2019/07/17

1410【映画「主戦場」を観た】日韓の情報量の非対称が今の両国問題の傷を深くしているようだ

 近ごろは映画と言えば、うちで寝転んでタブレット画面で観るばかりだが、今日は久しぶりに映画館まで出かけて行って、大画面の映画を観た。
 ちょっと評判の様な映画「主戦場」で、2時間も椅子に縛り付けられて肩が凝った。

 タイトルの『主戦場』とは、日本兵への性的慰安婦の戦場と言う意味らしい。かつての実際の慰安施設のあった戦場と、現在の日韓慰安婦問題で争いの戦場である。
 戦争は今も続いていて、軍隊による強制連行・強制性交の有無について、当事者活動家学者右翼左翼政治家入り乱れて、乱戦乱交の中である。

 その乱戦乱交連中に映画監督が個人的にインタビューして、インタビュイーの語る映像と既存資料映像を、どちらもコマギレに組合せつつ、なにが真実であるかを探る映画である。
 と書くとドキュメンタリー映画かと言うと、そうではなくて、むしろノンフィクション・エンターテインメント映画と言うほうがよいような気がする。
 一種の謎説きの面白さを見せるからである。そして謎が解けて真実はこうだと結論するのだが、それが本当かとも思わせる節もかなりあって、その虚実の面白さもあるエンタテインメント映画である。

 インタビュイーたちの氏名一覧(全部ではない)。 
 トニー・マラーノ、藤木俊一、山本優美子、杉田水脈、藤岡信勝、ケント・ギルバート、櫻井よしこ、吉見義明、戸塚悦朗、ユン・ミヒャン、イン・ミョンオク、パク・ユハ、フランク・クィンテロ、林博史、渡辺美奈、エリック・マー、中野晃一、イ・ナヨン、フィリス・キム、キム・チャンロク、阿部浩己、俵義文、植村隆、中原道子、小林節、松本栄好、加瀬英明、、。

 わたしでも名前くらい聞いた有名人もいるが、へえ、あの妙な発言する人は、こんな顔でこんな話し振りかと、面白かった。
 例えば杉田水脈、藤岡信勝、櫻井よしこ、加瀬英明たち、他人の話を聞かない本を読まない自信に溢れた傍若無人発言ぶりに、ちょっと笑えた。
 櫻井よしこって人は、昔々わたしもTVを見ていた頃は、夕方のニュース読みネーチャンだったのが、今や右派論客オバサンなんだなあ、こんな顔してこう話すのかあ。

 日本軍による強制連行奴隷慰安婦は事実としてあったとする「事実派」と、民間業者がやった売春宿であって軍による強制はウソだとする「虚偽派」の言い分を並べる。
 映画としてのその結果は、監督の意図する「事実派」の優位方向に編集されているのだが、観ていて別の監督なら同じ材料をつかって、虚偽派の方向へ編集もできるかもなあ、なんて思った。

 「虚偽派」の大きな論拠は、政府がこれに関する文書資料を探したが、見つからないので証拠がないから、事実ではないとする。
 「事実派」の最大の論拠は、現にその現場で被害に遭った女性たち何人もの証人の証言があるから、虚偽ではないとする。
 南京大虐殺事件の事実虚偽論も同じようなものだろう。

 このギャップを埋めるのは、いったいなにだろうか。
 明確に事実なのは、軍隊には兵隊の行く先々に慰安婦のいる施設を設けたことである。わたしはこの施設とその利用について、戦争体験者である父からと、インパール作戦生き残りの人からも、直接に聞いたことがある。それらの体験記を書くために調べる途中でいろいろの資料にも性的慰安所は出てくる。

 それが軍の施設であろうと民間の施設であろうと、そこで性を売る女たちが居て、そこで男の兵たちは女から性を買ったことは事実である。
 それは戦争が女たちをして、性を売るべき境遇に貶めた事実があったということである。人間抑圧の事実を見つめる必要がある。
 人間の歴史の真実とは何だろうか、という永遠の大命題を考えさせるのが、この映画監督の意図だろうか。

 ところで、日本の若者たちは慰安婦問題をほとんど知らないことが、映画の中で強調されていたのが気になった。
 1993年宮沢内閣の時に、従軍慰安婦問題について河野内閣官房長官談話が出されてから、学校教育のために教科書にも慰安婦問題が載るようになっていた。
 ところがこれに対する右派からの反撃が強烈に起こり、1997年設立の日本会議などの右派活動団体の政治的圧力で、2000年代のはじめに教科書から姿を消した。
 この映画のインタビュイーたちにも日本会議の重鎮が登場する。今の日本の総理大臣と財務大臣が、なんとまあ、この会議の最高顧問であるらしい。

 その教育不在の結果としていまでは、日本の若者はアジア太平洋戦争に起因する慰安婦問題を知らない。その一方で、韓国の若者は大きな問題としていて、例えば慰安婦像建立運動にかかわる。
 この日韓教育における情報の量と質の大きな非対称が、現今の慰安婦から徴用工へと問題をひろげ、更に経済へと日韓対立に傷を深くしているのだろう。

 ところが、この映画のインタビュイーたちから、上映中止の訴訟がなされたとかなされようとしているとかである。
 インタビュイーとしてはコマギレに切りとられて、前後の別の映像資料から比較されて、結果としてバカにされた形に編集されると、怒るのも無理は無いとも思う。
 もっとも、その騒ぎは映画宣伝になるのだから、監督にはありがたいことだろうし、織り込み済みだろう。

 映画不振と聞いているが、100人ほど入る映画館に9割ほどの客席が埋まっていた。まあ、わたしがわざわざ見に行ったくらいだからなあ、次は「新聞記者」をみようかな。

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