2019/11/13

1427【横浜徘徊】横浜寿町ドヤ街ではこれまで増えてきたドヤ数もドヤ居住者数も頭打ちになりどう変るのだろうか

●寿地区に市の新しい施設が建った
熊五郎:やあ、ご隠居、生きてますか。
ご隠居:おお、熊さんかい、まあ、おあがりよ、ああ、生きてるよ、ちゃんとね。
:ひと月余り前から腰が痛いと寝てたけど、治りましたか。
:ああ、いつものように念力で治したよ、だから黄金町にアート展を観に行ったし、久しぶりに簡易宿泊ドヤ街の寿町あたりの徘徊もしてきたよ。
横浜市中区の寿地区俯瞰全景
:そりゃ良かった、で、久しぶりの寿地区はどうでしたか。
:つい先日、寿地区で地域活動する専門家のガイドによる見学会に参加して、ちょっと詳しく実情を知ったね。
:そういえば、寿町に近ごろ大きなビルが建ったでしょ。
:あれは実はもとあった市営住宅や福祉施設が古くなったので、機能を見直して建て直したのだそうだよ。
:じゃあ、マンションとか、おっとご隠居はマンションって言葉を嫌いで共同住宅ね、あるいは高層ドヤビルとか、ホテルとかですか。
:いやいや、横浜市の施設だからそうじゃないよ。寿地区がかつては若い日雇い労働者たちの街だった時代につくった施設だけど、今は社会的援助の必要な高齢者たちの街になったので、それに対応する施設に建て直したのだね。市営住宅も家族向けを多くしてね。
中央の高いビルは市営住宅、右は民営簡易宿泊所ビル、手前は飲み屋街

横浜市寿町健康福祉交流センターと市営住宅

:それで街がなにか変りそうですか。
:さあ、歩いてみてるだけのわたしには分からないけどね、施設はかなり開放的で、寿地区の簡宿滞在者が大勢たむろしてたよ、近隣の人たちも入り易い様な気がしたね。
:じゃあ、ご隠居も徘徊中はそこで休憩してはいかがですか。
:そうだね、だれでも利用できる広いラウンジや図書室コーナーがあるからね。

●寿地区のドヤもドヤ住民も減少傾向
:ドヤという貧困ビジネスは相かわらず繁盛のようですか。
:この数年は寿地区を訪ねるたびに高層の簡易宿泊所いわゆるドヤのビルが新しく建っているから、簡宿は景気よく増えていると思っていたんだがね、どうも違う感じなんだよ。
:ほお、不景気ですか。
:それはなんとも言えないけど、今回は地域活動しているNPOの方に話を聞き、資料をもらったのでそれを見ると、簡易宿泊所はこのところ減少して停滞気味らしいのだよ。ほれこの寿地区の統計グラフをごらんよ。
「横浜市寿福祉プラザ業務概要」より引用
:ほほお、ドヤビルの数とドヤの部屋数の経年変化ですね、おや、2010年まで増え続けてピークには8800室もあったのが、去年は8300室に減ってます、この傾向が今後も続くのですかねえ。
:さあ、どうなんだろうかねえ、もうひとつ、こちらの寿地区の宿泊者数のグラフをごらんよ、宿泊と言っても実は寿地区ドヤで暮している人たちの数だよ。
「横浜市寿福祉プラザ業務概要」より引用
:おお、こちらも減ってきていますね。1998年がピークで約6500人、それが20年後の2018年には約5700人になっていますよ。どうしてなんでしょうかねえ。
:わたしにはわからないけど、日本の人口減少が及んでいると考えるのは早計だよな。福祉政策が進んで簡宿ドヤ暮らしから抜け出る人が増えた、あるいはドヤ暮らしに入らないでも暮らす人が増えたとか、それならむしろ良いことだよね。
:でもねえ、ドヤ暮らしの人の9割は生活保護受給者しかも高齢者ですから、簡単には抜け出られないような、どうなんでしょうかねえ。

