長屋の住人・大工の熊五郎:こんちわ、ご隠居、なんだか疲れてるみたいですね。
長屋の住人・隠居徘徊老人:おお、熊さん、いらっしゃい、まあ、おあがりよ。うん、昨日、東京の乃木坂の国立新美術館に徘徊に行ってね、それで脚が痛いんだよ。
熊:美術館なら徘徊じゃないでしょうに、なにを見て来たんですか。
隠:安藤忠雄という建築家の展覧会だよ。会場が広くてたくさんの展示があり、2時間余りも歩きまわって疲れたよ。
熊:ああ、安藤忠雄ね、よかったでしょうね。
隠:エッ、熊さんでも安藤忠雄の名を知ってるのかい、おどろいたね、どうりで平日なのに観客が多いのでびっくりしたよ、へえ、今どきは建築家もミーハーに好かれるのかい。
熊:そうですよ、あっしだって知ってますよ、他に藤森照信って名も知ってますよ。ちかごろはミーハーネエチャンオバサンが、そんな建築見物観光旅行に行ってますよ。
隠:ホントかなあ、そうかい、日本も建築家って職業を世間が認知する時代にやっとなったか。
●原寸模型で現物体験というけれど環境が違い過ぎる
熊:それにしてもあんな遠くまで、ご隠居も物好きですねえ、もしかして安藤ファンとか。
隠:いや、ファンじゃなくて、友人がタダ券を手に入れたとて誘ってくれたから。
熊:ナンダそうか、で、なんでも、関西にある教会のコピー建築を、展覧会場に実物の大きさで建てたって評判で、SNSによく登場してますよ。
隠:それで知ってるのかい。そう、展示室内じゃなくて外の狭い屋上に建ってたよ。安藤さんは、現物の空間体験をさせたいとか言ってるらしいけど、狭いところだし、超高層ビルが背景にあったりして、まさか現物がこんな風景の場所じゃないだろうねえ。
熊:では、このタブレットPCで調べましょ、グーグルアースをチョイチョイと、、あ、こんなところですよ。
熊:それになんだか別棟もくっついて建ってますねえ、それもありましたか。
隠:いやコンクリ箱がひとつだけだよ、別棟まで造るには、さすがに狭すぎたんだね。
●原寸模型教会が意外にチャチなのは安藤の企みか
熊:でもまあ、内部も外部も安藤流のコンクリ打ちっぱなしで、そっくりでしたでしょうね。
隠:それがねえ、ちょっと見にはそっくりなんだけど、そばまで行ってみたら、これがどうも現場コンクリ打ちっぱなし建築でないようなんだよ。壁面が微妙にガタついてるんだな、モルタルで埋めた不揃いの目地がいっぱいあるし、出隅角はしゃんと通っていないしねえ。本当に現場打ちコンクリなら、こうはならないはずだよ、堰板パネルをこう微妙に不陸にするのは、やりたくても相当に難しいよ。
左は今回増築した教会の原寸模型建築のコンクリ壁 右は美術館の既存建築のコンクリ打ち放し壁 |
熊:え、じゃあ、いったいなんなんです?
隠:わたしが思うには、このガタつきは、コンクリートパネルかブロックを工場でつくってきて、ここで鉄骨の骨組みに貼り付けたか、積み上げたかしたんだろうよ。それが下手くそなんだな。そうとしか思えなかった。だからどうもチャチっぽい違和感があってねえ。
熊:じゃあ、ネットに工事中の写真があるかもしれないから検索してみようっと、、、あったあった、ほれこれこれ、、。
https://twitter.com/hashizume_y/status/905706716037210113 |
https://pbs.twimg.com/media/DJauAn_VAAUCYjl.jpg:large |
熊:威張るほどじゃないけど、まあいいでしょ、でもねえ、工場製品を取り付けるんだから、現場打ちよりも精度高くできるはずですよね、よぼよぼご隠居に見破られるって、よっぽどヘタクソ施工ですね。
隠:なんか余計なこと言ったな。
熊:まあ、原寸でも模型は模型ですよ、現物じゃないのですからチャチくて当たり前かもね。では本物の教会の壁をネットで見ましょうか、ほらこれ。
http://ibaraki-kasugaoka-church.jp/index.html |
熊:ハハ、ま、しょせん見世物建築ですからね、チャチさから逃れられないでしょうね。それに展示用の仮設ですから、プレファブの方が造るにも壊すにも簡単でしょ。
隠:そうだね、うっかり本物同様現場打ちと思って観ようとしたこちらが間違いで、あくまでも仮設の見世物としてみるんだね。そう言えば内部も教会らしさを離れて、大勢の観客の見世物小屋になってたね。
