寿町とは、東京・山谷、大阪・釜ヶ崎に次ぐ、日本でも有名なドヤ街である。居住条件は超悪いが、名前はお目出度いのだ。
ドヤ街とは、旅館じゃなくてホテルじゃなくて、簡易宿泊所という低級安宿ばかりが集まっている街である。
横浜市中区にある寿町ドヤ街のメインストリート 両側は全て簡易宿泊所ドヤビル |
◆1000人/ヘクタールの超過密居住地区
寿町地区ドヤ街は、約6ヘクタールのエリアに、簡易宿泊所数約100棟、約8000室、1室は標準は3畳間、一泊1200円~2500円で営業しており、定常的に宿泊者約6000人が泊り続けている。
人口密度が1ヘクタールあたり1000人とは、驚くべき超過密地区である。都市の中高層市街地では400人、戸建て低層住宅地では100人くらいだから、いかにすごいかわかる。
この街が、これほども収容力がある理由は、ほとんどが1室5㎡程度の超狭いシングルルームが、5階から10階建てくらいのビルに詰め込まれ、しかもビルとビルがびっしりと隙間なく建っているからだ。その超過密と超狭隘部屋群は、いわば立体スラムである。
もちろん、そのような宿泊需要があるから、ここにビルが立ち並ぶのだろう。
わたしは実は、そのドヤの部屋に泊まったことがある。3畳間にTVとエアコンつき、共同便所、共同コインシャワーで、3000円であった。体験的に一度だけだがやってみたのだ。
(参照:横浜寿町ドヤ街宿泊体験記)
2007年8月25日、わたしが泊まった寿町ドヤの部屋 |
簡易宿泊所は、一般にネット約5㎡(3畳)で、一泊宿賃2200円/日である。実質的には住んでいるのだから月66000円、つまり13000円/㎡・月の家賃である。このあたりのワンルームマンションの家賃相場3~4000円/㎡・月と比べると、これは超高額家賃である。
一泊1200円という安いドヤもあるが、それでも月家賃にすると高額である。
そして、宿泊者のほとんどは単身の高齢者男性たちで、そのうちの8割は生活保護費の支給を受けているそうだ。
そのような人たちが、なぜ高い家賃の宿泊所に棲みつくのか、その理由はいろいろあるようだ。
その日暮らしだからとにかくその日の宿賃が安いとか、賃借住宅と違って保障金や礼金が要らないとか、生活保護費をもらうために必要な住民登録が宿泊所なのに可能とか、生活保護費受給と連動していることもある。
福祉制度は複雑なのでよくわからなが、要するに、本来は社会政策であるべき居住政策を、日本では経済政策にしてきたことに大きな原因がありそうだ。
ドヤビルは法律上は住宅ではない。それを買ったり借りたりして住む人が居るという前提で建っているのではない。建前としては、とりあえず仮の宿泊の場であるから、日照や通風は悪くても良い。
だから隣同士にぎりぎりに立ち並ぶ。窓を開けても、目の前がいきなり隣のビルの壁とか窓であることは珍しくないので、昼間も真っ暗部屋がたくさんありそうだ。
そんなところでも事実上は住宅にして暮らさねばならない人たちがいる。そしてそれは、どうも増加しているらしく、新築ドヤも多く見られる。
横浜寿町ドヤ街エリア全景 |
狭くて暗くて通風の悪い部屋には長く居られれないから、今は寒いから道路にあまり人はいないが、気候が良いと道路が昼の生活空間となる。金のない人は、夜も外で暮らす。
安飲み屋、違法賭博屋(ノミ屋)、場外舟券売り場、パチンコ屋が、街の娯楽施設である。
見たところ立派でも、日照、通風プライバシー無視でも合法の簡易宿泊所建築 |
◆繁盛しているドヤ街という貧困ビジネス
久しぶりに寿町ドヤ街を歩いてみると、もともと4~6階程度のビルが多いのだが、次第に建て替えが進んでいるようで、10階以上の大きな新しいドヤビルが、あちこちに建っている。
建て替えは、老朽化と共に、お客のほとんどが高齢者になって、エレベーターがないと困るようになったこともあるらしい。
それよりもなによりも、上に見たように高価格の部屋だから、投資としては有利なビジネスであるからだろう。一種の貧困ビジネスだが、ここは伝統的にそのビジネス地域である。
6階建てエレベーターなしが普通だったが(左)、 高齢者が多くなり、10階以上エレベータ付きに建て替え(右) |
ワンルームマンションではなくて新築簡易宿泊所ドヤビル |
上のビルの入り口には簡易宿泊と書いてある |
ということは、この簡易宿泊所のドヤなる営業形態、いわば戦後の伝統ある貧困ビジネスは、今やけっこう繁盛して増殖しているということらしい。
