わたしの口中の唯一の義歯であった一本の前歯が抜けたままで、もう半年である。機能的にはなんの差支えがないが、容姿がちょっと気になる。大口を開いて笑いたくない。
歯医者が言うには義歯を入れるには、ブリッジとか言って義歯の両側の歯を切って、3本くっついた義歯を作り、両側をきった歯の根につけるのだそうだ。まだなんともない歯を2本も切るのに抵抗があって、そのままにしてきた。
歯抜け爺にはよく出会うものだが、自分がなってみてこういうことから起きると分ったのである。
45年くらい前に名古屋の繁華街の真ん中で転んで、立ち上がったけどどこも傷はないが、しばらく歩いていて前歯がないことに気がついた。妙な転び方をしたものであるが、差し歯をした。
この抜けた前歯の義歯は2代目で、はじめのは10年足らずで外れて、新しく入れなおした。だからこれは35年くらいもったことになる。
これから入れる義歯が35年もっても、そのかなり前にわたしは必ず死ぬはずだ。さて、ブリッジなる義歯を入れたものかどうか悩んでいる。
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