2011/06/13

432森英雄・盲人外出案内ロボット開発に熱中

 バアチャンが押して歩くババ車がある。商品としての一般名はシニアカーとか言うらしいが、ジイチャンが押していることはめったにないのはどうしてか。
 でも、押す老人がボケたら、どこに行ってしまうか分らない。ボケてなくても、年とると道に迷う。いや、年とらなくても道に迷う人は多い。

 そこで提案、このババ車を外出案内ロボットに改良するのだ。このロボットにいろいろな行き先を教えておく。
 そうすると、このババ車に掴まって引っぱってもらえば、朝の散歩で公園ひとまわり、かかりつけの近所の医院、コンビニでも飲み屋でも連れて行ってくれる。
 どうです、こんなものがあったら、ボケ老人といわず、方向音痴の貴方にもピッタリでしょう。

 ここに「ニューひとみ」という代物がある。
 その名のごとく人間の目の代わりをして、手を引いて道案内をするロボットである。盲導犬をロボットにしたようなものだ。
 そうなのである、上に書いたロボットが本当にあるのだ。
 もっとも、シニアカーをロボットにしたのではなく、駆動モーターのある電動車いすに、コンピューター、カメラ、センサーなどをつけて、自動ロボット車にしたのである。

 昨日(2011.4.12)のこと、千葉市内のある会場で「第10回アイ・フェスタ」なるイベントがあった。
 アイとは眼のことらしい。はじめて行ったのだが、盲人のためのいいろいろな生活用品・機器類の展示即売会であった。盲導犬、文字読み上げPCソフトウェア、点字印字機、文字拡大機器などなど、多くの業者が出展というか出店している。

 なかには資生堂という化粧品屋も出ている。お化粧と盲人ってどうしてと思ったが、考えてみると鏡を見てお化粧をするのがあたり前だが、盲人はそうではないのだ。
 とすればそれなりの化粧作業術があるのだろう。それを伝授して化粧品も売る(のであろう、多分)。
 なるほど、盲人マーケットというか、そういう業界もあるのだと知った。
 
 わたしがそのフェスタに行ったのは、そこに出展する「ニューひとみ」の「展示業者」としてであった。
 主催者側が出展者のことを展示業者といって、そう書いた名札をぶら下げさせられたが、じつはこのニューひとみ出展は「業者」ではないのだ。
 ほかの業者とちがって、全く売る気がなくて、純粋にロボットの開発研究のためなのだ。業者ではなくてボランティアである。

 盲人外出案内ロボットの「ニューひとみ」を開発したのは、森英雄さんである。森さんは山梨大学の電子工学の教官に在職中に、このロボット開発をした。
 定年退官後は退職金をつぎ込んで会社とNPOを作り、その改良と普及に熱中している。
 わたしは森さんと専門は異なるが大学同期で、今は遊び友達。遊びのついでに、ロボット開発に野次馬として参加することもある。そのホームページもわたしが作った。
 森さんが千葉アイ・フェスタに「ニューひとみ」を出展するというので、手伝いに行ったのであった。

 会場は体育館であり、大勢の盲人用商品業者のテーブルのある中で、異色なのがこのロボットであった。隣には盲導犬協会の案内テーブルがあった。
 できそこないの白鳥模型玩具(よく言って)のような格好の「ニューひとみ」が、自動で会場の中を行ったり来たりしている。
 ナンダナンダと来場者たちの興味をひき、次から次へと訊いてくる。

 森さんはもう何回か出展しているから、なかには旧バージョンの「ひとみ」も知っていている人もいて、新バージョンの「ニューひとみ」改良点を褒めてくれたりする。
 森さんは張り切って、その都度いちから説明し、盲人たちに掴まり歩きの体験をさせてあげる。
 一緒に歩きながら、蹴飛ばしても轢かれて大丈夫と、身を挺して実演する。

 なにしろ、そこらにいる展示業者の「商品」ではなくて、自分ひとりでコツコツと作りあげてきた「作品」である。だから、その開発苦労話までしてしまう。素人は聞いても分らないメカニズムも一生懸命に説明するのだ。
 とうぜんのことながら、はっと気がつくと疲れ果てている。
 そこにわたしが説明係ピンチヒッターで登場するのである。こちらは適当にやる。

 森さんがここにきている目的は、このロボットを最良のものにしたいことにつきる。
 そのためには実際の利用者の声を聞いて改良すること、そして商品化をする業者が現れるかもしれないことを期待しているのである。異色の出展業者である。

 それにしても、よくやるものである。安くない出展料金を支払い、安くないロボット運送費と自分の交通費をかけて、その見返りは開発に役立つ盲人たちの声だけである。
 それを糧にして、今日もまた改良へと熱中しているに違いない、あの山梨大学ベンチャーのガラクタだらけ(に、わたしには見える)部屋で、奥方の持たせてくれる弁当を食いながら。

 こういう人を純粋ボランティアと言おう。
 このさき、どこまで改良が進み、どんな「ウルトラひとみ」や「スーパーひとみ」が出てくるのか、楽しみである。互いに長生きをせねばならぬ、わがジジ車とするためにも。

●歩行ガイドロボット「newひとみ」
http://sites.google.com/site/robotictravelaid/home?pli=1
●newひとみパンフレット
http://sites.google.com/site/robotictravelaid/home/new%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%BF%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%95110609D%EF%BC%ADD.pdf?attredirects=0&d=1

●ロボット車いす「ひとみ」(2009.02)
http://datey.blogspot.com/2009/02/blog-post_09.html

●今もしも失明したら(2008.8)
http://datey.blogspot.com/2008/08/blog-post.html

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