【築地再開発(2)】から続く
熊五郎:この浜離宮庭園の背景に屏風のように立ち並ぶ超高層建築群は、どうみても日本庭園と相いれないように見えるのですがねえ。あの庭園のデザインをこれほどににもぶち壊し大変貌させた、そんな都市デザインあるいは環境デザインが許されるのですかねえ。
ご隠居:そうだねえ、ここでなんだかんだと言う前に、その姿をまず目で見よう。まずはすでに見た浜離宮潮入りの池から見る西の景観だよ。屏風が立つ景観と屏風がない景観を、比較しやすいようにひとつのGIF画像にしたよ。
次はこれも浜離宮庭園の潮入りの池から東の方をみるとこうだよ、潮が出入りする海の方だがね。もちろん向こうにごちゃごちゃとビルが見えるのが現在の景観で、そのビルを取り除いてみるとどうなるかやってみたら、昔はすっきりしてるねえ、空が広くて向こうに潮の満ち干がある海があるのだなあと思わせる景観だった。
熊:向こうに見えるビル群は隣の島の巨大開発ですよ、にょきにょきとなかなかすごいものですねえ。昔はのんびりとした風景が今じゃあせわしい感じに大変貌です。
隠:では次はこれだが、やはり現代の景観から、背景の邪魔なものをとり除いた景観だ、これがどこだかわかるかい?
熊:おお、あの真っ白な巨大な坊主頭の建物は、後楽園ドームでしょ、だからここは小石川後楽園の庭園でしょ。そうか、この庭園は例の水戸黄門の庭だった、無礼者!なんという見苦しいことをするのか!って打ち首にされますね。ということは浜離宮は江戸幕府将家の庭だったから、覗きこむとは無礼者!と、これも打ち首。
隠:では次はどうだね。これは東京の清澄庭園だよ
熊:清澄庭園は三菱の岩崎家のものだったから、民間所有庭に民間住宅の名ばかりマンションがのぞき込んでも、打ち首にはなりませんね。
隠:もうひとつ見ようか、これは東京の旧古河庭園だよ。
熊:こんな後からやってきて庭の景観に勝手に付け加えられたら大迷惑で、だれでも怒るでしょうが、どうなっているかしら。
隠:実は日本庭園を造るときに、その庭園の敷地の外にある風景を取り込んで、こちらの庭と一体に見せる作庭手法があるんだよ。その取り込んだ景観を借景と言うのだよ。外部から借りる景色だね。
熊:じゃあここにある庭園の森の上ににょきにょき顔を出している建物類は、借景ですか?
隠:いやいや、ここに出した日本庭園はどこも、もともと外から借景を入れていないし、たとえ借景するとしてもこんな姿をわざわざデザインしないよ。
熊:ということは、それら庭園の建物はどれも、あとから押しかけてきて建てて、それによって名園デザインが壊れるなんて思いもしないで、いわば押しつけ借景なのですね。それじゃあこんあへっぽこ景観じゃなくて、初めから外の風景を自分の庭に取り込んで美しい借景にした日本庭園の名園はありますか?
