2023/02/16

1671【小説読後感想】久しぶりに面白い戦争小説『同志少女よ、敵を撃て』/積読退治終活

『同志少女よ、敵を撃て』2021年 逢坂 冬馬 早川書房

 久しぶりに面白い長編小説を読んだ。感想を書いておく。
 合法的殺人を許す戦争において、普通は集団としての戦いの中で人を殺すものだろう。多くの兵員が団体となって殺しあう戦場においては、敵も味方も個人としてではなく集団の一員として殺人を行う。

 集団だから誰を殺したか分からないから、兵員たちは殺人に麻痺してくる。個人的な殺戮は原則としてないのだろうと思うが、かなり特殊な場合としてスパイ潜入とかで、個人を殺すことも合法的なのだろう。

 ところがこの戦争小説の主人公たちは、狙撃兵という地位にあって、戦場で大勢の中から一人を選んで打ち殺すという、顔の見える戦争を行うのである。しかもその数をカウントして、殺人数の実績を競うのである。もちろん多いと勲章に値する。
 その戦争殺人を戦争時の社会が許しても、個人の中の葛藤を克服するのは、狙撃兵として訓練を受けてもなかなかに難しい。その人間としての葛藤がこの小説の底流にある。

 この小説は、第2次世界大戦のドイツ・ソ連戦争(ソ連では「大祖国戦争」と言った)が舞台になっているから、ロシアもウクライナもソ連という一つの連邦国家であった時代のことである。
 しかし小説そのものが書かれた時は、ソ連は崩壊してロシアと幾つかに分かれた国家になっていたし、更にまた今起きているウクライナ危機が始まる前年に発表されたことが、読者には興味深いことになっている。

 今のロシアとウクライナの関係を知っているわたしたち読者がこれを読むとき、敵国同士となっている両国のことを文中に探してしまう。そして、その期待に応えてくれるシーンがあるのだ。もちろん著者はそれを予測していたのではないのだが、逆に言えば著者が予想しなかった深読みを読者にさせるのである。

 ソ連が多様な民族を抱え込んだ人工的な国家であったので、兵員の出身地による民族間の差別や軋轢が、戦いの中にも浮かび上がってくる、そこにウクライナの民族的位置の話もあり、それもまたこの小説の読みどころである。

 民族差別とともに、もっとも主要なテーマの一つに、戦争と女性の関係がある。
 古来、戦争は男の仕事とされてきたが、この小説は若い女たちが、銃による狙撃という特別技能を持つ兵員となって戦うのだから、男たちから畏敬と侮蔑がないまぜになった標的にされる。その内部の戦いは現代の問題である。
 基本的には、第2次大戦の独ソ戦争の中での一人の少女の復讐戦物語であるが、独ソ戦争歴史物語であり、多くの伏線と回収で起伏ある冒険小説として、読者を飽きさせない。

 これまで読んで超面白かった長編戦争小説は、Ken Follet[The Century Trilogy]三部作であった。それとはスケールは異なるが負けない面白さである。わたしは一度読んだ小説を読み返すことはしないのだが、これは2度読みしておおいに満足した。歳とって一度では理解不能になったのかもしれない。

●積読本退治の老後

 ところでわたしはこの本を県立図書館から借りてきて読んだ。予約してから借り出すまでに、なんと4カ月も待ったのであった。暇だからいいようなものだ。
 予約するときに市立図書館も検索したのだが、県立の何十倍もの予約者がいた。図書館利用はもう10数年やっているが、このような借り方をしたのは初めてであった。新本2000円ほどで本屋にたくさん積んであるから、いつでも手に入るのに買わないで我慢した。

 実は10数年前に、わが人生でもう新本も古本も一切購入しないと決断したのであった。人生終末期に近いのに増えるものがあり、その一番は本であると気がついたのだ。うちの本棚にある書籍をもう増やさないどころか減らすことにしたのだ。いわゆる終活である。

 それよりも前に、東京に構えていた小さな仕事場と仕事用住まいを閉じるときに、たぶん千冊以上はあった本を処分してしまったが、幾分かは自宅に持ってきた。
 その自宅にあるおおくの本を、友人たちに押し付けたり差し上げたり、チャリティ寄付したりしてきたのだが、それでも300冊くらいだろうか書棚にまだある。

 それらをうちに残しておいたのは、時間がたっぷりとあるが体力がなくなる老後の暮らしのなかで、毎日読み耽ろうと考えたのだ。買うときにいつか読むぞと積ン読にしておいた本が多くあるのだ。老後の楽しみは積読本退治である。

 からだの方は徐々に積読退治体制になってきたのだが、その現実の道程はいっこうにはかどらない。それはついつい品ポン古本を買うからだったので、十数年前のある日のこと自らに新旧本とも購入禁止命令を下した。
 だから調べものは本の購入でなくて、市や県の図書館に通うようになった。ただし問題は、そのついでに面白そうな本をついつい借りてきてしまうので、一向に積読本の消化に至らない。この小説の様に4カ月も待って借りるよりも、うちにあるものを先に読めよと、われとわが身に言い聞かせるているのだが、。

 実のところ、うちの本棚にある本の冊数はどれくらいだろうか、数えたことはない。一冊づつ勘定するのは面倒だ。
 そこで今、本棚にスケールを当てて、本が並んでいる背中の総幅を計ってみることにする。そして背幅というか本の厚さ合計は約2690cmとわかった。
 一冊当たりの平均値はわからないが、1.5cmとしたら約1800冊となる。え、300冊なんてものじゃないのかあ、そんなにあるのかあ??、本当かなあ?、これじゃあ死ぬまでに読み切れないなあ、、、まあ、いいけど、、。

本棚の一部
 この今勘定した蔵書数1800冊が正しいとすれば、東京に仕事場を持っていたころは、この5倍くらいは本を持っていたから、え、1万冊??、そんなにあったのかあ、。。
 今はほとんど処分してしまった専門書や、自分が作成した報告書類、行政関係書類などの書籍があったからなあ、思えば読みもしない読めもしない読む気にならない読めばよかった本もたくさんあったなあ、もったいないことしたなあ、いやいや、だれかれに押し付けて貰っていただいたから、無駄ではなかったと思うことにしよう。

 今ならばネットから多くの情報を得られるから、本を買うことは少なくなっているのだろう。でも、本を集めるという趣味に陥っていた可能性もあるからなあ、それが今は本を作るのが趣味になっている。

(20230217記)

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