買い求め、これを1間半×半間の床板の上に左右両方に向かい合わせに立てて、この周りをベニヤ板で囲めば、スチール棚が定規になって、素人でも直方体がかっちりと建ち上がる、という点にあった。
さて、基礎のブロックまではMがひとりでやって、5月27日午後、わたしとMは例のホームセンターに材料買出しである。
ベニヤ板はコンクリート型枠用の、片面に防水コーティングしてあるものを求め、これを設計図にしたがってホームセンターで裁断してもらった。
次の日からいよいよ施工である。朝5時起床でとりかかる。わたしはいつもは10時頃起きているので、時計が5時間も戻った。
なにしろ、オーナーのMが早起きだから、設計施工出稼ぎお遊びボランティアのこちらは、泣く泣く目ヤニをこすりながら従う。
まず、床板をブロック基礎の上に置く。
この上に、組み立てておいたスチール棚を持ってきて立て、3方にベニヤ板を取り付けていく。
ここでもう、大変な見込み違いに気がついたのであった。
そのスチール棚が定規になるどころか、なんとヘナヘナ鉄板づくりでベニヤ板のそりに負けてしまうくらいだし、直方体どころかM自作の物置なみの平行四辺形になるのだ。え、ナンだよー、おまえは鉄だろ、木に負けてどうする~。
でもいまさらしょうがない、ヘナチョコ鉄棚をなだめすかし、ぶったたきながら、ベニヤ板をボルトで取り付けていくと、何とか納まったようである、まあ、近くによって見なければ、、。
この治しきれないスチール棚ひずみが、後々まで響いた。この次には(そんな機会はないが)スチール棚を使わないぞ、ベニヤ板だけでやるぞ。
そうやって片方の棚が立ち上がり、もう一方が立ちあがりそうな時に、突然の雷鳴、土砂降りになった。あわててビニールテントなどかけて、家に退避して休憩である。
わたしの予定では1日で組立完了、次の日は補修とペンキ塗りで全部完了のはずが、この日は、昼寝(朝早いので)、雷雨で4時間あまり作業しなかったので、両方の棚を立ち上げて繋いだところで日没、床と壁はあるが屋根も扉もなくて終了となった。
施工順序 |
雨は降り続き、雨具を着て作業である。とにかく屋根の取り付けまですれば、なんとか文字通りに雨露をしのげる。結局のところ、扉の取り付けと、細かい補修や補強を残して、昼過ぎに引き上げ、今回の工事はここまでとした。
材料費は3万円ちょっとくらいだったから、既製品を買うよりもかなり安い。
久しぶりの建築もどき日曜(正確には水木)大工仕事は、実に楽しかった。設計中も、久しぶりに昔のようなものづくりの知的興奮をちょっとだけ持った。
Mも喜んでいたから、あとは畑作業の合間にぼちぼちとやるだろう。
(追記:6月9日)完成したとMから写真が来た。まあまあのできである。
関連→119桃と桜花そしてブナの森へ
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