横浜都心の7階に住んでいると、聞こえる音は、ほとんどが自動車走行の騒音であり、近くに消防署があるので救急車が特にうるさい。
朝はシャッターが上がる音が毎日定時に聞こえる。時には人の声も聞こえるが、それは喧嘩のような大声であるときだ。
時にはどこかのビルの火災報知非常ベルが聞こえ、いつまでも鳴っていると不安になる。
自然の音といえば、強風のときの壁に当り角を切る音が強烈である。
雨は、吹き降りで窓にたたきつけると音が聞こえるが、普通の雨はまったくわからない。雨だれの音はないから、外を見ないと雨かどうかわからない。
今は真夏、この季節だけは蝉の鳴き声が、ミ~ンミンミン、ジージージーと聞こえている。これがこの家でのもっとも自然の音らしい音である。
蝉といえば、生家は神社の鎮守の森の中にあったから、夏の間は蝉の声に包まれていた。それはもう、森の中の空間には蝉の声が充満していた。森の中に縁台をだして、蝉の音にくるまれつつ昼寝をしたものであった。
その音色が夏のはじめから秋に向って次第に変っていった。それは蝉の種類が変るからだ。その音色の変り具合で、耳から季節の変化を感じ取ったものである。ヒグラシが鳴き出すと、夏も終わりの寂しさがただよう。
中越山村の法末の夏、茅葺民家に寝ていると、早朝一番にヒグラシが鳴きだす。日暮しならぬ日明しである。その音でちょっとだけ目を覚まし、あちこちでカナカナカナと交互に呼び合いつつ鳴く声を聞きながら、また寝入るのは心地よいものである。
夜中には、庭の池の主である蝦蟇がゲコゲコググと鳴き続けるの聞きつつ寝入る。
茅葺の上にトタンを張っているから、雨音は大きい。雨だれが土を打つ音も聞こえる。でも、雨音で目覚めることはない。
朝目覚めて初めて聴く雨音で、今朝は田んぼ仕事は休みだなあと、また2度寝に入るのは、ちいさな幸せである。
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