この新国立競技場を建て替えるための地区計画という都市計画は、地元の人たちが東京都に提案した結果でできたものであった。
地元とは地主たちで、国立競技場の持ち主の国はもちろん、東京都や明治神宮や、青山通りのビルの持ち主などである。
都市計画法に「都市計画提案制度」なるものがある。昔は行政が一方的に立案して施行するのが都市計画だったのが、今や市民参加の時代である。
地域住民が自分の住む地域を良くするために、今の都市計画を変更するとか、新しい都市計画を決めようと、行政に提案することができるのだ。これを受けて行政がその都市計画を行う。つまり地元からの都市計画というわけである。
というわけで、あの新国立競技場の都市計画「神宮外苑地区地区計画」は、競技場の持ち主の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が提案したのである。
ただし、JSCの新競技場計画の土地だけの地区計画ではなくて、神宮外苑も青山通り沿いのビル街までも入っているから、これはJSCがそれらの地権者の代表となって提案したのだろう。
さて、あの地区計画の範囲にはどれほどの地権者がいるのだろうか。地区計画図のA-1、A-2、A-3、A-4の各地区は、東京都と国、B地区は明治神宮という大地権者である。
A地区がちょっと複雑で、秩父宮ラグビー場は国、そのほかにTEPIA財団、青山通り沿いの民有地があるが、一か所でもっとも地権者数が多いのは、A-4地区の裏になっている外苑ハウスという集合住宅であろう。
外苑ハウスは、1964年の東京オリンピックの時に外国報道関係者用に住宅公団がつくった宿舎で、その後、分譲した。196戸あるそうだから、地権者の数もそれくらいはいるだろう。
そもそも、新国立競技場だけの建て替えが目的だから、地区計画の区域をそこまで広げなくても良さそうなものだ。つまりA-1、A-2、A-3の範囲で十分だし、同意だって国と都だけだから簡単しごくだろう。それなのに、なぜそこまで広げたか。
多くの地権者に話をつけて同意書をもらったのだろうから、それなりに時間と手間がかかったであろう。なお、都営住宅の住民は土地権利者ではないから、対象外である。
ここでなぜ広げたか妄想してみよう。
都市計画提案制度は民間から積極的に都市計画に参加する制度だが、もしも国と都の土地だけで提案すると、それはお役所同志のなれあい都市計画だという批判が出ると危惧したのかもしれない。
あるいは、単に競技場だけの建て替えのための都市計画は、国のエゴであると非難も出るかもしれない。
そこで、まちづくりとして仕立てるために、周りの地権者にも話をもっていったら、参加者が増えたということかもしれない。
あるいは内部検討段階で情報がまわりの地域に漏れたとかで、どんどんと増えたのかもしれない。
では、なぜ参加者が増えたか。
妄想の2段重ねだが、新国立競技場がらみの地区計画で容積率や高さ制限が緩和されるのなら、うちの土地でもそれをやりたい、たぶん、そう思う人が結構いたのであろう。
じっとしているだけで不動産価値があがるのだから、こんなうまい話はない、これは美味しい都市計画だと、土地持ちは思うに違いない。
明治神宮も外苑の広い土地をもっと活かしたいと思うし、民有地はもちろん大きなビルに建て替えて儲けたい、そう思うに決まっている。
ということで、われもわれもとなって、あんなにもひろくなったのだろう、、、か。
いやいや、なにをいうのですか、わたしどもはそんなさもしいことを考えてはいませんよ、オリピック成功のためには協力を惜しまないってことに、きまってますでしょ、、。
おかげで官民協同の都市計画になって、国立競技場の建て替えというエゴ都市計画とならなくて、地域まちづくりに貢献できるという大義名分もできた、と、JSCは思っているかもしれない。
で、とりあえず計画内容が固まっている国立競技場がらみのところだけに、オリンピックの誘致運動のプレゼンにおいて建て替えの保障として言えるように間に合わせるために、先行して地区整備計画をかけておき、そのほかはおいおい追加しようという作戦であろう。
面白いのは、大部分が再開発促進区の緩和型地区計画の区域にしているのに、絵画館に関連する団扇のような形のところだけは、一般の保全規制型の地区計画の区域としていることである。
さすがに絵画館を建てなおして高層化するとか、軟式野球場に高層ビルを建てるのは、それこそ外苑の歴史的文脈から畏れ多くて無理過ぎるってことであろう。まことにごもっともである。
そのかわり、絵画館の周囲の道路の外側は再開発促進区だから、そのうちに地区整備計画が出てきて、高いビルが建つ可能性は十分にある。その用意はできたのである。
ところでこの都市計画案の近隣住民への説明会は、2012年の11月であったそうだ。つまり、あの国際コンペで新国立競技場案が決まった直後である。
当然、関係する地権者たちは知っていただろうが、ここで初めて知って一番びっくりしたのは、たぶん、都営住宅の住民たちだろう。
それよりまえに公表されたコンペの要綱を見れば、都営住宅が無くなることは明白なのだから、それまでには東京都の住宅局は住民に対して何らかの手を打っていたのだろう、と、常識的には思う。(つづく)
参照→◆新国立競技場に関する瓢論と弧乱夢と似非言い
1 件のコメント:
外苑ハウスには衆議院議員などといった有力者が居住していて、そのような欲深な一部住民が石原都知事とのコネをフル活用してオリンピックに便乗しての「建て替え決議」に強引に持ち込んだ経緯がありますね。JSCのビルにもスタジアム通り側の一部敷地を提供するなどし、自分達は一円も支払わずに収益性を上げるタワーマンションを建てる予定です。合意形成?そんなものはできるわけがありません。ですから全てはこっそりと恣意的に決められたのです。こんな悪賢い計画は新国立競技場やJSC・日本青年館ビルと一緒に「白紙撤回」すべきですね。70m超で500戸のタワーマンションなど神宮外苑には不必要でしょう。都税を投入するなど論外であるべきです。
そもそも「外苑ハウス」は64年の東京オリンピックで各国プレスの宿舎として建てられた、いわば旧国立競技場の弟みたいなものです。どちらも壊さずに上手に活用すれば「世界遺産」にだってなれたかもしれません。
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