2026/09/15

1975【老酔録㊿介護認定】お歳にしてはお元気ですねと褒め?られて困惑立腹する歳になってしまった

 介護保険による介護認定を獲得するための面接テストを受けた。何しろ卒呪だから、それ相応の身体的不具合が進行していることを、日々認識するようになっている。つまり人間的能力退行度合いの進行であり、赤瀬川源平流に言えば老人力の増強である。

 最も認識が顕著な退行現象は、歩行速度である。普通なら時速4kmだろうが、わたしは今やせいぜい1km/hである。突然にそうなったのではなく、この半年くらいの間にじわじわと毎日その退行を自覚する。抵抗して毎日長時間徘徊に出ているのに、無駄だった。

 昔から歩くのを大好きで、毎日歩いているものだから、その速度退行がよくわかるのだ。早く歩こうと思っても。どういうわけか足の奴は前に出ない。さらに困惑するのは、踏む地面や床にスポンジ板でも敷いてあるように、足元に何となく不安定感があるのだ。

 このまま歩き続けると、今に転倒するだろう。亡妻が自宅介護に陥るきっかけは、公道上での転倒・救急搬送だった。以後転倒を繰り返して半身不随となり、息子とわたしによる3年余の自宅介護看護の末に逝った。原因は脳内血腫にあると分ったのは死の半年前だった。

 それを思い出すと、いま自分もその時が目前にあるようだ。今のうちに介護認定をとって備えておこうと思う。認定申請手続きを息子がやってくれて、今日、市の区役所から担当者が、介護認定面接に自宅にやってきた。、たくさんの質疑応答した。

 質問はどこの誰にでも同じだそうだ。気になった質疑応答を書く。
「5分前のことで忘れていることがよくありますか」
「う~む、そんなことがあるのかどうか、わかりませんね。独り暮らしだから、他人に指摘 されることもないからね」

 「ではこんな質問をします。ここにお見せする三つのもの、腕時計、ボールペン、指のイラストを覚えておいていただき、5分後にそれらが何であったか伺いますので、よろしく」
 「はい、覚えました」
 「5分経ちました、先ほどの三つのうち、腕時計とボールペンの他は、何でしたか」
 「えっ、3つとも聞いてよ、せっかく覚えてるんだから、指のイラストでした」

 「台所で鍋焦がしをしたことがありますか」
 「ありますが、そんな時はガスが自動切断するレンジだから問題ありません」
 わたしの答えは、実は答えになっていないのだった。聞かれているのは設備のことではなく、わが脳の忘却能力のことだった。問題あるのである。

 身体能力についての動作のテストは、そこらあたりを歩いて見せること、片足で立って見せること、両手を左右に広げたり上に挙げて見せること、椅子に座って脚を前に水平に伸ばして見せること等。こんなときはついつい正常に見せるように頑張るのが人間の癖だ。

 でも、ここでは介護認定を取得するためだから、いかに能力が退行しているか、それを見せねばならない。それはなかなか難しい。仮病を装うには芝居を下手である。このテストが実は最も難しかったと言える。

 たとえ転倒しても介護保険をすぐ使いたい。だからこのテストを受けているのに、元気に見せては軽い認定では意味がない。かといって下手な芝居で担当者を騙すこともできそうにない。矛盾した心と行動に戸惑う。しかし、相手は専門家だから、多くの老人テスト例から適切に察して判断してくれるのだろうと、思うことにした。

 こんな会話もした。
 「お歳にしてはかなりお元気ですね」
 「あのね、その言葉をよく聞く歳になりましたが、高齢者をほめる儀礼的文句ですよね。そう言われる歳になってみて分ったのですが、それを聞くと腹が立ちますね」
 「あ、ごめんなさい、でもどうしてですかあ」
 「誉め言葉のように思うでしょうが、言われるほうは、この人はその言葉の前提として思っているに違いない、”あなたはもうよれよれ爺ですねえ、それなのに……”、と実はけなされていると思えてならないのです。年寄りの僻目でしょうかねえ」

 さて、吉と出るか凶と出るか、いや、そうじゃなくて、要支援とか要介護とかのランキングに入るものかどうか。今日のテスト結果を、認定委員会にかけて、一月後くらいに結果が出るのだそうだ。それまでは転倒するのを待つか……、どこかの劇場ホールの手すりのない客席階段で転げ落ちる予感、、衆人環視で杖もろとも・・・。


(2026/09/15記)

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米呪を越えて老いに酔い痴れる日々の記録
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伊達美徳=まちもり散人
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