民主党政権が政府事業の仕分けをしていて、都市再生機構(UR)が槍玉に上がったとか。
詳しいことは政府のそのページに書いてあるが新聞報道も見ると、第1に都市再生事業を縮小すること、第2に賃貸住宅事業を縮小すること、第3に関連会社への随意契約発注を廃止する、この3点らしい。
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まず、第1の都市再生事業の件だが、これは縮小すると言うよりも方向を変えるべきと、わたしは思う。
これまでURが行なってきた都市再生事業の中心である都市再開発事業(区画整理、市街地再開発事業)に関してみると、どうも政府、自治体系のなにかの施設の跡地(空き地)を狙って事業をやって来ている傾向が強い。
都市再開発の本質は、過密で燃えやすいような密集市街地を改善することにある。
しかし、URのやってきたことはその方向ではなくて、やりやすい大規模跡地を区画整理して大規模ビルを建てるとような仕事が多い。はっきり言えば、やるべきところよりも、やりやすいところばかりである。
最近のURは、建物を建てて売ることができない制度になったとかで、土地だけ整理して民間事業者に卸売りする方式であるらしい。
跡地整理ならはじめから民間でできるし、いや、民間事業者がやるほうが効率的である。
URがこれからやるべき都市再開発は、民間企業ではなかなか取り組めない、息の長い採算性に乗らないような、しかし社会政策として取り組むべき事業である。
例えば木造密集市街地、あるいはドヤ街のような環境の悪い居住地を改善するような事業である。それらは自治体ではとても無理なので、政府の社会政策として取り組むべきことであるからだ。
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第2の賃貸住宅のことだが、報道では高級賃貸住宅はやめて民間に売却せよ、高齢者や低所得者対応賃貸住宅は公営にせよ、ということのようだ。
行政刷新会議のサイトを見るとこう書いてある。
「全員の意見は、高齢者・低所得者向け住宅の供用という政策目的の部分と市場家賃部分は切り分ける、その上で政策目的部分は自治体あるいは国、市場家賃部分は民営化/民間に売却/段階的に民間にシフトしていくべき、ということに集約されているので、その方向で整理していただくということを我々のWGの結論としたい。」
これにはわたしは大反対である。なにか根本的な誤解か無知があるとしか思えない。
民間賃貸住宅に仕分け人は暮らしたことがあるのだろうか。あの契約関係のひどいこと、管理のいい加減なこと、高額でしかも礼金を取ること、まったくもってどうして民間に任せろなんていえるのか。
高級賃貸住宅というが、2LDKで18万円もするとは、高級なのは家賃だけなのだ。
そのような高額にして狭い賃貸住宅を供給しなければならないようなURという公的事業体の仕組みこそが、日本の住宅政策の貧困であるのだ。
質の良いものを安価に供給させるようにURを改めることこそ、民主党が自民党とは異なる政権としての事業仕分けのはずだ。
仕分け人の言うことを住宅政策として翻訳すると、民間賃貸住宅が質が悪いから、UR賃貸も民間にせよと言っていることになるのだ。本末転倒もは甚だしい。
住宅は社会資本であり社会政策であるということが、民主党になっても分かっていない。
URが1955年から営々と供給してきたような、質の高い住宅が今こそ必要なのである。今の民間住宅はほとんどが、住宅公団以来のUR賃貸住宅のノウハウの上に立っているのだ。
せっかく戦後に住宅公団から築きあげてきた室の高い住宅の供給体制を、低質な賃貸住宅がはびこる民間に移行するのは愚の骨頂である。
民間任せの住宅政策、経済政策として住宅政策が、貧困ビジネスの繁栄に手を貸していることは、先般の暮から正月にかけての派遣村が見事にそれをあぶりだしたのだが、政治家は分かっているのだろうか。
あるいは横浜寿町のドヤ街に行ってみれば、住宅政策の貧困がまさに現在の貧困ビジネスを支えていることがよく分かるはずだ。
アフォーダブル賃貸住宅供給事業こそが、URの進む道であり、政策はそのように展開するべきだ。
URが持っている77万戸の賃貸住宅のストックを、生かす道もそこにある。
55年体制を危うく思想になった公団住宅住民の革新系への肩入れを、公団住宅の賃貸から分譲住宅への転換で阻止しようとしたと私は見ている。小さな財産を持った庶民は保守よりになる。
そしてそうなって自民党政権を支えた。それが民主党政権で振り子は元に戻るのかと思っていたら、なんとこれでは民主党が55年体制の仕上げをする役割になるのだ。
今回の仕分けによるUR賃貸住宅の縮減策は、もしかして、77万戸入居者の約100万票を民主党は敵にしたかもしれない。
仕分け人たちは、住宅の需要側の視点で社会政策として事業を見るべきなのに、供給側の経済政策としての視点で見てしまっている。
誰もが必要である住宅という基本的人権にかかる社会政策を、市場任せにするようでは民主党は自民党と同じである。
参照→
187民主党の居住・住宅政策は?
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第3の関連会社への独占的発注であるが、これは昔わたしが仕事をしていた頃から、奇妙なことだと思っていた。
わたしはURの仕事をしたことはないが、周辺からいろいろと聞いていた。
例えばURの発注する建物の工事監理となると、かならずある特定会社が独占していた。八王子の多摩ニュータウンで起きた大規模な欠陥住宅事件も、工事監理がしっかりしていれば起きなかったことだが、この会社がやっていたような、。
あるいは計画や設計に関しても、ある特定の会社はURのみからの受注で経営しているらしいのだ。しかし、そこの内部だけでは仕事をこなす能力が足りないので、他の設計事務所やゼネコンから人を派遣させて仕事をこなしていることもあった。
URにも民間会社から派遣されている技術者が多いことは、聞いたことがある。
なんでもかんでも一般競争入札による発注が良いとは決して言い得ないが、これまでのやり方が問題がありすぎたと、はたから見ていて思った。