隠:日本でもっとも有名な
借景庭園は京都の
圓通寺庭園だな。こんな庭園でね、垣根からこちらが寺院の庭園で、その外には庭園の外の藪があり、はるか向こうには比叡山が横たわる、この近景と中景と遠景を合わせて圓通寺庭園だよ。もちろん偶然ではなく、比叡山がこのように庭園景観に入るように作庭したのだね。
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京都、圓通寺庭園 寺院のパフレットより |
熊:なるほど、この圓通寺の借景になっている比叡山の手前に高層ビル群が建ったのが浜離宮庭園ですね。あ、そうだ、浜離宮庭園でも東の方を見れば、いまは屏風ができて見えないけれど、
富士山が借景になっていたはずですね。
隠:そうそう、浜離宮庭園内の南東部に、
富士見山と名付けられた小高い場所があり、潮入りの池と富士山を眺める場所だったらしいね。これが富士見山から今見る東方の景観だよ。
熊:おお、昔はどのように見えたのか、それこそ戯景を作ってみたいですねえ。ところでこの壁というか屏風が浜離宮庭園からの富士山借景を消滅させたし、空も池も景観を奪った元凶であるところの、あちらのビル群の関係者たちはどう思っているのでしょうね。平気なんですかね。
隠:おお、それについては面白い記録をわたしが持っているよ。まずこの画像をごらんよ。あの屏風になっている
高層建築共同住宅の販売広告だよ。もう四半世紀も昔になったけど、売り出しの時の朝日新聞(2000年10月5日)だよ。
『浜離宮というこの上ない借景を得て真の都市居住・・』
うーむ、普通は、庭園のほうから借景とは言うがねえ、家の中から隣をのぞき込んで借景と言うかねえ。外から隣の庭園を借景にして、お借りした相手方をぶちこわしにすることを、これほどはっきりと宣言しているのも、珍しい。
それにしてもよくマア、これほど無神経な合成写真と宣伝文句がよくもまあ書けるもんだねえ。つくづくと感心している。一体どういう神経なんだろうか。
と、思ったが、もしかしたら、これはどうも、広告した方は実に良いことと、真実思っているのかもしれない、と思えてきた。
だって、普通ならこれほどの犯罪的行為を、三菱地所以下8社のそうそうたる業界リーダー会社がそろって、これほどあっけらかんと正面きって宣伝するはずがないですよねえ。 普通なら、こうなることは分かっていても遠慮して、これほど堂々と写真にしませんな。 この駄文を書くと、ますます宣伝の片棒を担ぐ羽目になるのかなあと、心配になってきた。 と、思いながら広告をみまわすと、あった。
宣伝文句の続きに曰く。『あらゆる価値観が大きく変わろうとしている、、、』
熊:つまり、何にも感じないどころか、良いことをしたと思っているようでもありますね。不動産営業に浜離宮を眺められる立地を売り物にしているのだから、しっかりと浜離宮に景観利用料を支払っているのでしょうね、更に浜離宮の景観破壊賠償金も払っているのでしょうね。
隠:そんなも支払ったって話を聞いたことがない。まあ、大企業でもそんな倫理のあるような不動産屋ではないらしいからね。
熊:と言うことは、これから建ちあがってくる築地市場後再開発のビル群も、浜離宮庭園に何の挨拶もないってことですかね。浜離宮庭園は景観破壊防衛策は何もないのでしょうかね。法的な規制とか、。
隠:有名な借景庭園でその借景破壊防衛策を制度的に講じている事例二つを、このブログ記事に書いているから読んでおくれ。京都の圓通寺庭園と高梁盆地の頼久寺庭園だよ。
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圓通寺庭園・怨念の景観帝国 -円通寺と後水尾上皇の視線-
熊:京都のような有名な歴史都市でそのようなことをしているのは当然でしょうが、高梁盆地のような小さな町で防衛策に取り組むとは、なかなかやるものですね。
隠:東京ってところは、明治神宮地区再開発に見る如く、風致地区と言う高さ規制が厳しい制度の地区内だから高いビルは建たないと思い込んでいたら、なんとまあ、行政当局が制度そのものを変えて風致地区でも超高層ビルを可能にしてしまったよ。特に築地再開発は東京都が実施する事業だし、隣の浜離宮庭園も都のものだから、どうしようと勝手だと言うだろうね。景観無視無知の大手不動産屋と言い、官民ともに倫理観に欠けるね、まったく始末に負えない、あきらめるしかないだろう。
熊:う~む。こうなれば覚悟して、日本庭園景観に後から入り込む現代借景景観について、新たな作庭理論と言うか新たな都市美的感覚が必要となる時代が来ているのかもなあ。
●【浜離宮庭園の景観変容】(1)(2)(3)(4)(5)
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