この秋の初めころのある日、公園の欅の葉張りの上に鉄骨がにょきりとと出てきた。初めに左の1スパン(奥行き2スパン)分が、3日ほどでたちまちに7層まで上がった。
ダイニングルームから眺めていると、それはプラモデル部品の組み立てと同じである。だが比較にならない巨大さだ。
左スパンが建ち上った |
中スパン建ち上げ中 |
右スパン建ち上げ中 |
全スパン建ち上げ完了 |
工場から運んできた柱や梁を、順序良くクレーン車で吊り上げて組み立てていく。まず2層分の柱を立てる。その柱の空中に待ち構える鳶職に、こんどは大梁鉄骨を地上から吊り上げて、空中からそろそろと下ろす。
地上から60mはあろうかという超高層ビル並のクレーンの先からぶら下がる、長さが10mほどの鉄骨を無駄に揺すったり振り回すことなく、しずしずと高い位置にいる鳶職におろしてゆく。あのとび職にちょっと憧れるのは、昔大学山岳部での岩登り好きの名残り。
それを空中で受ける高所のとび職の技もすごいが、ここからは公園樹木に隠れて全く見えない地上のクレーン車の操縦者の腕に感心する。
吊られる鉄骨の行方を飽きもせず眺める。鳶職は鉄骨を優しく受け止めて、空中の足元におろして檻でも作るように柱や梁で組み立てていく。その動作と音到達の時間差があって、カーンカーンと打つ鉄の音が聞こえてくる。
それを繰り返して何本もの柱や大梁小梁床板などなど、よくまあ順序良く吊り上げ下ろしするものだ。現寸立体ジグソーパズルである。あの順序には深い意味があるらしい。
吊り上げる鉄骨や部品などの順序を間違えると、現場が混乱するばかりか、危険であろうから、この鉄骨組み立て順序は、なかなかに精緻な工程デザインであるはずだ。
遠くだから正確には見えないが、見えがかりは武骨で大雑把な鉄骨でも、実はそれと対極的な精緻な仕事として組み立てられているらしいと、楽しく眺めている。
そうやって幅1スパン奥行き2スパンずつ、左から右へと順序良く3スパンが建ち上ってきた。徘徊ついでにそばで見てきたら、これで敷地はいっぱいである。
こんな狭い所でよくまああの長いクレーンを振り回せるものだ。どうやら道路も仮使用しているらしい。交通量が多いから時間も制限されるから大変だな。この建物はまだ工事中で、いつごろ完成か知らない。
わたしの住いの重要な方向の景観を形成することは確かだ。すでに幅も高さも全体のボリュームが仮囲い状態で登場して、その向こうの山手の緑が隠れてしまった。ここに住んで22年、バルコニーから見える緑の面積がどんどん減り、残るは手前の公園の樹木だけか。
その原因はどれも共同住宅ビル(いわゆる名ばかりマンション)であるが、この工事中のビルは珍しく、研修所と表示してある。ふむ、これまで次々と登場してきた共同住宅ビルには飽き飽き、今度は目新しいデザインビルが登場か、どんな美しい景観か、楽しみである。
しかしなあ、あまり期待すると、ろくでもないデザインのビル登場でガックリする心配がある。設計施工だから期待しないでおこう。
実は昔から思っているのだが、どんな建築も骨組みだけの時の姿が最も美しい。特に鉄骨建築は美しい。仕上げが付くほどつまらなくなる。
(20231115記)
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伊達美徳=まちもり散人
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