2023/02/02

1668 【神宮外苑再開発問題】実質開園済都市公園に都市再開発法の異次元適用とその意図は?


●ようやく再開発事業開始へ

 東京の神宮神宮外苑地区再開発について、最近また世間が騒がしくなった。
 この再開発騒ぎの初めは2013年、オリンピックメイン会場となる国立競技場の建て替え事業であった。その主たる事業者はJSCであるが、これにいくつかの団体会館やら民間共同住宅やらが関連していた。なんだかんだとあったが、現在はいずれも計画通りに完成している。

 今回の騒ぎは、国立競技場騒ぎのあった土地の隣のまさに外苑そのもので、市街地再開発事業をやるということがテーマである。
 その再開発事業内容が、都市計画の変更環境アセスメントの行政手続きに乗ってきて、内容が世間に分かってきた。それと同時にその問題点の指摘が各方面から上がってきたのである。

 現段階で大きな騒ぎの主な点は二つあり、ひとつは再開発事業によって外苑名所のイチョウ並木が切り倒されるという話の流布であった。もう一つは超高層ビルが建つという、外苑の公園機能の縮小と景観変化への反対論である。

●樹林樹木保全問題と環境アセス

 イチョウ並木の問題は、更に他の樹林の保全問題へと話は広がり、これに並行してランドスケープアーキテクトの石川幹子さんが、専門家として自主的に植生調査を行って問題点を検証し、イコモスの委員会の立場で指摘をした。更に進めて事業者の作成したアセス評価書の植生に関する調査に誤りと虚偽があり、再審議をアセス審議会に提言したのであった。
  参照:イコモス緊急提言

 その指摘の内容については、わたしは専門家でないからコメントできないが、読んでみると虚偽であるとまで言われているのだが、それを作成した事業者側の専門家はどう対応するのか気になる。
 このアセス作業を行ったのは、形式上は再開発事業者だが、実質はアセスコンサルタントだろう。それは日建設計だろうか、そして植生調査担当者はなんというお方だろうか、専門家の矜持が問われているのだから答えてほしい。

 東京都アセス審議会は、よくある緑好き市民おばさんたちによる,感覚的反対一点張りではなくて、専門家から詳細な現場調査をもとにしたアピール、しかもイコモス委員会からとて、無視できなくなったのであろう。アセス審議を完了ではなく、継続審議するとしたのである。今月の審議会で、事業者はイコモスからの指摘へに対応する調査を提出せよとなったらしい。
 その背景には多様にして多数の一般市民からのアピールがあり、一部国会議員等の政治家も動いてきたからだろう。

 このイコモスの提言を作成した石川幹子さんは、かつて国立競技場の建設においてもその立体公園について問題を指摘したアピールを行ったことがあるが、都市計画審議会は完全に黙殺したのだった。
 あの時にもしもアセスが必要であったなら、今回のように事業者JSCは対応させられていただろうか。今回も都市計画審議会は、地区計画の変更を樹木問題には全く触れないで通してしまった。ふたつの審議会の違いが興味深い。

 さて、事業者はそのアセス評価書の記述を、石川幹子さんに「虚偽」だらけであるとばかりに指摘されているが、果たしてどう反論するのか興味津々である。当然に正しい評価書であるというだろうが、アセス審査会はどう扱うだろうか。

●非都市計画個人施行再開発事業

 今回は都市計画としての形式上は国立競技場建て替えの延長上だが、内容を見れば事実上は単に隣の土地の再開発である。なぜあの時にひとつの地区計画にして都市計画決定したのか分からない。あの時には、今よりもっと分らなかったのに、なぜ都市計画審議会は審議できたのか、それが分からない。
 参照:2013/12/07【五輪騒動】都市計画談議(その5)

 もしかして、オリンピック計画中のどさくさにまぎれて、こちらも合わせて都市計画決定すれば、あれこれ指摘されないで済むと考えたのかもしれない。この2013年の都市計画についての諸問題は、今になって初めて言うのではなく、わたしはあの時すでに書いている。
 参照:2013/12/03【五輪騒動】都市計画談議その1その9