アベノミクスは、ドヤに泊まらなければならない困窮者が、どんどん増える仕掛けになっているらしい。その一方では、ドヤの経営者や建設業者は、アベノミクスの良い影響下にあるのだろう。この2つを合わせると、トリクルアップというのかしら。
寿町エリアにはびっしりと中高層ドヤ建築が建ち並んでいるが、その中のひとつの街区だけが、見るからに老朽化した木造家屋で占められている。飲み屋とノミ屋が肩を並べて建ち並んでいる。
街区の中間に飲み屋とノミ屋の並ぶ狭い路地が貫通している。一度だけ、地元に詳しい人に案内してもらって通ったことがあるが、かなり怪しい雰囲気で、その後ひとりで通ったことがない。
ここだけが木造低層街区であるのは、なにかそれなりに深いわけがありそうだが、そのうちにこの街区に超高層ドヤでもできるのだろうか。スゴイことになるね。
寿町地区でこの街区だけが木造ばかりが建ち並ぶ飲み屋とノミ屋街 |
◆周辺地区へ拡大する寿町ドヤ街
伝統的には寿町ドヤ街地区は、南を中村川、3方を幹線道路に囲まれたエリアである。ある種の暗黙のゲットーの感があり、通り抜けるのがためらわれる雰囲気がある。
ところが近ごろは、ドヤ建築が寿町の中での建て替えばかりか、暗黙の境界を越えて外のフリンジエリアへ、特に西の長者町通りを越えた方面へと、ドヤ街が広がる傾向が見られる。
ドヤ街ビジネスの繁盛ぶりが目に見えるし、それは格差社会進行の景観でもある。
寿町のあたりとその周辺地域は、横浜都心の便利なところだから、共同住宅(いわゆるマンション)が、ドンドン建ってきている。
したがって、寿町のフリンジエリアでは、ドヤ(簡易宿泊所)とマンション(共同住宅)が近接、隣接して建ちつつある。せめぎ合っているように見える。
さて、どちらが優勢になるのだろうか。昔から悪貨は良貨を駆逐するというから、フリンジ混合エリアは、次第にドヤ街化するような気がする。もっとも、「名ばかりマンション」が良貨とは言えないのだが、ここでは比較すれば良貨なのである。
共同住宅ビルは、それを選ぶ居住者は立地イメージを重要視するから、ドヤと隣り合わせとなるとマーケティングは難しいことになるだろう。
幹線道路を超えてフリンジに進出したドヤ、手前の空き地もそのうちに、、 |
高層共同住宅街の中に進出してきた簡易宿泊所「末広荘」 |
手前は共同住宅ビル、その向う隣からは簡易宿泊所群の街並み |
なんにしても、横浜都心の貧困ビジネスエリアは、徐々にその勢力圏を拡大しつつあるのは、今後の横浜都心形成にどういう影響を持ってくるのか、気になるところである。
寿町の眼に見える街の景観は、知らない人がちょっと見には高層共同住宅街とあまり違わないのだが、よく見るとその過密なる空間に貧困者がぎゅうぎゅうに詰まって、ぼろがあちこちにはみ出している状況は、かなり不気味な都市社会の進行である。
そして今もこのように、景気のよい槌音が響く工事中のドヤ建築が建ちつつある。
というわけで、お正月のお目出度い「寿初詣で」の報告でした。
(追記20150107)
今日のNHKWEBNEWSに、下記のように載っている。
「厚生労働省によりますと、去年10月に生活保護を受けた世帯は、前の月より3287世帯増えて161万5240世帯でした。受給世帯の増加は6か月連続で、昭和26年に統計を取り始めてから最も多くなっています。
最も多いのは65歳以上の「高齢者世帯」で、前の月より2000世帯余り増えて、76万1000世帯余りとなり、全体の47%を占めました。
次いで、働くことができる世代を含む「その他の世帯」が18%、けがや病気などで働けない「傷病者世帯」が17%、「障害者世帯」が12%などとなっています。」
なるほど、これじゃあ寿町ドヤ街が繁盛するわけだ。アベノミクスが言うところの株持ちと大企業に儲けさせてそこからトリクルダウンどころか、生活保護者から吸い上げるドヤ賃でドヤ事業者が儲かる「トリクルアップ」だよなあ。
参照
◆「横浜寿町体験レポート」(伊達美徳)
https://sites.google.com/site/matimorig2x/kotobukitaiken
◆095貧困な住宅政策(まちもり散人)
http://datey.blogspot.jp/2009/02/blog-post_13.html
◆横浜B級観光ガイドブック(まちもり散人)
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