2011/09/28

501杉本博司演出の三番叟

 神奈川芸術劇場で、杉本博司演出による「三番叟」をみてきた。(2011.9.21)
 この劇場はつい最近オープンしたばかり。県立ホールが音楽系で、こちらは演劇系とするらしく、芸術監督は宮本亜門である。
 建物の建設に当たって発掘調査をしたら、日本の開国期からの外国人居留地の建物基礎、道路、配水管などの遺構が出てきたそうだ。
 古くは古墳時代の遺跡も出てきて、そのころも海ではなくて砂州があって人が住んでいたらしい。

 三番叟は能楽の「翁」の一部である。翁は、シテ方と狂言方が交互に出演するという、珍しい形で古式を伝えており、狂言方が担当するのが三番叟である。
 演じたのは野村万作と萬斎親子である。同時に出るのではなくて、万作が先に三番叟を舞い、後でまた同じ三番叟を萬斎が舞う。

 80歳と55歳の体力の差が歴然と出るのは仕方がないが、残酷なものである。
 前段の揉之段は激しい動きであるし、後段の鈴の段は不自然な姿勢を続けなければならない。
 万作は2階席でも聞こえる大きな息をついでいたが、萬斎にはそれがない。
 10年位前に、観世能楽堂で正月恒例の翁で、萬斎の三番叟を見たことがあるが、汗びっしょりになっていた。
 萬斎のうごきにはキレがあるが、万作には流れがあると見よう。
 万作が枯淡の境の動きであると見るほどの眼力は、わたしにはない。

 杉本演出は、ほぼ三番叟の舞だけに焦点を当てており、能舞台を平土間にすえて、後方からまっすぐに後橋掛かりをつける。
 万作の三番叟は、できるだけ古式に近くする意図らしく、目付け柱と脇柱が半分の高さで立っている。萬斎のときはこれをはずしてしまった。

 面箱の扱いなど幾分かの省略はあるらしいが、基本的には能楽の舞と囃子には新演出はなかったとみてよいだろう。
 新演出は、萬斎の舞台のときに、大地踏みにあわせて稲妻を光らせたことだろう。稲妻効果のためか、舞台は極端に暗い。これをよしとするかどうか、難しい。

 いつもの明るい能楽堂では、演者の動きや囃子につれられて、見ているこちらの自由な妄想を楽しむのである。
 それが何もない舞台の能楽の面白さである。
 ところが、こんな暗い舞台で稲妻が走っては、杉本の意図する世界にはいらざるを得ない。それが演出というものだろうが、そのわざとらしさが邪魔でもあった。
 いや、実は、そういう見方を楽しむべきであるのだろう。

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