●原寸模型教会に込めた安藤メッセージを読み解く
熊:それはそれで面白いですねえ、ハハ、あ、もしかして安藤さんはわざとチャチに造ったのかも。この模型のチャチさから、本物はいったいどうなんだろうと、安藤建築への疑問と期待をもたせようって、安藤の策略にはめられたんですよ、ご隠居は。
隠:うーん、安藤さんに嵌められたのか!、わたしの様に見破らずにありがたがってた人たちも、それはそれで嵌められたことになるな。
熊:でも、他の見物客はどう思ったんでしょうかねえ。
隠:あそこで壁を触って見上げつつ、おかしいなあなんて言ってるのは、わたしたちだけだったよ。ま、こちとらはミーハーじゃないからな、えへん。
熊:またヘンなとこで威張る。
隠:あ、待てよ、そうだッ、もしかしてこのチャチ実寸模型を通じて、安藤は重要な建築論メッセージを発してるのかもしれないよ。それはね、あの教会はあの地域の信者たちが自分たちが建設費を出しあって建てて、信仰の地域拠点として自分たちで運営しているんだね。ところがこの原寸模型は形は同じでも、地域とも観客とも何の関係もない一時的見世物小屋だよ、つまり魂が無い建築なんだな。そこがチャチさの根本で、わざとこんな狭いところにチャチに造ったんだろうねえ。そこがちょっと深い意味ある安藤建築メッセージだな。
熊:う~む、考え過ぎのような、いや、そう考えるとたしかのそのような、ふ~ん、信仰心皆無のご隠居にしちゃ、なんだか宗教的なこと言うね。
本物教会と原寸模型教会のコンクリ肌を比較してみると |
●実物建築と原寸模型と縮尺模型
隠:フフ、まあねえ。どうだ、建築とか建築家って意外に奥が深いもんだろ。
熊:え~っ、いつもは建築家をぼろくそに言ってるくせに、、。
隠:ところで、これを見たミーチャンハーチャンが、こんどはあの本物教会にわんさと観光見物に押しかけたら、エライご近所迷惑なことになるねえ、お気の毒に。
熊:いやもう、その教会サイトに迷惑なことが起きて困っていると書いてありますよ。
隠:おお、既に起きたか、困ったものだなあ。展覧会が終ったら、この現物模型を観光用にどこかに持って行って建てるつもりかもね。
熊:そこでご隠居が説明ボラやってはどうですか、いや、すぐ悪口言うからダメだな。
隠:なんか言ったか。
熊:ところで、その他の縮尺模型はどうでしたか。
隠:いやはや、もう、たくさん過ぎてねえ、観るのに疲れたよ。まるで安藤神社のお祭りの屋台だね。あ、そうか、だから原寸模型のあれは祭礼の見世物小屋だな、展示室内にもジオラマパノラマ活動写真館とでもいう見世物小屋があったな、うん、そうだそうだ。
熊:お祭りねえ、お酉さまみたいなもんですかね。
隠:そうそう、あの混雑ぶりって今がその季節のお酉さまだね、だから、みんながミュージアムショップで安藤グッズの熊手を買って帰るんだよ、ワハハ。
熊:そんなもの売ってんですか、まさか、。
お酉さま風景 |
熊:つまり原寸模型とは全く違うものなんですね。
隠:そのとおり、その点であのできの悪い原寸模型を気の毒になったね。原寸の罪だね。もちろん縮尺模型は作品でありながら、建築主へのプレゼンテイション用とか各種実験用の実用物でもあるけどね。
熊:原寸模型は建築専門業者の工事でしょうけど、縮尺模型はだれが造ったんでしょう。
隠:うん、模型専門業者がいるけど、どれも学生アルバイトに作らせた、こき使うから2度とやって来ないと安藤さんは言ってるね。建築学生にはこの模型つくりが修業になり、金にもなるんだね。
熊:そうか、その広い会場のたくさんの模型は、安くこき使われた建築学生たちの汗と涙の海に浮かんでるんですね。建築家になるには今もそんな師匠の下で徒弟制度ですかね。
隠:今はどうか分からないけど、昔はそうだったね。でも安藤さん自身は建築は独学だと言ってるから、涙の徒弟をやってないんだろ、建築家として天賦の才に恵まれた人なんだろうなあ。その才を独力で見事に咲かせたって、すごいねえ。
熊:ありゃ、最後に珍しくも褒めてんですかい、安藤さんがこれ読んだら怒りそうだったけど、これでやっと安堵。
熊:ありゃ、最後に珍しくも褒めてんですかい、安藤さんがこれ読んだら怒りそうだったけど、これでやっと安堵。
◆安藤忠雄の風景-あらかじめ発掘された遺跡よ!(2009)
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