【安藤忠雄展雑感長屋談議】のつづき
長屋の大工の熊五郎:ありゃ、ネットにこんなこと載ってますよ。安藤さんが「住吉の長屋」のコピー建築をつくろうとしてるんだって。(『ニセ「住吉の長屋」が問うもの』)
長屋の隠居徘徊老人:ほお、面白いねえ、あ、そうか、あの展覧会に出した見世物教会も、展覧会が終ったらその隣に持ってきて移築するのかもなあ。
熊:そのほかにも昔のものをたくさん再現して建てて、“安藤建築ランド”をつくるとか、やればいいですね。
隠:そりゃ面白い、明治村ならぬ安藤村か、ヤレ、ヤレ~。
熊:設計したけど実現できなかった建築とかね、そうだ、安藤委員長が選んだのに安倍首相にボツにされた、ザハ・ハディド設計の新国立競技場もつくるとか。
一等当選でもボツになったお騒がせザハハディド新国立競技場案 |
熊:新しい三軒長屋を先ず建てて、次にその中央の家を壊す、そしてあのコンクリ箱を建てるとかね。建築イベントだ。
隠:それも面白いねえ、あの箱の居住機能ばかりアレコレ言われるけど、その本質的なすごさは、密集市街の中の木造長屋の中間に、あれを無理矢理はめ込んだところにあるんだな。
熊:その無理矢理具合が景観的にも社会的にも実に興味深いですよね。そうだ、今どきの長屋は中高層共同住宅ビルでしょ、ご隠居が言うところの“名ばかりマンション”ですよ、その古いヤツのなかの一戸を壊して、そこにに住吉の長屋を突っ込むと面白いですねえ。
隠:うん、いいね、あちこちの既存共同住宅ビルの空き家に、ゲリラ的に安藤流の箱やら卵やらが突っ込んである風景を想像すると楽しいね、空き家対策にもなるし。
熊:そういえば安藤の初期の仕事は、密集木造住宅地の中のあちこちの狭い裏宅地に、小さな住宅をたくさん設計していて、それを「都市ゲリラ」と称していますね。
引用 https://www.pen-online.jp/feature/art/ANDO2017/3/ |
熊:いまや安藤はゲリラどころか、正規軍の将軍になってしまいましたね、なんせ天皇が呉れる勲章をもらったし、こうやって国立施設で個展やるんですもんねえ。ゲリラ時代が懐かしくて、あんな小箱をまた自分で建てるのでしょうかね。
隠:あ、そうだ、こんどの展覧会で建てた「光の教会」の原寸模型って、ありゃ都市ゲリラだな。会場の中じゃなくて外の屋上に増築ってところがゲリラっぽいね。
熊:そうか、生まれながらの正規軍だった黒川記章が設計した国立新美術館に、ゲリラとして殴りこんだ、ハハ、いまに都市伝説というか安藤神話になるかもしれませんね。
●修業伝説独学神話建築家2人のこと
隠:神話と言えば、建築は独学というのも、まさにそうだね。工業高校出てるし、大阪で都市や建築に幅広く活動していた水谷穎介さんの下で働いたことあるらしいから、完全なる独学かどうか怪しい感もあるけど、なかなか面白いね。
熊:そういや、ご隠居が追っかけやってた山口文象って建築家も、その出自とか独学とか、彗星のごとく世の出たとか、似たところあるような。
山口文象 |
熊:安藤はまだ健在だけど、どこか伝説的な感もありますね。
隠:安藤さんの出自や修業のことをよくは知らないが、山口が語った独学神話とか修業伝説とか似てるらしいね。安藤にはないようだが山口には左翼伝説がある。安藤と比べて山口文象が不利な人生だったのは、40歳代の最も働き盛りに戦争にぶつかったことだよ。学閥も門閥もないから仕事も来ない、その10年余りを逼塞せざるを得なかった。その点では平和が続く時代の安藤は幸せだな。
熊:山口文象は戦争が終わってからどうしたのですか。
隠:戦前は個人名事務所だったのを、戦後再起を個人名を排したRIAという協同設計集団に賭けたんだな。小住宅のまさに都市ゲリラとして、50歳代になって再出発したよ。でも戦後に山口文象としての見るべき建築作品は無いね、その集団が都市計画と建築設計の立派な組織となったから、これが山口の戦後最高の作品だね。
熊:安藤さんは1941年生れの76歳、今も盛りの仕事ぶりですが、作風は個人アトリエそのものですね。大勢のスタッフがいるようだけど、先々どうなさるのかなあ、おおきなお世話だけど気になりますね。
隠:そうだねえ、おお、76歳と言えば山口文象が他界した歳だよ。そういえば、新国立競技場でひどい目にあって死んだザハ・ハディドも個性的な建築家だったけど、あの事務所はどうしてるんだろね。
熊:天才の個性的な建築家の場合は、後継者というか組織というか難問でしょうね。
隠:う~む、丹下健三とか前川国男とか菊竹清訓の事務所は、どうしてるのかなあ。組織事務所として大変身をするのかなあ。
●六甲の集合住宅は環境破壊だな
熊:ところで肝心の安藤建築については、原寸模型教会の話ばかりだけど、ほかの感想はいかがですか。SNSによると会場でのイアフォン解説が安藤さん自身の録音で評判ですけど、どうでしたか。
隠:エッ、そんなものあったのかい、そうか、あの行列見物人たちは、みんなその解説を聴きつつ順路を進んでたんだね、あんな大勢なのに静かに整然と歩くのが不思議だったよ。
熊:え、ご隠居たちだれもイアフォン借りないのか、ケチ、どうしてたんですか。
隠:仲間5人とね、混んでない面白そうなところを見つけて、あっちへこっちへフラフラと勝手に動いて、勝手に批評しつつ楽しんだよ。
熊:なんだつまみ食いかよ、年寄りばかりで声も大きいから、喧しいと怒られたでしょ。
隠:いや、怒られないよ、他の人は耳がふさがってて、わたしたちの声が聞えないんだろ。余計な解説無しだから、仲間それぞれ勝手な解釈を言いあって面白かったよ。あらかじめなにか知ってたら面白くなかったね。
熊:ふ~ん、まあ、ご隠居にはお祭りの屋台や見世物巡りだから、順序なんていらないですね、面白いのありましたか。
隠:「六甲の集合住宅」って共同住宅ビル群が、大きな模型で出てたよ。
引用元 http://www.tokai-build.com/blog/archives/7158 |
上の模型と同じ角度の空中写真 google earth |
熊:ああ、神戸の斜面地に開発した最初の棟から、隣りへ隣りへと増殖して行った共同住宅群ですね。
隠:そうだ、これの最初のものが建築の雑誌に発表されたのをみて、これはひどい、神戸の自然環境として重要な斜面緑地をこうやって切り取り、背中が崖の風通しの悪い住宅なんてどこがいいのだ、と思ったけど、それにもかかわらずこうも増殖して腹立ったね。熊:模型を観つつ大声でそんな悪口を言ってたんじゃないでしょうね。
隠:もちろん仲間と大声でしゃべっていたよ。でも、最近の安藤さんは緑の回復なんてプロジェクトにも精出してるから、六甲の反省をしてるのかねえ。
◆安藤忠雄の風景-あらかじめ発掘された遺跡よ!(2009)
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