近頃はいつも臨港パークあたりでは、そこここに仮装グループがいて、写真の撮りっこをしている。仮装行列でもなくて、ピクニック気分のようだ。
はは~ん、これが評判のコスプレってやつかと気がついて、じろじろと見て回る。
どうもアニメとか漫画とかの登場人物の真似らしいが、それぞれが勝手なものに扮してばらばらと歩き回っている。
知ってるものが見れば、それぞれがなに扮しているか分るだろうが、知らないこちらには、大勢がひとつのコンセプトにはないので、仮装行列からの流れ解散みたいに見える。
そうだよなあ、いまはなんでも参加の時代らしい。受身ではないのだ。
演奏会だって静かに聴くのじゃなくてポップ系コンサートでは客も立ってゆらゆらひらひらわーわー、レコード(CDか)だって聞くだけじゃなくてカラオケで歌うんだから、漫画だってアニメだって見るだけじゃなくてコスプレで参加するってことだろう。
先日、住宅展示場にいったら、コスプレ住宅さえあって驚いたものだ。
そうだ、結婚式こそ元祖コスプレだ、って思いついたら、新港地区に登場しようとしている例の結婚式場、あれはコスプレ建築なんだよなあ。
結婚式というコスプレイベントの会場としての建物は、当然のことながらコスプレ意匠をまとうのであろう。
ネットでコスプレの会を行う会場を見たら、横浜ではパシフィコでやっているとあるから臨港パークに出てくるのだろう。赤レンガの開港記念館でもやっているし、新港の赤レンガ倉庫でもやっている。どうもレトロな雰囲気が仮装撮影に気持ちがよいらしい。
やはりネットで結婚式場を検索すると、出てくる写真がどれもこれもコスプレ大会である。人物もそうだが、背景の建物やら庭園がどう見てもシンデレラの夢の中で、こちらもコスプレである。。
ならば、こういう結婚式場でコスプレ大会をやれば、建物だってコスプレしているのだから、これこそお似合いだろう。でも、会場費が高すぎで若い子たちには無理かなあ。
さて、いまコスプレ建築と書いた。これって悪意を持って書いているのではないので、ネンノタメ。
これから見世物建築とか、ハリボテ建築とかって用語も使うつもりだけど、同様に悪意はないので、ネンノタメ。もしかしたら褒め言葉かもしれない。
「結婚式という儀式そのものが私的な集団の内側の儀式である。だからそのデザインはその私的な集団の意識を徹底して刺激する、ただそれだけを目的にしたデザインでしかない。だから張りぼてになってしまうのである」
これは建築家の山本理顕さんが「景観の私物化」と題して、日刊建設工業新聞6月15日版に書いたコラムの一節である。
原因が私的な施設だから、結果が張りぼて建築になる、という因果関係は、間になにか説明を入れていただかないと、わたしには分らない。
でもとにかく、専門家が見て「張りぼて」なのだそうである。
張りぼてとは、なんだろうか。辞書を引くと、張り子とおなじで「木型に紙を重ね貼り、乾いてから型を抜き取って作ったもの」だそうだ。小さなものは縁起物のダルマ、大きなものは青森県のねぷた(ねぶた)である。
江戸時代は籠細工で巨大な仏像とか歴史上の人物像を作って、見世物にして大流行したこともあったそうだ。
それが転じて見かけだけで中身がない「見掛け倒し」という意味を持つようになった。
さて、建築の張りぼて、つまり見掛け倒しとは、どういうことだろうか。まさか竹籠細工に紙張りお絵かき御殿ではあるまい。
ここでこの結婚式場が問題になっているのは、その景観つまり外から見える姿なのである。専門家は見るだけで張りぼてと分るのだろうか。
鉄の骨組の上に石を貼ると、張りぼてか、そうするとそこらにある建物全部張りぼてだな、ということは、いまや張りぼては悪い意味ではないのであろう。
逆に、張りぼてでない建築はなにか、エジプトの王様のピラミッドだろう。石やレンガだけを積み上げて造るヨーロッパやアラブの中世教会もそうだろうか。日本の古典的木造建築もそうかもしれない。