●空き室だらけ過密居住という奇妙さ
:宿泊者数と宿泊部屋数と較べると2600室も空いていることになるけど、これじゃあ空き家だらけの街だね。
:そうなるけど奇妙ですねえ、びっしりとドヤビルが建つから通風も日当たりも悪く、狭い3~4畳間で暮らしてる、しかも約6ヘクタールの寿地区に5700人だとヘクタール当たり950人って超過密、それなのに実は空き室だらけって、なんだかひどく矛盾してますね。この受給アンバランスでドヤ商売の経営も沈滞ですかねえ。
:ところがそうとも言えない感じで、このところ寿町地区のあちこちにで古い中層簡宿ビルを高層簡宿ビルに建て直してるよなあ、それでエレベーターがあり車椅子に対応できる新しい簡宿に人気が出ているらしい。
新旧の簡易宿泊所ビル
:そうか、ドヤ住人が高齢者ばかりになって、古いドヤでは暮らしにくい、となると空き室の多くなる古いドヤビルの建て替えがもっと進むかもしれませんね。でも、ドヤビル商売そのものは不動産業としてどうなんでしょうね。
:簡易宿泊所稼業は不動産営業としては、普通のホテルや賃貸住宅よりも賃貸収入が高率だし、生活保護費から宿泊料の取りはぐれはないし、いい商売のようだよ。
:じゃあドヤ需要が伸びなくても、ドヤの新旧入れ替えと集約的な新陳代謝が起きるでしょうね。
:そう、特に寿町地区では、戦争直後に安く買った土地の地主がドヤビル事業主だから、建物は古くて減価償却してるし、新たな土地投資がないので、建て替え投資しても経営的にはよい商売だろうねえ、たぶん。でも需要が減っては仕方ないから、なにか転換が起きるかもしれない。

●寿地区にゼントリフィケーションが起きるか
:今後は簡宿所の数が減っていくとしたら、寿地区もあらたな動きになる可能性も出ますね。例えば不動産デベロッパーが地上げして、なにか新開発をするとかね、だってここは横浜都心の便利なところですから、潜在的開発能力を持っていますからね。
:う~む、どうなんだろうねえ、もうちょっと見ないと何とも言えないねえ。
:ふ~む、寿地区のイメージを転換するには、まだ時間がかかりますかね。でも、地上げ型の不動産開発で、例えば分譲マンションいや共同住宅ビルが進出してくるとなるとゼントリフィケーションが起きますね。
:あ、そうだね、それでドヤ住いの人たちが追い出されて、しかもどこにも行くところがないとなると、社会問題が大きくなるね。
:寿地区って、都市レベルの社会的セイフティネットの役割を持ってますから、きちんと別の受け皿がないままに、経済原則に押されて無くなっては、困ることになりますね。
:そういえば先日、寿町に大きな空地ができていたよ、あそこになにができるのだろうかねえ。
寿地区の状況と空き地となった場所(赤四角部分)
空き地になる前はこのような下駄ばき住宅ビルだった

上のようなビルが取り壊されておおきな空き地になった
:え、ドヤビルの再開発ですか。
:いや、70年代からだったかねえ、当時の日本住宅公団いまのUR都市再生機構がね、各都市の都心部で土地を持つ企業と協力して、下層階は企業所有施設で事業をして、上層階に公団住宅を載せるという「市街地住宅」ビルをたくさんつくったのだよ。この寿町で空き地になったところは、その仕組みで建てたビルがあったのだよ。たぶん昔からの港湾関係の企業だろうね。
:ということは、URがそこに新しい住宅ビルと建てるとか?
:いやそれはないだろうね、たぶんURは撤退して地主企業が何かを建てるのだろうね。細分化されている寿町の民有地の中では、あれほど規模の大きな空地出現は珍しいから、なにができるのか興味あるね。
:いまさら超高層ドヤビルってことはないですね、高層マンションかな。
:う~む、高層共同住宅ビルってのも、どうかねえ、寿町地区の外殻の幹線道路沿いには、高層共同住宅がいくつか建っているけれど、この空地はちょっと内側でドヤに囲まれているからねえ、一般住宅としては売れにくいかもなあ、いっそのことホテルはありうるかなあ。

●寿地区に大学サテライトキャンパスを
:そうだ、ドヤも頭打ち傾向が見えるのなら、いっそのこと一足飛びに、まったく新しい機能が入ってくればいい、それを契機にドヤ街イメージを払拭するんですよ。え~と、例えば大学ってのはどうです。
:お、すごいこと言うね、う~む、大学のサテライトキャンパスならありうるかもね、いや、無理かな。
:ホラ、関東学院は公園通りの教育文化センター跡地に、そして神奈川大学もMM21に、それぞれ建設中ですよね、となると残りの地元大学なら、横浜市立大学か横浜国立大学ですね。
:そうそう、いいねえ、そもそも大学が都心部にサテライトキャンパスを持つのは、30年ほども前から流行が続いているけど、集客目当ての駅前立地なんて商業施設みたいな考えだよね、大学が都心立地をするなら、その立地によって地域の課題を解決するという社会的目的も持ってほしいよ。
:その点では、解決すべき社会的都市的課題を抱えている寿町地区に、大学がキャンパスを構えることは大いに意義があると思いますね。地域に入って問題に対応する大学って、いいですねえ。
:もっとも、大学が勘違いしてゼントリフィケーションに与するかもなあ。
:それは困りますね。
あ、そうだ、2000室も空いている簡宿の部屋を、大学の施設にリニューアルするってのはいかがかな。
:おお、それなら今すぐにでもできるなあ、街に溶け込んだ大学キャンパスって、いいなあ、横浜市大・国大寿町キャンパスを期待しましょうかね。
:まあ、今のオーナーがどういうかは、全く分からないけどね。

