●選挙で憲法改訂が話題になる時代
熊五郎 ご隠居、暑いねえ、うるさいねえ、元気ですねえ。
ご隠居 おや熊さん、いらっしゃい、で何を言いたいんだい。
熊 はい、参議院選挙で世の中うるさいですねえ。特に現憲法について、離脱派と残留派とがね。
隠 そうそう、憲法を変えろなんて、昔むかしはアベの爺さんと鳩山の爺さんが「自主憲法制定」って言ってたなあ、それが失敗した後は、大日本愛国党総裁の赤尾敏が死ぬまで、有楽町駅前で怒鳴っているくらいなものだったがねえ。
熊 そりゃ有名な右翼ですね。それが今や、あっちもこっちも赤尾敏だらけですよ。
隠 しかも政権党が大真面目でそれをいうんだから、なんとまあ人生長く続けていると、奇妙な時代に遭遇するものだよ。
熊 そればかりか、今度の選挙で、憲法改訂を唱える党派勢力が、国会議員の3分の2を占める可能性が高いなんて、新聞報道が大真面目にでてますよ。
隠 あれまあ、いつのまにか世の中の選挙権者たちは、大日本愛国党支持者ばかりなって、体制翼賛選挙をやっているんだねえ、わたしの幼少時代に逆戻り、ヤダヤダ、あたしゃ共犯者になりたくないから、投票離脱派になるよ。
熊 またそれを言う、しょうがないご隠居だな、でもねえ変なんですよ、新聞、TV、ネットでは憲法についてなんだかんだとうるさいのに、選挙の演説にもポスターにも、憲法改定って一言も出てこないんですよ。
隠 そうそう、うちの近くに指名手配の顔写真みたないのがずらりと貼ってるよ、しげしげと見たんだけど、憲法改訂なんてどこにも書いてないんだな。
熊 それどころか政策のようなこともほとんど書いてないですよ。憲法改訂に一番肩入れしてる自民党候補者のポスターは、ただの顔だけ、
隠 人相で投票するのかい、だから投票って嫌なんだよ。
●現行憲法と自民憲法案の読み比べ
熊 先日の新聞に、自民党の憲法改訂案の一部について、かなり危ないぞと言う、意見広告が載っていました。言論自由を中国なみにしたいらしいですよ。
隠 ほう、こりゃすごいなあ、これ見ると明治憲法の方が、まだ可愛らしいもんだね。こういうのを政権党が堂々と発表する、今の時代ってのがすごいなあ。
熊 それでね、ネットで自民党の憲法改訂案を探して、現憲法と比較してみました。簡単なところを並べましょうかね。
第20条(信教の自由)
(現)信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。
(自)信教の自由は、何人に対しても保障する。
第23条(学問の自由)
(現)学問の自由は、これを保障する。
(自)学問の自由は、何人に対しても保障する。
第29条(財産権)
(現)財産権は、これを侵してはならない。
(自)財産権は、侵してはならない。
隠 なんだい、こりゃ同じだろ、、いや、そうじゃないな、同じようだけど、「これを」ってのを、自民案ではどの条文からも外してるんだな。ハハ、こりゃオカシイね。
熊 ね、これってなんでしょうねえ、もとが間違ってるんで字句訂正したつもりですか。
隠 いやいや、そのつもりだろうが見事に自民案は文法を間違ったね。日常会話ならまあそれでもいいよ、だけどねこれは最高法規だよ、まじめに日本語文法で書いてほしいもんだよ。
熊 え、どういうことです?
隠 例えば29条だよ、「(現)財産権は、これを侵してはならない」とあるだろ、これはね、「財産権というものについてだが、国家は財産権を侵してはならないぞ」ってんだよ。国家が主語で財産権が目的語になってるよね。
熊 では、「(自)財産権は、侵してはならない」のほうはどうなるんです。
隠 それだと文法上は「財産権は」から「侵して」が続いてしまったから、財産権が主語になって、「何を」侵してはならないのか目的語がなくなったヘンな日本語だ。
熊 なるほど、「(現)財産権は、これを侵してはならない」の方は、「これを」ってきちんと目的語があるんですね。
隠 そう、出だしの「財産権は」ってのは、この条文はこれが主題だよって、強調する書き方なんだな。自民党案では話し言葉なみに「これを」を削ってしまうから間違い文になる。
熊 う~む、一事が万事で、言葉を知らないやつが作る憲法案なんて、とても大丈夫じゃないような気がしてきますね。
隠 近ごろは主語と目的語の助詞の使い方が大混乱しているからなあ、「魚が食べたい」なんて、魚がなにを食うんだい、「魚を食べたい」って言いなさいよ?
熊 へへ、そういうご隠居が大好きですよ、あ、いけね、ご隠居を大好き、、か。
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