珍しく雪が降った。なんだか大騒ぎであるが、中越の山村の豪雪と比較すると、こんなのは赤ん坊のおしっこ程度だ。
鎌倉に行く用事あり、思い立って鶴岡八幡宮の雪景色を見に寄ったが、積るほどではなかった。
舞殿で楽の音がするので近寄ってみれば、この寒い中で婚礼の儀式であった。屋根はあるが四方吹きさらしの舞殿では、出席者は寒かろうが、雪であろうと予定を変えるわけにはいかないか。
去年、舞殿でなにやら工事をしていたが、できたのを見たら向拝と階段がくっついていたのは、登殿しやくして婚礼儀式をさせるためであったか。八幡様は商売がうまい。
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それでおもいつくのははるか大昔のこと、ここで悲劇の舞姫のおはなしがあることだ。
義経が頼朝に追われて吉野山に逃げ込んだときに、一緒にいた愛妾の静はここで捨てられ、さまよっていたところを捕まって鎌倉に連行された。
その静が頼朝と政子に強要されて舞殿で舞ったときに、「しずやしず、しずのおだまきくりかえし、むかしをいまになすよしもがな」と歌ったと「吾妻鏡」にある。頼朝の前で、彼が敵とする男を公然と慕う宣言である。
「二人静」という能がある。捨てた男を慕って吉野で舞う亡霊の静が登場する。この能は詞章もメロディーも舞いも実に美しくて、わたしは大好きである。
義経は正妻を連れて奥州に逃れたのだから、捨てた男を慕う女は哀れである。
その悲恋の舞台で婚礼儀式というのも、縁起かつぎするなら、どうなんでしょうか。まあ、大きなお世話ですね。
寒い雪中婚礼も熱いふたりには祝福の紙吹雪、お幸せにね。
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