2022/10/03

1649【朝日歌壇の歌人】カリフォルニア夫婦歌人が苺と核を詠み共に入選


2022年10月2日の朝日新聞「朝日歌壇」に、アメリカ在住知人二人の歌が入選している。

 <高野公彦選>
 遺伝子の組み換えなきころ匙の背で潰して食べた苺うまかった
            (アメリカ)大竹 博
 <馬場あき子選>
 被爆者の証言こそが抑止力になるとて今日もズームで証言
            (アメリカ)大竹幾久子

この二人は夫婦であり、どちらかがちょくちょく、たまには二人そろって入選している。夫君はわたしの大学同期、細君はまた別の同期仲間の妹である。この二人の歌については、このブログで何度も書いてきたが(文末を参照)、久しぶりに書く。

朝日歌壇を長らく見てきているが、家族である詠み人たちが若干いる。大竹夫妻のほかにはM姉妹やY姉弟がいる。M姉妹の小学生時代から歌を読み、今は姉は社会人1年生になり、読者として続き物短歌として面白いが、選者がいちばん面白がっている様子だ。家族親戚歌人とわかるのは歌の内容と氏名からだけだが、ほかにもいるかもしれない。

わたしでも知っている著名な夫婦歌詠みは、与謝野晶子鉄幹そして河野裕子永田和弘(現・朝日歌壇選者)である。選者の馬場あき子には岩田正という歌人がいた。

与謝野夫妻も永田夫妻も歌を通じて結ばれた歌人たちであるが、大竹夫妻は歌よりも前に結ばれた仲であろう。そして夫唱婦随ならぬ婦詠夫随から始めたらしい。4年ほど前までは朝日歌壇登場は幾久子詠ばかりだったが、いまや博詠入選数が互角に追い上げている。

大竹夫妻の歌の特徴は、日本とアメリカとの文化の違いあるいはその間のギャップを主題として詠うところにある。例えば二人のこんな歌がある。

 浴衣着た人は右前左前スニーカー履きロスの盆踊
             (アメリカ)大竹幾久子
 コロナ禍のアジア人われスーパーで目をそらす人避けていく人
             (アメリカ)大竹幾久子
 アメリカに帰化せし後の訪日は身は「行く」なれど心は「帰る」
             (アメリカ)大竹 博
 空輸にて届きし友の新米ぞ我いまパンを好むとは言えぬ
             (アメリカ)大竹 博

特に幾久子詠には彼女でなければ読めない大きなテーマが貫かれている。以前の朝日歌壇入選にこんな歌がある。

 原爆死の父は机上で笑みており娘が米人となりしを知らずに
             (アメリカ 大竹幾久子)
 父は死に我は生きたり原子雲の下で二キロを離れただけで
             (アメリカ 大竹幾久子)

彼女は幼い日の1945年8月6日、世界最初の核爆弾を体験した身でありながら、その実行国アメリカに定住した。それをチャンスに核爆弾被災者語り部となる。実母の生々しい体験の言葉を記録して日英両語で出版もしている。作歌はその延長上にあり、最新詠が今回入選の馬場あき子選の上掲歌である。おのずから社会性が色濃い歌になる。

いま、ウクライナのプーチン戦争で、核兵器登場の惧れについて生々しい状況があるらしい。現実的には核兵器使用の前に、ウクライナの核発電施設をロシア軍が占領管理下にあり、これが事実上の核戦術兵器として効果を既に発揮している。日本も有事にはそうなる核発電国である。

今回の幾久子詠「被爆者の証言こそが抑止力になるとて今日もズームで証言」は、明らかに今の世界事情を詠み込んでいて、恐怖感さえ覚える。気候変動による災害も怖い、アメリカはハリケーンで大災害らしい。もちろんコロナも怖い。

一方の博詠では、昔々日本で匙(スプーンじゃなくてサジ)でつぶしつつ味わった苺を、「うまかった」と無邪気に懐かしむふりをして、じつは遺伝子組み換えに対する疑惑の砂入り苺を嚙ませてくれる巧みさである。面白さでは博の勝ちだな。

2019年までは毎年日本に顔を見せていた大竹夫妻、来年こそは来てほしいものだ。あちらもこちらも共に年齢がいつまでも待ってくれそうにない。
そうだ、大竹夫妻に歌のリクエストをしておこう。ぜひとも相聞歌を読ませてほしいものだ。

●これまでわたしのブログに書き込んだ大竹夫妻の歌のことなど
2011/09/26・カリフォルニア歌人…https://datey.blogspot.com/2011/09/500.html
2012/07/31・日本人は5度目の…https://datey.blogspot.com/2012/07/648.html
2012/11/12・原発事故調報告を読んだ…https://datey.blogspot.com/2012/11/688.html
2013/01/07・カリフォルニア歌人…https://datey.blogspot.com/2013/01/705.html
2013/12/23・カリフォルニア閨秀歌人…https://datey.blogspot.com/2013/12/879.html
2015/10/18・いまなお原爆と向き合っ…https://datey.blogspot.com/2015/10/1134.html
2018/08/12・カリフォルニア夫婦歌人…https://datey.blogspot.com/2018/08/1156.html
2018/12/23・カリフォルニアの旧友…https://datey.blogspot.com/2018/12/1175.html
2019/03/03・カリフォルニア歌人登場…https://datey.blogspot.com/2019/03/1191.html
2019/08/11・戦争の八月広島核爆弾…https://datey.blogspot.com/2019/08/1414.html

         (20221003記)



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