現代建築はどうだろう、鉄やコンクリートの上に、になやかやと貼り付けているのが普通だから、どれもこれも張りぼて建築だろうか。
金がなくて内装も外装もしないコンクリート打ちはなしのままの家が、もしかしたら張りぼてでない建築か(うん、青山にあるな)。
三菱一号館美術館が純粋なレンガ造として最近建ったが、これは昔の建物のコピーだから、正確には現代建築ではない。
そうなると現代では張りぼて建築のほうが当たり前だろう。あ、公園や橋の下のダンボールのおうちは、意外に張りぼてじゃないかもね。
もしかして、この結婚式場建築は、あの中世西洋建築のように、本物の石やレンガを積みあげ、アーチやボールトを作り、鋳物の金物を作り、アルミサッシなんか使わないでつくるつもりかもしれないぞ。
え、これでも張りぼてか、って、事業者は怒ってるかもしれませんよ。
うん、たぶんそうに違いない、だって、これから続く永遠の誓いの幸せな時間を、フェイクの空間で過ごさせるようなことは、しませんよ、ね?
では、見掛け倒し建築の意味は、外見と中身が違うってことなのかしら。
ならば、結婚式場にはなにか決まった様式があるのだろうか。それはもう西欧キリスト教会こそがその様式だと、事業者は思い込んでいるようだが、建築家はそうは思わないのだろうか。
この結婚式場だって、それを設計する建築家がいるはずである。
横浜市都市美対策審議会景観審査部会議事録(2012年1月10日)の出席者名簿に、事業者の役員とともに小野公義(清水建設(株)設計本部グループ長)の名があるので、この人が当の建築家であろう。
おお、清水建設か、横浜開国時代にここで一発大儲けしようと内外からやってきた有象無象のなかに、清水喜助(2代目)とブリジェンス(アメリカ人)がいた。この二人は組んで土木建築工事で大活躍して大儲けした勝ち組である。
この清水喜助が、いまの清水建設の近代への礎を築いた人である。この結婚式場の設計者は横浜に深い縁がある人の流れを汲んでいるのだ。
そうか、清水喜助、横浜開港時代、ブリジェンス、そして彼らの作った建築のイギリス仮公使館、横浜町会所(横浜開港記念館の前身)、築地ホテル館、国立第一銀行へと連想が飛んでいく。どれも開国時代の日本の、あまりにも有名な建築である。
そして驚くことに、これらはみな木造建築であったのだ。鉄骨ならぬ木骨瓦張り、木骨石造という、これぞまさに「張りぼて」建築であり、その和洋混交シッチャカメッチャカに見える格好はコスプレ建築である。
このコスプレ建築こそが、日本の夜明け時代を象徴するランドマークとして世に大きく迎えられていたのであった。そしてそのころ、あの鹿鳴館では、本当にコスプレ宰相とコスプレ芸者たちが、外国人たちと踊っていた。
そういう時代を拓いた一人が清水喜助であることを思うと、いま、横浜港にコスプレ建物が登場することは、なにか因縁があるだろう、、、え、何の関係もない?、そんなことないでしょ、だって清水建設設計だよ。
まあ、よろしい、開国時代の張りぼてコスプレ建築のことを、建築史の専門家は擬洋風建築といっている。
それは決してゲテモノ建築ではなく、ひとつの時代が終わって次に時代へとうつるときに、日本の技術者技能者たちが西欧型建築家へのステップを刻んでいた懸命の努力の賜物であり、だからこそ時代のランドマークたりえたのであった。
さて、清水喜助の衣鉢を継ぐ建築家のデザインする、横浜新港新登場「新擬洋風」建築は、いまの閉塞する時代を拓くランドマークとなるであろうか。
他の建築家から批判があるのだから、当事者の建築家として堂々と言葉とデザインで応えてほしい、ガンバレ。
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