2009/03/07

106【東京駅復原反対】江戸初春飛脚屋苦虫(えどのはつはるゆうびんやのにがむし)

  (えどのはつはるゆうびんやのにがむし)
 江戸城の丸の内に駕篭屋の元締めがいる。そこに赤れんが姐さんと呼ばれている大姉御がいる。赤いレンガ色のおべべが、この姐さんのトレードマークである。
 近頃、姐さんはちょっと足腰が弱り、若い頃の火傷もうずきだし、色香が薄れてきた。
 姐さんはこの辺で起死回生若返りとて、大胆な方法で昔の色香を取り戻すことにした。

 そのためにはお金がいるが、手元にない。頭をひねった末に、しょうがないので蓄えた身代の一部を、隣近所の土地成金長者たちに切り売りを始めた。
 買った成金長者たちは、それを元手にしてうまく稼いで、それぞれ豪華で大きな屋敷を普請するものだから、駕篭屋の姐さんの家は次第に日陰になってきた。

 赤れんが姐さんは、今は足腰の手術中だが、これから豊胸や美容整形、それが済んだら辰野風芸者島田の鬘をあつらえ、緋の衣装を仕立て、紅つけ化粧したり、あれこれやらなければならない。
 でも問題は、まだまだ身代を売らないと金が足りないのに、若い頃そっくりの晴れ姿になる頃には、すっかり周りを高い塀と屋敷でとり囲まれちまって、文字通りに日陰者になりそうである。
 こんな筈じゃなかったと、姐さんは憂鬱である。

 最近、お隣の飛脚屋にも身代の一部を売ってやることにした。
 飛脚屋の西川爺さんは、オールドミスになった自分の娘に洋服と化粧品を買ってやり、背の高い婿もとるつもりになって、うれしくてあちこちに吹聴した。
 そうしたら、娘に横恋慕している文京あたりのお大名の鳩山総務守様が、2回も自ら足を運んで怒鳴り込んできた。
  「洋服など着せては相成らんぞ、背の高い婿とりも破談にせい、もってのほかじゃ、取り消せ~いッ」

 これを聞いた口さがない江戸っ子は囃したり笑ったり、ついでに大阪の飛脚屋にもそういってくれというワル乗りもいる。
 西川爺さんは苦りきっている。なにしろ、鳩から豆鉄砲を食らったのだから。

   ◆

 3月6日、東京中央郵便局の部分保全して超高層を継ぎ足す再開発計画に関して、その敷地の都市計画変更を東京都が告示した。要するにやっても良いよって、都知事がGOサインを出したってこと。
 この都市再生特別地区の都市計画内容を見ると、一番の大きな点は容積率1300パーセントを1630パーセントまで、大サービスしたことだ。

 よく見たら「特例容積率の限度の指定が行われない場合又は取り消された場合は10分の141とする」と、注意書きがついている。
 これの意味は、補修して3階建てで保全する東京駅赤れんが駅舎から、その余っている容積をJR東日本から買い取って、こちらに乗せる下話がついているのだが、もしその話がおじゃんになったら1410パーセントに下げるぞってことらしい。
 つまり220パーセント分の容積率は、JRから買う下約束があるらしい(あるいはJRが床を乗せるのかも)。

 この東京駅からの容積移転は既に、新東京ビル、新丸ビル、丸の内OAZO,丸の内パークビル、2棟のグラントウキョウビル、住友信託・UFJビル、パレスホテルに行っているので、これで9ヶ所になる(ほかにもあるかもしれない)。コマギレに移転していることが分かる。
 東京駅を3階建てに復原する工事も始まっているから、3階建てのままで保全するために発明された特例容積率適用地区制度という劇薬は、それなりに効果を発揮していることが分かる。

   ◆

 だが、ここで奇妙なジレンマが見えてきた。
 もしも中央郵便局が重要文化財となって全面保存することになったら、東京駅の余剰容積率はここに移転できないことになる。
 そうなったら東京駅の復原保全の資金が不足する(実際にそうかどうか知らないが)。

 そればかりか、今度は中央郵便局もどこかに余剰容積を切り売りすることになる。 いっぺんに一ヶ所に売るには大きすぎるから、ちょろちょろあちこちに移転しなければならないのだ。
 そんなにたくさん売れる開発先があるのどうか知らないが、なんにしても東京駅と販売競争することになる。 JR東日本は、どうやって容積セールス営業をしているのか、聞いてみたい気がする。

 あちらてればこちらがたず、とはこのことで、保存と開発はジレンマに陥ることになる。これって例の囚人のジレンマみたいですな。
 さて、どうなるのか。

   ◆

 劇薬だから副作用も大きい。
 なにしろ容積移転した先のビルは、周りと比べてとてつもなく大容積率だからにょきにょき高い超高層ビルとなって、べたっと横座りする芸者島田の東京駅を見下ろして取り囲むのだ。

 先日しばらくぶりで丸の内を歩いてきたら、ちょっと息苦しくなってきて八重洲側に回って、昔このあたりに職場があって懐かしい京橋の、昔からたいして変わらぬごたごたした街の姿を見たら、ほっとしたほどだ。
 元をただせば東京駅を低くするために作り出したギャップの風景である。そのうちに慣れっこになるだろうか。
 保存手法が生み出しつつあるこのジレンマは、この先どうするのか。中央郵便局はそのジレンマを一身で抱え込む羽目になっている。
 →・保存と開発の劇薬ジレンマ
    ・東京中央郵便局保全を考える 
     ・105中央郵便局再開発と都市計画
      ・101東京中央郵便局と保存帝国主義
 →◆赤レンガ東京駅復原反対論集

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