 今回は宗教法人明治神宮を主たる事業者とする神宮球場と、独立行政法人JSCを主たる事業者とす秩父宮ラグビー場の、場所入れ替えによる建て替えである。そしてそれに隣の伊藤忠商事ビルもまき込んで、市街地再開発事業(都市再開発法に基づく法定事業をいう)に仕立てるとする。

 国立競技場の場合は隣の土地も取り込んでの公共用地だけによる建て替えだった。しかし今回は土地権利者が4者の複数である。神宮とJSCの土地建物の入れ替え建て替えと、伊藤忠ビル建て替えをひとつの事業として合わせ技で建設にする。
 実のところ、外部の者には建築物等の空間的な配置や形状は事業者の発表資料である程度分かるのだが、事業の進め方や内容は部外者にはまことに見えにくい。
 しかも、市街地再開発事業個人施行、非都市計画事業)という、ある種のブラックボックスの中で進むから、ますます見えにくい。

 秩父宮ラグビー場は国の機関JSCによる公共施設だから、この建て替え移転事業が市街地再開発事業の中で行うとしても、ブラックボックスでは困る。国民にいつも見えるように事業を進めてもらいたい。 

 一方、その他は民間事業者の施設だから外に見えなくても良いだろう、と言われても困る。伊藤忠ビルはともかくとしても、野球場などの神宮のスポーツ施設は、多様な人が利用するのだから、できるだけオープンに事業を進めてもらいたいものだ。
 そもそも神宮外苑の土地が戦後に明治神宮の所有になったのは、国有地であったのを特別に市価の半額で買い受けたのだから、半分公共的な土地である。であればこそ都市計画公園指定になっている。

 ラグビー場はPFIで建設するとて、すでにその民間事業者もコンペで鹿島グループに決定しているそうだ。その設計者の中に国立競技場審査員だった建築家の内藤廣さんがいるのが興味深い。
 このラグビー場の当初建設業者が鹿島だったから、そうなるだろうと言われていた通りだ。鹿島のPFIコンペ入札価額が他のコンペチタ―たちと比べて飛びぬけて安く、鹿島が意地で取ったとの噂である。

 ついでに言えば、国立競技場は大成建設だったが、これも最初からそうだった。まだきまらない次の大物は神宮球場だが、これも同様な理由で大林組になるだろうとの噂とて、日本の建設業界の伝統というか慣習というか、見事なものである。

●UR都市再生機構の登場

 さてそのラグビー場と市街地再開発事業との関係だが、あの地権者たちとは違ってちょっと特殊な立場になるらしい。
 それについては業界新聞記事で最近知ったのだが、市街地再開発事業について施行認可申請を、個人(4者共同)施行として、施行者は明治神宮、伊藤忠、UR都市機構だそうである。JSCの名が消えているのはなぜだろう。

 それに代わってURが登場する理由をよく分からないが推測すれば、JSCは再開発事業のためにURに土地信託をするのだろうか。いわゆる土地土地権利変換で敷地を決め、その敷地に建てるラグビー場は特定建築者制度でPFI事業者が建設するのだろう。これも推測である。

 とすれば、市街地再開発事業にJSCは全くノウハウがないので、こういうとき独立行政法人でありかつ市街地再開発事業のノウハウを持つURを起用したのであろう。UR起用で国立競技場の時のような大ドジをしない心構えなのだろう。そういえば、早い段階ではこの事業全体をUR施行としようとの検討もあったと、某筋から聞いたことがある。

 生き馬の目を抜く東京の民間不動産屋の手練手管に、ナイーブな国家機関のJSCが手玉に取られて、国民の財産であるところの現資産を損しないように、むしろ得をするように、うまく立ち回ってほしいものだ。
 その点でURを引き込んだのは良いことである。どれくらい頼りになるのか知らないが、。実は私は以前にURの起用について2019年ブログに書いたことがある。
 参照:五輪便乗再開発