●環境悪化大原因は中村川の高速道路
:先日の見学会で10年ほど前に泊った簡宿の中に入ってきたよ。綺麗にリニューアルされていたよ。
:あ、寿地区のあちこちのドヤの空き室を安宿にして運営しているホステルビレッジですね。そうですか、広い部屋でホテルみたいになってましたか。
:いやいや、間取りは相かわらず3畳間で便所共用、コインシャワー、エレベーターなしだけどね、ちょっと内装を変え、ベッドを入れたりしてたね、外国人客が多いそうだよ。
以前に泊まったと同じタイプの宿泊室

コテコテ装飾した宿泊室の中廊下
:あの運営してるホステルビレッジは、繁盛してましたか。
:前はいくつかの簡宿をホステルに運営していたけど、いまは一軒だけの上層階40室ほどだけというから、あまり展開していないらしい。でも外国人が多く利用するので、それ自体は繁盛している様子だったよ。
:ほお、安宿を探す外国人なら地域偏見はないだろうから泊まるでしょうね。でもあの狭さや過密さに辟易しないのかしら。
:そうだねえ、以前にその簡宿に泊まった時に部屋の窓を開けると、目の前がいきなり隣の簡宿の窓で驚いたけど、先日は中村川の側の窓を開けてこれも驚いたね、こちら東南は道と川だから良い環境かと思えば、目の前に高速道路がガンガンと騒音と排ガスを振りまいているんだよ、眺めが悪いなんて言う前に、とても人間が住む環境じゃないね。
簡宿の窓の外は中村川上空の高速道路が大騒音

寿地区の隣りの石川町では高層共同住宅を高速道路がとぐろを巻く
:そうそう、寿地区ばかりじゃなくて、中村川と堀川沿いには一般の共同住宅ビルがたくさん建ってますが、都心部の同じ川でも大岡川沿いと比べると、あまりにひどすぎますね。あの高速道路は寿地区ばかりじゃなくて、関内と関外地区つまり横浜都心部の環境悪化のガンですよ、
:中村川の高速道路は、都市計画当初案では大通公園を通る様になっていたのを、こちらに変更したんだよ。
:え、そうなんですか、どうしてこっちに変えたんですか。
:この高速道路を決める当時の飛鳥田市長が反対して、当時のその懐刀だった田村明局長がこのルートに変えたんだよ。だから今じゃあ大通り公園沿いにも高層共同住宅が建っているけど環境いいよね。
:どんな事情があったか知らないけど、中村川のあたりは被害者ですね。あ、そうだ、東京の日本橋では川の上の高速道路を地下に潜らせる計画が進んでいますよ、同じ首都高だからこちらも地下にしてもらいましょうよ。
:それがいいね、石川町ジャンクションもまったくひどいもんだから、あれも含めて高速道路全部を山手の丘の地下にもぐらせるといいね。そうすれば都心部に山手の緑の眺めが戻ってくるし、堀川と中村川沿いにも桜を咲かせたいねえ。
:寿町ドヤ街から話がそれたけど、考えてみればそれも寿地区の都市的環境改善の大きな方向ですよね。
:皮肉な見方をすれば、寿地区のゼントリフィケーションを防止してきたのは、この高速道路かもしれないね。

●これまでに書いてきた寿地区の話
2019/09/27・1421都市プランナー田村明の呪い…いつだれが解くだろうか(中村川上空の高速道路の酷さ)
https://datey.blogspot.com/2019/09/1421.html

2019/01/05・【2019初徘徊は寿町】B級横浜ガイド・寿町・松影町あたり:デラシネ日雇労務者が高齢化定住した貧困ドヤ街
https://datey.blogspot.com/2019/01/1180b.html

2018/12/19・【寿町の繁栄】貧困で超高齢化する日本の縮図のようなこのドヤ街は縮図どころが拡大しているような
https://datey.blogspot.com/2018/12/1173.html

2018/02/12・不良共同住宅ビル→不良民泊共同ビル→空き家ビル→ドヤビル:不良住宅再生産ドミノ現象の街
https://datey.blogspot.com/2018/02/1317.html

2015/01/05・横浜寿町ドヤ街は新築高層ドヤ建築が林立して周辺へも拡大中にて貧困ビジネス繁盛
https://datey.blogspot.com/2015/01/1046.html

2009/02/16【横浜ご近所探検】哀しきは寿町といふ地名と詠むホームレス歌人  

2007/09/03・横浜寿町ドヤ街宿泊体験記

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