2014/06/23

966・中越山村の棚田集落は草木の自然と人間の営為が激しく攻防する戦いの最前線の風景

 半年ぶりの中越山村・法末集落である。
愛宕山から見る緑に覆われた法末集落全景 20140622
このまえは小正月行事にやってきて、雪道で転んで捻挫、ほうほうの体で帰宅したが、今回は転ぶこともなく、友人の車で往復した。
 この前来た1月は、どこもかしこも深い雪に埋もれていた。色の白いは七難隠すとて美しい風景だが、豪雪は生活を脅かすものでもある。その一方では美味い米のできる棚田の水源である。

 今や初夏、野山に田畑はどこもかしこも深い緑が覆っている。これも七難かくすとは言わないにしても、雪の白にとって替わる美しい風景である。棚田も稲が育ってきて緑である。
 だが、怖いほどに繁茂する草木は、家々の生活空間や棚田の生産空間を脅かすものでもある。見ようによっては緑に襲われている。豪雪に対応して豪緑とでもいおうか。

 山村集落とは、生活や生産のための山林・田畑・家々が、地域をバランスよく支配している人文空間である。眼に見える緑が多いとて、そこは決して自然そのものではない。
 もともとは草木が支配する自然空間であった山谷を、営々と長い時間をかけて人間が手を入れてつくりあげてきた人文空間である。
 その人文空間は、それを維持する人間がそこに暮らしていてこそ、存在することができる空間である。人間がいなくなると、たちまちにして草木が空間を支配して、10~20年で元の自然空間に還っていく。
法末集落の中の小千谷道(おじゃんち)風景 20140621

上と同じだが2008年の夏の風景 少し異なるところもある
 いま、山村集落は人間が減っていくばかりの人口減少最前線だから、その生産や生活のための空間は縮んで行って、人間が放棄した人文空間に、たちまち自然がはびこってきつつある。
そこは人間が自然を克服する闘いの最前線であったが、今や人間が退却していく最後尾の闘いの地になりつつある。
 そう、殿(しんがり)である。昔から戦いでは、殿が最も難しいされる。

 この山村における人間と自然との戦いの最前線にあるのは、斜面に水面を積み重ねる棚田である。谷筋から尾根へと斜面を幾重にも水平に切り裂いて登っていく。冬の豪雪がもたらす豊かな水が、実に美味な棚田米を生み出すのだ。
 棚田の風景を美しい自然環境と誤解している人もいるが、棚田は決して自然ではない。むしろ人工物の極致と言ってよいほどの、米つくり工房である。
 平地の水田は機械による米生産工場であるのに対して、人手がかかる棚田はまるで盆栽つくりである。それくらい人工度が高い。

 この棚田の米が、この地の自然と人間の闘いの最前線から産出する「黄金」である。わたしは食い物にはあまり関心がないのだが、この棚田米を喰い続けていたら、米の飯に関してだけは、すっかり口が奢ってしまった。
 だがこの金鉱山も、次第に鉱脈が後退している。耕作放棄地が広がりつつある。放棄棚田はたちまちにして草地になり、林地へと還っていきつつある。
 今や棚田という人文空間は、人間が自然に押される撤退戦の最後尾の場である。
棚田の人文空間と草木の自然空間が競り合う風景 20140621
耕作放棄地ばかりではなくて、居住放棄家屋も誰も住まなくなると、次第に自然に還っていく。
 毎年の豪雪が、放棄家屋を傾け、押しつぶし、土に還らせる。春になると草が覆いかぶさり、やがて樹木が生えてきて、20年もすれば樹林になる。
今、家屋が今消えようとし、草木の地に還ろうとしている風景 20140622
2年前の上と同じ位置の風景 20140514

5年前の上と同じ位置からの風景 20090418
 この集落の人口は、1950年代末には600人近くもいたのだが減少が進み、2004年の全村避難した中越震災でそれが一気に進み、今は70人、40戸ほどになっている。もちろん超高齢化である。
 ところが、子どももいなくて減少していく一方かと思っていたが、意外にそうでもない。2人の小学生がいて、麓の町の小学校から通学バスがやってくる。
 町に出ていた跡継ぎ息子が戻ってきて農業をしている家もある。町に出て行った元住民で、休日には農作業にやってくる休日住民たちもいる。
空き家を買って2地域居住をしている都市住民が数名いる。今年、夫婦でこの地に移転してきた人もいるそうだ。近いうちに、わたしたちの仲間の一人が、住民票を移して住むという。
 ここは大橋さんと内山さんしかいなかったのだが、姓も多様化してくる。

 人間撤退戦線の最後尾でありながら、意外に善戦する兵士は、美味い棚田米であるにちがいない。この魅力があるから、この山村はしぶといのだ。
 それは深い雪と緑の自然が人間に与えてくれているから、敵から贈られる塩であるのか。
2007年からの活動拠点3代目「へんなかフェ」は豪雪で傾き傷み草にも覆われてくたびれてきた

4代目「ヘンなかフェ」では、農家民宿を始めようか

参照




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