●なぜ法定再開発か

 でも、なぜ市街地再開発事業に持ち込んだのか。
 普通の再開発事業の様に、権利者たちが敷地や建物を共同化する、なんてこと全くやっていないようである。それぞれの敷地別に容積率の移転はすでに地区計画で決めてあるから、それぞれ権利者間で土地を交換したりして、それぞれの敷地にそれぞれ建物を建てればよいではないか。
 それは当然ながら、市街地再開発事業にすることが事業者に大きなメリットがあるからだ。一般にそのメリットデメリットがいくつか言われるが、ここではデメリットはないようだ。

 だが、都市再開発法第3条にある市街地再開発事業発事業とするためにいくつか要件があるのだが、それにどうも抵触する可能性があるのだ。これは事業そのもののデメリットとは言えないが、事業者にはそれを前提とするにはリスクがあったはずだ。重要なことなので一応デメリットとして書いておく。

 その要件であるが、都市再開発法3条にこうある。「三 当該区域内に十分な公共施設がないこと、当該区域内の土地の利用が細分されていること等により、当該区域内の土地の利用状況が著しく不健全であること」。

 ところが外苑の現地をだれがどう見てもこれらに該当するとは見えない。道路公園などの公共施設は整っているし、権利者4者の土地はいずれも広くて細分化されいない。
 建っている現建物は、ラグビー場も野球場も耐震改良が済んでいるし、歴史的価値さえある。1980年建設の伊藤忠ビルはどうか知らないが、すでに高容積高層高度利用建築である。いずれも不健全土地利用とは言えない。
 土地利用状況が著しく不健全どころか著しく健全だから、都市再開発法の適用は不可能としか見えない。これを都知事が施行認可するには法解釈で通り抜けるしかないが、それはもう都市計画というよりも政治的な何かが必要であったかもしれない。

 不可能なように見えるところを可能なように見て、東京都知事の認可を受けるのは、かなりの難物であるだろう。ネットで見る限りは、港区から都への認可進達はすでにあったようだが、未だ都知事による施行認可は降りていないようだ。
 だか、ここまで来るには当然に根回しやら会議やらで、事前に認可可能との判断が出ているのが通常の行政手続きである。

 一般的に市街地再開発事業と言えば、その事業前も事業後もかなり複雑な土地建物であるが、ここでは拍子抜けするほど前後共に超簡単であるのが特徴だ。
 市街地再開発事業特有の複雑な権利変換手続きは、事実上は不要に等しいだろう。つまり市街地再開発事業とする意義が感じられない。流行語で言えば異次元再開発だな。

市街地再開発事業のメリット

 では市街地再開発事業とする事業者にとってのメリットは何か。
 ひとつは事業への一般会計補助金の交付があることだ。つまりただ貰いの税金からの支出を事業者は受け取ることができる。
 実のところは、わたしは現在の国や都が定める市街地再開発事業への一般会計補助要領を知らないので、不適用かも知れない。
 もしこの事業が補助要領に適合するならば、かなりに額の補助金が国と都から事業者に交付される。計算方法は簡単ではないが、前例的にはうまく行けば事業費の3分の1くらいになる。なお、JSCはもともとが国の税金を原資として成り立つ独立行政法人だから、補助対象とならない。

 ふたつめのメリットは、税制優遇である。市街地再開発事業によって土地や建物の権利関係が動いて建設されるが、これらの不動産取引にかかる租税が免除や減額される。
 あの立地であれだけ大きな土地が動き、あれだけ大きな建物を建てるとしたら、それにかかる取得税や固定資産税などは税額は巨額であるはずだ。これの税減免措置が市街地再開発事業適用の主目的かも知れない。

 とくに最大の地主であり最大の建築者である明治神宮には、大きなメリットがある。これがあることが再開発事業への動機になっているに違いない。
 もちろんそれは三井不動産とか再開発コンサルタントでもある(らしい)日建設計などの入れ知恵であろう。なお、JSCは免税団体だからこれは関係ない。

 メリットの第3は、事業区域内の敷地間で容積移転(正確は容積の適正配分)ができることである。これが事業者にとって最もメリットがありる。
 ただし、これは正確な言い方ではない。容積移転は市街地再開発事業によって可能になるのではなくて、その前提となる特定地区計画によるものである。だが、事業の前提であるからメリットとして挙げておこう。

