2019/04/13

1396【甲府盆地の桃源郷で花見・1】美しい桃の花見の真実は果実生産工場見学

熊五郎:こんちわ、ご隠居、花見に行きましたか。
ご隠居:おお、熊さん、まあおあがりよ、うん、今年もあちこちで花見したよ、4月9日には甲府盆地に行ってきたよ。

:甲府盆地と言えば、塩山から韮崎にかけて桃畑の花盛りはまるで桃源郷ですよね。
:その韮崎の穴山から新府にかけての台地上の穴山桃源郷で花見だよ、穴山に住む友人が毎年この時期に誘ってくれるので、仲間と行くんだよ。
:ちょうど桃も桜も花盛りだったでしょうね。
:この台地の上では桃の果実栽培が盛んで、一面に桃の花畑だよ、北に八ヶ岳、西に南アルプス、南に富士山がみえて、山の白雪と花のピンクとの取り合いがよかったよ。
花の向こうに富士山

:天気も良くて良かったですね。
:ちょっと高い丘の上から眺めると、向うに八ヶ岳が見え、こちらの桃畑がピンクに台地を染めている。その桃の花の下の草原に座って、菜の花に囲まれてビール飲んでると、本当に陶然としたね。
新府状から眺める八ヶ岳と穴山桃源郷
(2010年撮影、この数年は城跡の上まで登る体力がなくなった)
:そういう景色を、いまどきはインスタ映えっていいますね。
:そんなインスタントにできたんじゃないよ、長い歳月が育てた風景だよ。
:いや、その、ちがう、、、まあ、いいか。

:ただねえ、桃畑は自然じゃなくて人工の空間、つまり桃の実の生産工場だからね、花が美しいねとばかり言ってはいられない。景観的にはいろいろノイズが多いね。
:例えばどんなことですか。
:まずね、花を咲かせている桃の木が、植物としては異常な姿なんだよ。桃の木は桜と同じように、放っておけばすらすらと上に伸びて横に広がるはずだけどね、ここでは桃の実を採るのが目的だから、枝を下に曲げて横に広げて人間が地上から作業しやすい髙さに実が生るようにしてるんだ。
:それでこんなに平らに広く広がっているんですか、実は不自然な樹形なんですね。
:横に伸びると先の方が重くて枝葉が地に着いちゃうから、桃の木それぞれに真ん中に長いパイプを建てて、そのてっぺんから傘の骨のように針金を広げて枝を吊っている。このパイプや針金が美しい桃畑のノイズだね。

:あのね、ご隠居、それはノイズじゃなくてそれ自体がこの桃源郷の風景として受容しなけりゃいけませんよ、だって自然の桃畑を観に行ってるのじゃなくて、桃の実の製造工場を観に行ってるんだから。
:う~む、こりゃあ熊さんに一本とられたね。そうか、桜の樹形は自然で桃畑の桃の木は不自然、だけど咲くのを見せるのが目的の桜の花、果実を採るのが目的の桃の花、桜と桃を同じ眼で見てはいけないね。
:桃の実をいかに上手に育てて収穫するか、その技術のパイプ支柱の立ち並ぶ姿、それが桃源郷の本質でしょ、いわば美しい工場見学ですよ。臨海工業地帯を観る工場萌えという趣味の人がいるから、こちらもそれですよ。

:そういえば、桃の果樹園では花の満開は無いのだね、花の全部が実になると小さくなるので、満開になる前に花をかなり摘み取って、大きな桃が生るようにする。
:へえ~、生産者にとっては満開自体がノイズなんですねえ、何だか桃の木に気の毒ですが、工場だからしょうがないですね。その点、桜はのんきなもんですね。
:そうだね、桜は、人間が見て楽しみたいために、そのなりたい姿に育て、花は咲きたいように咲かせ、散りたいように散らせ、花見客も桜に合わせて楽しむ。まことに気楽な花だね。
:それに比べて桃は、人間が果実を採りたいために、幹や枝を無理矢理に曲げ、咲かせる花の多くを摘み落し、残した花に無理矢理に受粉させて重い果実を付けさせる。桃源郷は、美しい人工的な果実生産工場、まことに過酷な花ですねえ。
桜はのびのび枝を伸ばして花を咲かせている(穴山駅前)
:あのね、実はもうひとつ、大きなノイズがあるんだよ
:なんです、それは、。
つづく

参照
【甲府盆地桃源郷で花見】(1)(2)(3)、(4)

・2018年4月 甲州の桃源郷へ
https://datey.blogspot.com/2018/04/1328.html
・2014年4月 桃源郷で徘徊新府城天麩羅会
https://datey.blogspot.com/2014/04/919.html
・2010年4月 甲州は桃源郷
http://datey.blogspot.com/2010/04/260.html


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