下半身にはありふれたコンクリビルが張り付き、上半身もありふれたカーテンウォールの超高層ビル、こんなちぐはぐな意匠のビルが、神奈川県庁の隣りにできた。真ん前が旧税関の歴史的ビルである。
近寄って玄関を見れば「JAグループ神奈川ビル」と書いてある。
http://datey.blogspot.jp/2013/06/790.html
この場所には、この下半身の意匠の「神奈川県産業組合会館」(のちに「神奈川県中央農業会館別館」)という、1930年にできた3階建のビルが去年まで建っていた。
建て替え前の姿(google street) |
なお、写真を見ると街路樹がなくなっているが、これは植えないのだろうか。
これは横浜市が進める「歴史を活かしたまちづくり」施策のひとつであるようだ。このような形での旧ビルのイメージ継承を、工事費の一部助成策をもって行っているのだ。
一般の眼には何の変哲もない無装飾デザインだが、日本の建築に西欧のモダニズムデザイン思想が入ってきたころの1930年代の建築だから、専門的にはそれなりに歴史性を持っているのだ。
この分りにくい専門性の建築とと、飾りがついていて普通に分りやすい建築の違いが、文化として一般に理解されるには、なかなかに難しい。多分、このビルを見る多くの人たちは、歴史的デザインとはまったく気づかないだろう。
現に、つい先日のことだが、横浜関内の歴史的建築をめぐる催しに参加してここを通りかかり、ボランティアガイドの方(横浜シティガイド協会)に、これも歴史的建築ですねとわたしが言うと、ご存じなかった。それが普通だろう。
東京駅前にあった中央郵便局が1933年だから、似たような形である。タイル貼りか白色ペンキ塗りかの違いだけだ。そう言えば、昔の形を下半身い貼り付け、上半身にガラスの超高層という意匠は、そっくりである。
中央郵便局が表側の2スパン分の建物を残して新ビルにくっつけたのに対して、こちらのJAビルは街角の隅切りに面する壁一枚だけを残して新ビルにくっつけたから、規模の違いはあっても手法もほぼ同じである。
旧東京中央郵便局(現・JPタワー) |
で、このJAグループ神奈川ビルは、そのうちの下手の部類である。これは腰巻保存とかカサブタ保存とか揶揄されてきた手法であるが、それにしても新旧のデザインの取り合いに工夫が無さすぎる。
新旧のデザインの取り合い 典型的カサブタデザイン |
旧建築意匠のパラペット部と新建築意匠の取り合い |
アイランドタワー |
アイランドタワーの新旧の取り合い 新旧を切り離して見せる 新ビルの低層部は旧ビルとパラペット高をそろえる |
合同庁舎 |
合同庁舎の新旧のデザインの取り合い 2段構えで取り合う |
県立歴史博物館 |
県立歴史博物館の新(左)旧(右)の取り合い |
ところで、昨年現地で見たのだが、旧建築の隅切り部分の壁一枚を、わざわざ切りとって残していた。これを新ビルに張り付け、さらにその左右にコピー再現した壁を作ったのだろう。
だが、新旧とも白く塗ってしまったから、せっかく切りとったオリジナルの壁がまったくわからなくなった。
知る人ぞ知る昔の壁というのも、もったいない。オリジナル壁とコピー壁を区別できるデザインをしなかったのは、どうしてだろうか。隅切り部の壁を現地に残していた(昨年) これを新ビルに組み込んだ |
わたしは現物保存こそ正しい歴史的保存であるという多数派建築家とは立場を異にするが、せっかく現物保存したのなら、それを歴史の証人として生かしてほしいと思う。
そこにこの新ビルの設計をした建築家の、歴史への理解とデザイン力のレベルを見ることができる。
参照⇒横浜ご近所探検隊が行く http://datey.blogspot.jp/p/blog-page_19.html
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