道端に山栗のイガが落ちているので、剥いてみたら栗の実が入っている。野生の猿に取られる前らしい。
少年の頃この時期には毎日、生家の神社境内で栗拾いをしたものだ。だから栗が落ちているとどこでも拾って持ち帰る。だが、はて、核毒地帯の中のここで拾ってもいいのか、持ち帰っていいのかと思案したが、法律違反行為ではないらしい。
道の左にある栗の木の下に栗の実の入ったイガが落ちていた |
これを持ち帰って食ってみたい、核毒の味はどんなものだろうかと、今でなければ経験はできないと、好奇心がむくむくと湧いた。4粒の実を拾ってポケットに入れた。
わたしがこれを食ってなにかが起きても、誰かに感染することはないはずだ。何か起きるとしても、何年か後のことだろうから、その頃は多分この世にいない。たとえそれが原因でこの世から去っても、今やちっとも惜しくない年齢だ。などと理屈を考えた。
そして、横浜に持って帰り家人に内緒で、ポップコーンと一緒に電子レンジで熱して、4粒みんな食ってしまった。核毒の味がした、と言いたいが、ただの山栗の味だった。
左は拾った栗の実、右はそれを熱して食べるところ |
ということで、ただいま生き物として人体実験中である。さて、これから何か起きるかお楽しみ、というほどの一大事ではないよな。
ま、歯が痛くなっても、顔にシミが広がっても、あの栗のせいかもしれぬと考えるのも、この大核毒事件を忘れぬためによいことだろう。
生き物と言えば、この旅では動物、鳥類、昆虫類をあまり見かけなかったような気がする。もっとも、わたしは生き物の中で樹木には興味がるが、犬猫鴉蜻蛉類ににほとんど興味がないので、実際はよく分からない。
飯舘村役場のあたりにいた人に聞いたが、最近は鳥も昆虫も見ないという。核毒にやられたに違いないという話しぶりだった。わたしはその後にトンボを見たが、秋の野にしては少ない。
聞くところによれば、飼い豚が野豚になり、野生の猪との野合でイノブタがたくさん繁殖しているとのことである。このことはずっと以前にこう書いた。
http://datey.blogspot.jp/2013/01/708.html |
飯舘村で稲の試験栽培田んぼの周りに電気柵をめぐらしてあったのは、その猪対策だそうだ。だが、撃ち取っても牡丹鍋にすることもできない。
飯舘村の試験栽培田んぼの手前に見える猪除け電気柵 |
動物の姿をたくさん見たのは、浪江町の牧場の牛の群であった。だが、核毒地帯の飼い牛は殺処分されたはずだから、わたしが見たのは特別な牛たちであったようだ。
調べてみるとその牧場主は、行政からの殺処分指示に逆らって、積極的に生かして約360頭も飼育している。原発問題に対して現地に生きる動物のあり方から、社会的に問題提起をしているらしい。反原発運動のひとつの形だろうが、その牛たちはこの先どう生きるのだろうか。
例の栗の実は、その牧場の近くで拾ったのであった。
核毒の地に生き続ける牛の群 |
さて、そうやって2日間を核毒地帯の中で過ごしたので、さぞやわが身体が汚染しているだろうと、スクリーニングなるものを受けることにした。そういうことをする場所が第2原発のそばにあるのだ。
核毒汚染したからだをクリーニングしてくれるのだろう、素クリーニングとは簡易な方法かと思ったら、全然見当違い。スクリーンを通してふるい分けるスクリーニングってことで、ここでは汚染度を調べて超汚い奴を勾留する。その後にそいつをクリーニングするらしい。
そんな気取ってカタカナ語使わなくったって、核毒汚染度測定と言えばいいじゃんかよ。原発核毒に関しては除染とかスクリーニングとか、聞いたことのない言葉をわざと使っているらしい。
ほかにも放射線と放射能と放射性物質がどう違うのか分らないし、シーボルトとかバックレルとか、いくら意味を聞いてもすぐ忘れてしまうので、なにがなんだかわからない。原子力事故という言葉もどうもおかしい。火力事故とか水力事故とかいうのか。
とにかく、わたしはなんでもかんでも核毒ということにしたのだ。
スクリーニング場での検査は、空港で飛行機に乗る前にやるアレと、見たところはほぼ同じである。違うのは、空港では見えないところを検査するが、ここでは見えているところを頭のてっぺんから靴の裏まで調べることだ。
わたしもやってもらって、身体中をなでまわった線量計を見せてもらい、検査係から説明を受けたが、実のところは、何のことやらさっぱりわからなかった。
分らないこちらが悪いのか、説明が悪いのか、それもわからない。分かったのは無罪放免ということだけだった。
衣服等に着いた核毒汚染の度合いを調べる |
空を飛べる鳥は逃げてしまったが、猪も豚も牛もこの地で生きていく。そして森に植物は繁り、木の実は毎年落ち、キノコも毎年腐っていく。それが核毒のせいでどうなるだろうか、どうもならないですくすくと野生の王国核毒の森になっていくのだろうか。
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