2012/03/17

597今風望郷歌

東武電車の「業平橋駅」が「スカイツリー駅」と、名前を変えたそうだ。
 かのイケメン男の在原業平は、嘆いているかもしれない。

 むかし、男ありけり。
 その男、身をえうなきものに思ひなして、「京にはあらじ。あづまの方に住むべき国もとめに」とて往きけり。
 なほゆきゆきて武蔵の国と下総の国との中に、いとおほきなる河あり。それを角田河といふ。
 その河のほとりにむれゐて、思ひやれば、かぎりなく、遠くも来にけるかな、とわびあへるに、渡守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ」といふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
 さる折りしも、白き鳥の嘴と脚とあかき、鴫のおほきさなる、水のうへに遊びつゝ魚をくふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。
 渡守に問ひければ、「これなむ都鳥」といふを聞きて、
   名にしおはゞいざこと問はむ都鳥
    わが思ふ人はありやなしやと
とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。
            (「伊勢物語」より)

 ある男、京都から東京に移ってきたが、身の上がうまくゆかない。
 流れ流れてとうとう隅田川のほとりに至り、ダンボール小屋を建てて住む。
 思えば、こんなところで、こうなったものだと、ホームレス仲間と嘆きあう。
 そうこうするうちに、近くに高いタワーが立ち上がってきた。聞けばこれこそスカイツリーだという。
 男は展望台から故郷を眺めたいが、入場料が高くて登れない。嘆いて一首を詠んだ。
   名にしに負わばいざこと問はむスカイツリー
    わが想う人はありやなしやと
 ホームレス仲間はみな泣いたのであった。
            (「伊達物語」より)

●参照→503押上の斜塔
http://datey.blogspot.jp/2011/10/503.html

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