2020/04/24

1458【横浜ご近所探検】横浜都市デザインのひとつの成果にもコロナ大戦が見えない大きな影を落としている

 横浜の都心の片隅の空中陋屋に住むようになって18年、年寄りの暇つぶし徘徊で街をうろうろして、横浜都心あたりの風景が、じわりじわりと変化していくのを面白く観察している。
 横浜は都市デザイン行政に力を入れているので、ほお、これがその成果であるのかと、感心したり首を傾げたりする楽しみがある。

●万国橋通り北仲地区街並み形成を褒める

 風景変化で興味深いのは、昔からの都心市街地と港が接するあたりである。港の機能が大きく変化して、建物が建て替わり、新たな道や緑地あるいは埠頭が出現する。
 それらが開港以来の都心市街地といかにうまく連続するか、なかなかに見ものである。多分、都市デザイン行政も力を入れるところなのだろうと思う。

 今、変化が最も大きく眼に見えるのは北仲地区である。わたしが変化に注目しているのはそこの超高層建築群よりも、その万国橋通り側の街並み景観がどう変わるかであった。
 最近になって、ついにその景観が完成した。
 結論から言うと、じつにうまく仕上がったものだ。さすが横浜の都市デザインである。
万国橋通りの北仲側の街並み

 異なる機能の別々のオーナーによる建築群を、見事に一群の景観として違和感なくまとめあげて、街並みに再編成した。
 大きな超高層もある建築群ながらも、それらの分節が上下方向も左右方向もうまくできた。その先の万国橋を渡って新港地区に入った左のホテルまで、一連の景観になっているが快い。横浜の都市デザイン行政の成果として白眉と言えるだろう。
 もっとも、けっこう長い街並み建築群と言いつつも、オーナーの数はたったの3者、しかも国、独法、大企業だから、デザイン調整の話をつけやすかったかもしれない。それにしても何十年もかけての仕事だから敬服する。

●新港地区の新建築はつまらない

 新港地区にはいろいろなデザインの建築が建ってきた。赤レンガ倉庫が出発点なので、赤レンガイメージがそのコンセプトにあるらしい。
赤レンガ倉庫はコロナに占拠されて誰もいない 20200409

 しかし、首をかしげるものもある。昨年末にハンマーヘッドがあるところに新たな埠頭施設ができて、大型客船が停泊するようになった。ここに最初に停泊した大型客船は、ダイヤモンドプリンセスといった。そう、例のコロナクルーズ船であるが、もちろん事件前だった。
 だが、その新埠頭ターミナルビルは、外から見たところは何ともつまらないデザインで、赤レンガイメージなんてお呼びでない。
横浜新港ハンマーヘッド埠頭新ターミナルビルとクルーズ船 20191104

 北仲から万国橋を渡った右側に工事用板囲いができていて、ここにあった港湾関係庁舎を建て替えているらしい。かなり広い敷地だし、間口も広いし、新港の市街地側の入り口だから、ここに建つ建築は景観上かなり重要になるだろう。
 塀の中を覗くと、壊した建物のがれきの山のあいだに、建物の基礎が残っているのが見える。おや、赤レンガ基礎もある。
万国橋から新港地区を見ると工事用の白い板囲い
手前に屋形船、塀の向こうに赤レンガ倉庫 その先に
大桟橋のクルーズ船、

板囲いの中を覗くと発掘されたレンガ造基礎、100年余前の発電所の一部か
そうだ、前に調べたことがあった。この敷地には新港ができた1915年の最初には保税倉庫群があり、その一角にはレンガ造の発電所が建っていたのだった。ほかに新港事務所がレンガ造り建築だったが、どちらも関東大震災で崩壊した。今ある赤レンガ倉庫2棟は、一部崩壊だった。 
 もしかして、あの塀の中のレンガ基礎は発電所の一部かもしれない。当時の図面だとそのあたりである。今回の建て替えで発電所建築のイメージ復元なんてことをするのだろうか、そうなれば面白い。
関東大震災まで新港地区にあった赤レンガ造の事務所と発電所

 と思って、ここにどんなものが建つのかネットを探したら、「横浜地方合同庁舎(仮称)整備等事業民間事業者選定結果 平成31年3月4日」と題する報告書があった。ここに建つのは「横浜地方合同庁舎」といい、政府のいくつかの機関が同居するらしい。
 事業手法はPFI方式で、その民間事業者を公募したら、応募は戸田建設グループのみだったが、審査の結果当選して今の工事になったようだ。

 その報告書の末尾に合同庁舎のパースが載っている。アレ、なんだかつまらない姿、でもどこかで見たような、あそうだ、ハンマーヘッド埠頭ターミナルビルそっくりだなあ。設計はどなたかとみれば、事業グループメンバーに梓設計がある。なるほどハンマーヘッドも梓設計だから、新港地区の新建築はこのデザインで行くのだな。
 それはそれで都市デザインとして筋が通っているけど、はっきり言ってヘタクソつまらない姿だ。事務所だからと言っても、もうちょっと色気はないのか。他の引き立て役としては図体がでかすぎる。
みなとみらい21新港地区9街区事業者提案に対する考え方より引用 
20191227 横浜市港湾局整備推進課

 市街から新港に入る玄関の万国橋からは、赤レンガ倉庫がよく見える。その視線を手前にこの新合同庁舎が邪魔して建つことになる。ナビオスみたいな芸当はできないのか。新たな景観への楽しみがなくなった。
 新港地区には赤レンガイメージという共通デザインコンセプトはなかったのか。発電所建築の復元なんてお遊びは、政府施設だからしてくれないのか。外壁を赤くするればいいってもんじゃないよ。

 コンペだからそれなりに発想豊かな、あるいは歴史を踏まえたデザインが出るかと思ったが、たった一案だけでは選びようもなかったのだろう。PFIだからデザインよりも事業性を見てこれに決めたのだろう。
 都市、建築系の審査委員は結構辛いものがあっただろうなあ、気の毒に。もっとも競争相手がいなかったのだから、これから協議して、それなりのデザインに変更しても、だれからも文句言われることはないな。

●ここにもコロナ戦争の深い影が
中央の白いビルがアパホテルでコロナ軽症感染者療養所

 さて、この工事現場の運河沿い遊歩道から先ほどの北仲方面を眺めると、事務所、共同住宅、ホテルなどの超高層建築が立ち並ぶ風景である。
 そして今その中央に見える白い新開業のホテルは、なんとまあ新型コロナウィルスの軽症感染者の療養施設に充てられているのだ。時代の最先端を走っているというべきか。
 人出ががらりと減ってシャッターが続く都心繁華街ばかりでなく、この新しい風景にも実は目には見えないがコロナ戦争が深い影を落としているのである。


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