2013/02/06

717あまり浮世離れしすぎてもいけないので代官山に行ってきた

 
 わたしは浮世離れしていると、天野祐吉さんに決めつけられてしまった。
白戸さんちが引っ越すという。こう聞いただけで分かる人はテレビの見過ぎ、わからない人はかなり浮世離れした人だが、ま、どうでもよろしい。(以下略)」(「CM天気図・白戸家の引っ越し」天野祐吉 2013年2月6日朝日新聞朝刊)

 TVのコマーシャルのことらしいが、TVを観ないし、たまに見てもコマーシャルになるとすぐに他の局に替えるから、知りっこない。
 これでおまえは浮世離れといわれては、へえ、そうでございますか、まさかそれほどでもないよ。
 天野祐吉のこのコラムは愛読者だし、辛口をうまくおっしゃる口ぶりをいつも学ぼうとしているが、まさかわたしがその辛口の相手になるとは思わなかった。

 浮世離れしすぎてもいけないので、昨日、東京目黒の代官山に行ってきた。今はなにやら先端的な街になっているらしいのである。
 行かなくても差しつかえないけど、無理に用事をつくって見に行ってきた。

 わたしは昔の代官山もちょっと知っている。
 大地主の朝倉家がヒルサイドテラスなる開発をする前の、この旧山手通りの緑が豊かな街並みの記憶がある。その写真も撮ったのだが、今探したけれども見つからない。
 そのかわり、開発初期の1975年の写真が見つかったので、ここに載せた。昨日とった写真と比べると、ほとんど変わっていない。
   1975年 ヒルサイドテラスの風景

   2013年 上とほぼ同じところの風景

 1975年にヒルサイドテラスを訪ねたときのわたしの感想は、なんとまあ、あの豊かな緑が無くなって真っ白な箱建物ばかりになったもんだ、いくら有名建築家の設計だといっても、こんなにハゲハゲになるのがよいのかしら、というものだった。
 いま、その昔の緑の豊かさの名残は、開発された旧山手通りから裏に入った南の斜面に見ることができる。ここも朝倉家の土地だろう。
 空中写真でこのあたりの移り変わり状況を見よう。

   戦前の1936年(国土地理院)

 戦後初期の1947年(国土地理院)

ヒルサイドテラス開発初期の1975年(国土地理院)

   1997年(google earth) 
   右上に同潤会代官山アパート再開発事業の敷地整備中

    2009年(google earth) 
   蔦屋書店はこの後に左上の空き地にできた

 そして今、旧山手通り沿いは、緑豊かなお屋敷の風景は消え去って、白い箱の建物が次々と並んでいる。
 それらの建物群が、ある一定の枠の中にあるデザインであり大きさなので、それが街並みの気持ち良さの原因であろう。それは開発オーナーの考えであるだろうし、地区計画がそれを支えている。
 そして開発オーナーが独自の考えをもっての用途構成も、代官山というブランドを作り上げているようだ。若い女性が多いのは、そういうターゲットなのだろうか。

 最近の開発の評判は、「代官山 蔦屋書店」であるらしいので、昨夜はそこで3時間ばかり過ごした。そのうち2時間はレストランでの打ち合わせだから、正味は1時間である。
 だが、面白いことにレストランやら書店やら分からない場所での打ち合わせであったことだ。図書館の中にレストランがあるような雰囲気なのだ。

 ジャンルごとに囲われたフロアの売り場があり、そのジャンルごとに店員のテーブルがあって、まるで図書館のレファレンス係(蔦屋ではホテル並みにコンシェルジェと言っている)のようである。蔦屋だからもちろんディスクもある。

 おやっと思ったのは、古本も置いてあることだ。
 新書と古書の両方が混じる本屋か、なかなかやるもんだ。
 あっ、まてよ、もしかしたら全部古本かもしれないなあ、、う~む、やるなあ。

 この書店は、全体に本屋というよりも開架式図書館の雰囲気である。本を売っている図書館といってもよい。テーブルや椅子もたくさんある。CDの試聴も自由である。
 これはなかなかよろしい。なにしろ、立ち読みならぬ座り読みしながら、コーヒーでもサンドイッチでも食ってよいのであるらしい。

 わたしが近くに住んでいたら、毎日ここにやってきて、そのへんの適当な本を抱えて座り込んで一日中すごすことができる。本は買わないのだ。
 もっとも毎日やってると気が弱いから買わざるを得なくなるかもなあ。

 レストラン、喫茶店、コンビニエンスストアも一体的に併設されているから、昼飯も食うことができる。どこの書店でも飲食お断りが普通の世の中で、これは意外であった。
 わたしがそうしたいと思うように、おおぜいの若者があちこちの椅子テーブルの座り込んで、本を読み、モバイル機器を操り、飲食をしているのであった。

 かなり実験的である。おいてある本も、わたしは好感を持ったが、かなり偏っている。どこかマニアックでさえある。売れるのだろうか。
 余計な心配だが、そのような書店が経営的に成り立つものだろうか。
 このあたりのことに詳しい知人に聞いたら、非上場会社オーナーの趣味に近いらしい。蔦屋というブランドの実験店なのだろう。
 昔々の京橋丸善の、洋書+バーバリー+ハヤシライスという古典的スノッブ取り合わせの、現代的翻訳が代官山蔦谷書店かもしれない。
 代官山は先進的、実験的な事業をしやすいところなのだろうか。

 先進的で思い出したが、この地には戦前の実験的・先進的な住居群があった。
 代官山同潤会アパートである。いまは再開発事業で超高層ビルと店舗群に建て替わったが、そのプラニングやデザインの先進性は有名であった。
 1975年に写したその風景を載せておこう。


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