 外苑地区市街地再開発事業区域は、大部分が都市計画公園地域内であるために、そこに他から容積率移転しても公園規制で超高層建築が不可能という特徴がある。
 そこで事業化の前提として公園指定を削除するという荒業の都市計画変更をしたのである。形式的にはともかくとしても、実態としては都市公園内に超高層地区を設定したのである。

 外苑地区市街地再開発事業区域が、イチョウ並木の東に沿って何も建築しない細長い尻尾を出しているのは、その部分の容積率をイチョウ並木の上空を飛ばして、公園指定削除した超高層地区に持ってくるためである。いわゆるゲリマンダーになっている。このような区域設定は、都市計画道路整備がある場合のほかは珍しい。

 公園指定を削除した範囲も、ゲリマンダー形態をしている。実のところ今回の事業の最大目的は公園指定解除であったらしい。そのために公園まちづくり制度を作り、都市計画変更し、市街地再開発事業の持ちこんだのであろう。ここまで持ち込むに10年以上かけての新解釈再開発戦略展開に、ほとほと呆れつつ感心する。

●事業者たる地権者たちの顔が見えない

 さて、事業が目に見えて動き出すようだが、この事業者のうちの宗教法人明治神宮は、最大権利者であり、できあがる施設の最大の持ち主、運営者となるはずである。つまりこの事業における社会的責任が最も重いはずだ。

 それなのに、この宗教法人はこの再開発事業に関して、全く姿も形も見えず声も聞こえない。明治神宮はこの再開発の影響を受けるのに、何をしているのかと心配してあげるという、まさに実情を知らない人もいる。明治神宮こそが、この再開発の主役なのである。影響を受けるのではなくて、与える側にいるのだ。
 その明治神宮ウェブサイトには、全く再開発のことを書いていない。何を考えているのだろうか。これは宗教活動ではないから良いのだとか、神様だからというわけでもあるまいに、どうしてだろうか。

 最も世間が問題にしているのは、法的にはクリアしたとしても事実上は公園内に超高層ビルを建てることであり、それは実質的に神宮の事業である。実はもう一つの問題となっている保全すべき樹林も、神宮の所有地である。それなのに当事者が全く知らぬ存ぜぬの体で、三井不動産に任せきりでよいものだろうか。

 わたしはもうひとりの権利者の態度にも不満がある。東京都心に作ると都市計画で決められていた広い公園が、この事業のために削除されたのだが、それには文科省が大きく加担したことである。そのあたりを関係者はどう思っているのだろうか。

 もしかして公園まちづくり制度に従っているから良いのだと思っているとすれば、都市計画公園廃止に寄与する制度に国が与してはいけない。それは法ではなくて東京都独自の制度に過ぎない。しかももしかしてこの外苑再開発事業のために作った制度であろうかと、わたしは疑っているのだ。参照:五輪便乗外苑再開発

●公園緑地に都市再開発法適用の荒業

 なんにしてもこの件で、元都市計画家のわたしが違和感と疑念を抱いている一番の点は、すでに整備され利用されてきた公園緑地を、都市再開発法を適用して公園施設の建て替えをすることである。
 それはこの方が立法時にも今も予測していなかったであろう。この意表を突く手法の案出は、この地区の最初の地区計画指定をした2013年よりも前のことのはずだ。同時にセットで公園まちづくり制度も案出したのだろう。そして10年以上かけて前代未聞の市街地再開発事業として、ここまで持ち込んだのである。

 その手法を案出した専門家は、多分、再開発プランナー資格を持つ都市計画家だろうが、それはどなただろうか。日建設計か都市計画設計研究所か三井不動産かに所属するお方か、あるいは東京都のインハウスプランナーだろうか。
 思いもつかなかったわたしは、その都市計画家に嫌悪と畏敬を抱くのである。そしてその手法を節税方法を選んだ地権者たちにも同じ思いである。
 立法から54年、都市再開発法は意外な方向に、大きく変貌変質したのである。

                      (2023/02/01記)

参照:国立競技場及び神宮外苑問題瓢論集(伊達美徳)https://datey.blogspot.com/p/866-httpdatey.html


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