ちょっと前の朝日新聞(5月12日夕刊)に、劇作家の三谷幸喜が、自分が理屈っぽい性格なので、年寄りになると面倒な奴と思われるだろうと、書いている。
例えば、日ごろの買い物で店員とのちょっとしたやり取りで、ひっかかることが多いという。うん、ワカル、ワカル、お気持ちはよ~く分かります。
わたしも、例えばこういうことはしょっちゅうである。
酒を買おうとしたら「年齢確認パネルを押してください」と言われ、「わたしは自分の年齢をよ~く知ってますから確認不要です。確認するのは売る方の義務だから、君が押すべきでしょ」って言おうかなあ、どうしようかなあと、ぐずぐずする。
店員は反応の遅いわたしを見つめて、このボケジジイ、面倒だな、なんて思っているだろう。
わたしは既に面倒ジジイになっちまってる。自分が自分を面倒になる。
●蓮實重彦という面倒ジジイ
そんなところに、見事な面倒ジジイが登場した。今回の三島由紀夫賞を受けた蓮實重彦もそのひとり。
受賞の記者会見で、よくある受賞の喜びを語らせようと思ったら、憮然としてにこりともせず、回答拒否したり、質問者を叱ったり、じろりと睨みつける可愛げのなさ。記者たちが戸惑っているのが、妙におかしい。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/05/16/hasumi-mishima_n_9998942.html
80歳にもなった年寄りには受賞ははた迷惑だ、なんて言っている。わたしもノーベル文学賞を受賞して、そういってみたいなあ。それなら受賞拒否すりゃいいだろうって、ネットスズメはウルサイ。
可愛げのない年寄りが増えている。というよりも、総体的に年寄りが増えているから、とうぜん可愛げのない、偏屈ジジイも増える。
同じ可愛げのない年寄り仲間として、よくやった蓮實さん、もっとやれ~、なんて声をかけたくなる。と書いたが、実はこの人の名前くらいは知っていたが、その小説も映画評論も読んだことはない。
でも今、新潮社サイトで、受賞作『伯爵夫人』の立読みをしてみた。長い文節で古風な文体を装い、三島の風情があるような気もする。
http://www.shinchosha.co.jp/shincho/tachiyomi/20160307_1.html
わたしもなにかでバカな質問されると、憮然として皮肉るか、逆に懇切丁寧に教えてやりたくなる。わたしはどちらかと言えば後者だが、蓮實重彦は前者らしい。
蓮實と同じくらいの年寄り文筆業者としては、筒井康隆がいるが、こちらはサービス満点のお方らしいから、年寄りもいろいろではある。
●面倒ジジイ作戦に乗せられた世間
だがしかし、ちょっと考えてみると、これは実はよく練られた商業作戦だろうと気が付くのだ。
この文学賞は出版社の新潮社が主催しているから、もちろん新潮から出る本が売れることを期待している。文学賞はまさにその重要なる宣伝作戦のひとつである。
文芸春秋社の芥川賞、直木賞ばかりが有名で、三島賞も谷崎賞(中央公論社)も後塵を拝している。
この不機嫌を装う蓮實重彦の受賞作品『伯爵夫人』は、雑誌「新潮」に掲載したものだ。このあと単行本にして売るのだろうが、それにはこの受賞が世間の話題になる必要がある。
そして、みごとに話題になった。不機嫌記者会見という宣伝作戦は大成功、この本は売れて新潮社はおおいに儲かるに違いない。この文学の内容ではなくて、受賞と言う事件が評判である。
ではどこが評判の話題かと並べてみよう。
まずは、もちろん不機嫌記者会見が一番の話題である。受賞記者会見というイベントがこれくらい生きたことないほどに、マスメディアがその記事を載せた、いや乗せられた。
2番目は、80歳の新鋭作家」というところだろう。しかもその受賞者は、フランス文学者としても映画評論家としても既に名を成している人であって、無名の新人ではないのだから、そこにもけっこう話題性がある。
選考委員を見ると、一番の年寄りは1945年生れの辻原登、一番の若者は1975年生れの平野啓一郎である。
3番目は、80歳の老人が書いたこの小説は、けっこうエロい内容らしい。ようやく小説の内容に評判が及んだ。エロものなら世間は飛びつくだろう。マスメディアはそこまで宣伝してくれた。
老人が書く艶物であるとすれば、もしかしたら谷崎潤一郎賞もとるかもしれない。
不機嫌記者会見で新聞記者たちは手玉に取られたが、どうやらネットスズメたちも見事に手玉に取られたようだ。
蓮實重彦は、しっかりと新潮社の宣伝を引き受けて、じつはサービス満点の受賞者であったのだ。普通に受賞の喜びを語る記者会見では、話題にはならないので、その逆を狙った。新聞記者たちは見事にひっかかった。
そんなこと言うなら受賞を辞退せよ、なんて言ってると、新潮社と蓮實の宣伝作戦にひっかかってしまうのだ。いや、もう見事に引っかけられている。
これはエロ小説であるとの宣伝までしてくれたから、しっかりと売れるに違いない。
●わたしという面倒ジジイ
その可愛げのない年寄りになっているわたしが、可愛げのある志をちょっと抱いて見たら、見事に失敗した話である。三島賞と並べるほどのニュースじゃないとは分かっているが、書いておく。
わたしの住まいの近くにある「新聞博物館」が、1年任期の運営ボランティア(無償)を募集していた。参加日程とかPC使えるとかの応募資格条件は合う。
このところ無聊を持て余しているし、面白そうなので、履歴と応募理由を書いた応募書類を送った。1ヶ月ほど前のことである。
その返事が来た。「誠に遺憾ながら貴意に添いかねる結果」とあり、入場招待券が一枚、それに添えられている。
博物館の人たちが応募書類を眺めつつ、う~ん、どうしようか、面倒そうなジジイだよなあ、こりゃ断ろう、なんて話し合っているのが聞こえるようだ。
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