2024/04/10

1810【変わる都市景観】緑の日常景観を目隠しして登場したあまりにも平凡な高層建築

 わたしが住むのは地上20mの空中陋屋である。その居間のガラス戸の先に公園があり、300mほど向こうには山手丘陵地の樹林が左右に広がる。この斜面の緑に3方を囲い込まれた景観が、この都心部市街地の特徴である。

 もう一つの特徴は、その山手の緑の50mほど手前にある川の上を、首都高速道路の高架橋が横に長く景観を上下に切っていることである。景観上は誠に邪魔な代物であるばかりか、それなりに騒音が聞こえるし、たぶん排ガスもこちらに来ているだろう。
 この高架道路は、飛鳥田・田村時代に六大事業と称したひとつである。これについては2019年にこのブログに【都市プランナー田村明の呪い】と題して書いている。

空中陋屋から見る緑と切断する高架道路 2023年12月

 その景観の中に、わが陋屋から150mほどのところに、新しい高層建築の工事が去年から始まって次第に建ちあがっていた。建設騒音は交通騒音とは異質で、かなり甲高い。鉄骨が次第に高く組みあがっていく風景は、こどもがレゴのようで面白かった。

 何種類もの鉄骨が毎日のように運び込まれてきて、歩道に建てたクレーン車がそれを吊り上げる。それを空中で待ち受ける鳶職が伸長に受け取って組み立てていく。これを何回も何日もかけてやる。あの限られた広さと高さの中だから、かなり緻密なる計画と段取りがあらかじめきめられているにちがいない。その空中の職人と鉄骨とクレーンの動きを飽きもせず眺めていたら、これは巨大な精密機械のように見えてきた。
 このあたりのことをすでにこのブログの2023年11月に【空中陋屋景観】と題して書き込んでいる。

 しかし一方では、あの向こうの山手の緑を目隠ししてしまうこの新高層ビルは、それに見合うだけのどんな格好良い建築として出現してくれるのだろうかとの楽しみと、いやいや不格好なものを毎日眺めさせられるかもしれぬとの不安、それらがないまぜの日々であった。

2024年4月初め被り物で顔を隠した高層ビルが出現

 なにしろのわが空中陋屋から日々の目に入る景観の中の重要な位置を占めるのだから、気にせずにおれない。工事用の囲いテントが外れるのを毎日待っていた。
 さて、4月初旬、桜の開花とともに工事用の囲いの幕が外れた。え、なんだあ、つまらない建築だね~、ふ~ん、道路に面する表は単純な横長連窓、裏面の3方は全部が壁、ふむ、手抜き設計であるぞ.

 いやいや、これは都市的環境に対応したデザインであると言えるのは、山手の緑の景観と日照をすっぱりとあきらめ、高速道路に明確の背を向けたことである。つまり、首都高高架道路が24時間振りまく騒音と排ガスに面する側を、真っ黒な壁にしてしまったのだ。これこそが手抜き設計ではないと、この建築の主張するところだろうが、住宅ではないからできる芸当だ。

 それはこの並びに立ち並ぶいくつもの高層共同住宅(いわゆる“名ばかり”マンション)が、騒音と排気ガスにめげずに日照を求めて高速道路側にバルコニーを設けているのとは対照的である。
 それに関連して、つい最近になりこの近くに、この高速道路に背を向けた共同住宅ビルが建った。日照を犠牲にしても騒音を避けたらしい(その記事はこちら)。


遂に姿を現したがこれはまあなんという平凡な姿!

 話を元に戻すが、しかしだねえ、こちらに見えるファサードデザインは、もうちょっとは芸があってもよさそうなのになあ、そうか、元受け工事屋さんの設計施工らしいからなあ、できるだけ合理的に単純に安く建てたかったのかねえ、あ、いや、もしかして、こちらからは公園の木の陰で見えない下半身には、なにか芸があるのかもしれない。

 前々から街なかで建設現場を見るたびに思うのだが、鉄骨高層建築は鉄骨だけ立ち上がった時が一番美しい。そこに外装仕上げ材料があれこれとくっついてくるにつれて、どんどん美しさを減じていく。
 木造住宅も木組みが立ちあがった時が最も美しい。その点ではコンクリート建築は、コンクリート構造だけではどうももっさりしていてつまらない。
 
 これでわが陋屋からの山手の緑の景観はふさがれてしまった。横浜都心部の重要な緑景観なんだけど、都市デザインで有名な横浜市のチェックはなかったのだろうなあ、しょうがないかなあ、まあ、このビルの更に向こうの、うちから250mほど先にある首都高速高架を、これが目隠しと防音壁になってくれるから、それをもってよしとするしかない。これで田村明の呪いがちょっと弱まるというものだ。

 それにしても、この建築の用途は、普通のオフィスビルではなくて、何か特定の研修のための施設であるらしい。それなら、もう少しそれらしい格好をつけてはいかがかな。
 いやいや、下手な建築家に下手な格好つけられては、それを日々眺めさせられるこちらはむしろ困るから、この簡単至極平凡な飽きが来ない姿をもって良しとしよう、めでたしめでたし。

(20240410記)

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202311【空中陋屋景観】、201909【田村明の呪い

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伊達美徳=まちもり散人
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