福島第1原発の地震被害による放射能拡散災害についての東電の損害賠償支払は、「原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年六月十七日法律第百四十七号)」通称:原賠法)によるものらしい。
原賠法第三条:原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。
ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
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これは一般的な自動車事故によって、他者に被害を与えたときの賠償とどう違うのか。
「自動車損害賠償保障法(昭和三十年七月二十九日法律第九十七号)」(自賠法)という法律がある。
自賠法第三条:自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
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原賠法の第3条とはなんだかニュアンスが異なる。
原賠法が特に異常なことが起きた場合にしか責任が逃れられないのに対して、自賠法はいろいろと免責事項が書いてある。
つまり原発に関しては、いったん事故がおきたらめったなことでは責任を逃れられないほどに大変なんだぞ、という“想定”が働いているらしい。
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では民法の損害賠償責任はどうか。
民法では損害賠償は2種類あって、債務不履行損害と不法行為損害である。
債務不履行損害は、契約をしたのに果さなかったときに与える損害である。
不法行為損害は、故意または過失による損害である。
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さて、福島原発はこのどちらに当るのだろうか。
この原発は事故がおきませんとくり返し広報したのに事故がおきたのだから、債務不履行だろうか。
あるいは設計条件があまかった過失か、あるいは対策をするべきなのに怠った故意による不法行為だろうか。
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原賠法に似ている「原子力損害賠償契約に関する法律」というものがある。
第二条:政府は、原子力事業者を相手方として、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において、責任保険契約その他の原子力損害を賠償するための措置によつてはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契約を締結することができる。
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つまり、あんまりでかい被害で、東電が補償金を支払えなくなるといけないので、政府が一定額以上は、東電に替わって支払ってやる、政府と東電はそういう契約をする、こういう法律であった。
要するに補償金に税金を投入することができるというのが法律の趣旨らしい。
つまり、原子力に関する事故は、とてつもなく大きい可能性があることを“想定した”法律であった。
こういうとき、想定外いや想定内という論争は、どこに位置づけされるのだろうか?
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では上の条文に出てくる責任保険契約とは何だろうか。
これは上に書いた自動車保険と基本的には同じで、原発だけでなくどこにでもある普通のことだ。
さて、東電と契約して電気を使って使用料金を支払っているわたしたち、あるいは東電株を持っいる株主たちは、損害賠償の対象となる“他者”なのだろうか?
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この地震では東電だけが“震災犯人”扱いにされているが、それは原発が壊れたからだろう。
では、防波堤が壊れた、造成宅地が傾いた、埋立田圃が沈没した、ビルが壊れた、家が傾いた、これらによる損害には震災犯人はいないのか。
つまり、原発賠償は政府契約があって税金の投入はありうるが、損害賠償レベルの話だけならこれらも原発も民法で同じように債務不履行損害かあ不法行為損害として扱うように思うのだが、そういうものではないのかしら?
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確かにこれまで地震で何回も被害があったが、一般論としては東電のような震災犯人に仕立てて過失責任損害賠償をした例はないだろうから、これはいまさらなにをいうかの論ではある。
であるにしても、これまでになかった原発問題で寝た子が起きた感じだが、東日本大震災は、震災犯人がいる地域といない地域が存在するのである。
なんだか腑に落ちない。この差は原賠法できまるのか。
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とまあ、こんな風に普通の庶民たるわたしは思っていて、ちょっと言いにくいことを書いたが、法律ではどう解釈するのでしょうか?
念のため付言するが、わたしは原発廃止の立場である。
人間が制御できないと分っていながら技術で押さえ込むという20世紀的工学の限界は、5回の大失敗(原爆2回、原発3回)で十分に身に沁みた。
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