2月末日、日本建築家協会(JIA神奈川)主催の二つのシンポジウムに顔を出してきた。会場がどちらも近くなので歩いて往復、午前の部のあと昼飯にうちに戻り、午後また出かけた。
午前中のシンポは、『横濱らしい「横浜」戦災復興』と題して、横浜都心部の関内、関外にある防火建築帯をとりあげての話しだった。
出演者は、その防火建築帯で博士号をとった研究者の藤岡泰寛さん、横浜を舞台に書き続ける小説家の山崎洋子さん、横浜の街を撮り続ける写真家の森日出夫さん。
会場の参加者は100人もいただろうか、たぶん建築関係者ばかりだろう。テーマが地味というかプロ過ぎる。
でもまあ、建築家たちがこの地味なデザインの戦後復興時代の建築群に目を向けるようになったのは、ようやくにして建築史にも戦後が登場し、大衆の建築と都市の時代が来たということだろう。
でも、建築界は有名建築有名建築家主義の桎梏から、抜け出ることができるのだろうか。
横浜戦後復興期の防火建築帯造成事業の模範例:福富町 |
藤岡さんの、横浜の近代史から説き起こして、戦後復興の防火建築帯までつながる話は、なかなかに面白かった。
だが、面白いと思うのは、わたしが興味を持っているからである。それは、わたしが若いころ防火建築帯づくりに大阪で携わった経験があり、現在わたしが暮らす横浜都心の徘徊コースの日常風景のなかにあり、これまで若干は自主研究したこともあるからだ。
専門研究者の研究対象となることも、建築家の興味の対象となることも、いろいろな意味で嬉しい。
横浜の街で、その戦後復興建築が建ち並ぶ街を行き交う普通のひとびとには、開港記念館や赤レンガ倉庫のようには、見れども目には止まらないものだろう。
それが証拠には、山崎さんも森さんも、このシンポに出演を依頼されて、初めて防火建築帯なるものを聞いて、歩いて眺めて、いつも見ている風景が、実は横浜の戦後復興に重要な役割を果たしたと知ったという。
横浜の都心部では「歴史を活かしたまちづくり」と称する行政施策が行って、歴史的建築の姿を保全することで、地域のアイデンティティを目に見える街の姿にしようとしている。
だが、戦前の近代日本開港の歴史を強調するスタンスにあり、戦後史はまだ評価されていない。戦後復興期をどう位置付けるのか、まだ見えていないらしい。
戦後史のはじまりの、戦災からと占領からの復興まちづくりが、いま、ようやく評価の舞台に登ろうとしている。さて、その評価は、プラス側にでるのか、マイナス側にでるのか、なかなかに難しい局面にあると思う。
戦前の様式建築とは違って、眼に見えて珍しくもないし、特別に美しくもないから、世間からは受けがイマイチだろうことは、赤レンガ東京駅と東京中央郵便局の保全への世間の態度にみるがごとしである。
だが、これこそが普通の大衆の暮らす街の風景であり、横浜都心のベースとなっている景観なのである。
防火建築帯へのわたしの評価は、既に書いているので改めてここには書かない。あの時代に復興建築に関わった者として、保全すべきだなんて感傷は持っていない。
横浜都心ではこれらの建築群が、戦後から現在までの街のアイデンティティとなる風景を形成してきたことは確実なので、その風景の継承と新たな展開に、建築家たちが、あるいは横浜市の「歴史を生かしたまちづくり」行政で、今後どう取り組むのだろうかと、大いに興味を抱いている。
研究会が制作したパネル:防火帯建築の2015年分布状況 |
研究会が制作したパネル:防火帯建築の1970年代分布状況 |
なお、気になったことを一つ。
「防火帯建築」と「防火建築帯」という、似たようなふたつの言葉が横浜の研究者や建築家あるいは行政では使われているらしい。
現に「防火帯建築群の再生スタディブック」なる本が出されているし、JIAには「防火帯建築研究会」があるようだ。
法定用語としては、耐火建築促進法に「防火建築帯」とある。
だからといって、「防火帯建築」が誤用というのではないだろう。
都市内の防火帯として耐火建築を並べる手法は一般的なことだから、その意味では防火帯建築と言ってもよいだろう。
つまり、沢山ある防火帯建築の中の分類のひとつとして防火建築帯があるという概念であろう。
どうでもよいのだが、言葉があまりに近すぎる並び方なので、知らない人が聞くと同じことを言ってるんだろうと、混同してしまうおそれがある。何とかしたほうがよいと思う。
あの時代の建築と都市づくりの歴史と、現代へのその資産の継承に目を向けるものならば、防火帯だけではなくもっと広げて、例えば「横浜戦後復興都市建築」の研究と言ってはどうか。
参照
*横浜都心戦災復興まちづくりをどう評価するか
*横浜都心の戦後復興期残影と高度長期残滓(2013/07)
*横浜関内地区戦後まちづくり史(2007)
*横浜B級観光ガイドブック
*戦後復興期の都市建築をつくった建築家 小町治男氏にその時代を聴く
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