2013/03/21

740歴史は下手な小説よりも虚構に満ち満ちていて面白い

 わたしの書斎兼寝室兼居間兼晩酌室には、壁4面の本棚に未読本がものすごくたくさんある。
 金はないけど、閑はある、せっかく買ったのに読まないままに死ぬのはもったいないから、もう書店で本を買いこむ癖をやめて、それら未読本制覇にとりかかった。 

 どれからにしようかと考えて、思いついて日本史を読みながら、いろいろと他の本も並行することにした。
 日本史の本は「週刊朝日百科『日本の歴史』」である。A4版、全133冊だが、一冊は32ページで図版写真が多いから、気楽に読める。
 1985年の刊行だから、現代史ではもう古くなっていることや、近頃の研究で内容が変わっている事項もあるだろう。

 でも、この30年でどう歴史の叙述かかわったかそれも面白いだろうと、「宇宙と人類の誕生」編から読み始めた。
 これは猿人とか旧人とかが出てくるところまでで、今では違う学説もあるかもしれないが、まあ、よろしい。

 次は「原ニホン人と列島の自然」の巻、フムフム、そんな昔から日本列島に人間はいたんだなあ。
 え、30万年も前からいた可能性があるって、え、座散乱木遺跡って、アレ、なんだ引っかかるなあ、なんだっけ、あそうだ、これって以前に大スキャンダルニュースで騒ぎになった旧石器遺跡捏造事件で聞いたことあるぞ、あれだあれだ。
 なんだ、2巻目にしてもう歴史が変わる事件にぶつかってしまった。
 
 さっそく書棚にあるはずの、スキャンダル発掘暴露した毎日新聞が書いた本を探すのだが、みつからない。
 昔なら図書館にでも行くところだが、いまや貧者の百科事典ウェブサイトのお世話になる。あるある、いっぱい出てくる。
 昔の本に書いてあったこと以上に、裏の裏まで書いたものもある。全く便利になったものだ。

 それによると、捏造事件発覚は2000年11月のことであった。
 藤村なにがしという遺跡発掘の専門家が、発掘のたびにあらかじめ発掘する石器を地中の何十万年も前の地層に埋めておいて、発掘時に「新発見」をし続けたという事件である。

 このなかに座散乱木遺跡があったのだが、おかげで遺跡が遺跡じゃなくなった。ほかにも40ほどの発掘で捏造をして、石器どころか遺跡そのものが捏造だったという。
 捏造遺跡にしたがって、何十万年も前から日本列島には石器をつくることができる人間がいたという、考古学会のおとぎ話が構築されていて、この本にも写真解説付きで載っている。


 それにしてもあれは変な事件だった。
 たった一人の石器アマチュアが嵩じて発掘屋になった男が、発見の名誉心にかられて、日本中の石器時代遺跡でほかで拾った石器を埋めては、自分で発掘する「新発見」を続けて20年余、その間、専門家のだれひとり見抜けなかったというのだ。
 一部に見抜いた人がいたが、その人たちは学会から村八分にされたそうだ。

 あの当時も呆れたが、いまネットでいろいろ読んでてさらに呆れた。
 30万年も前にそんな精巧な石器(実は弥生時代の石器)をつくったり祭祀遺跡を持つところは、世界中になかった。日本だけで文化を持った旧石器人が発見されたのだ。
 そこで日本の考古学者たちは考えた、日本人はそれだけ文化的に優秀な民族だったからだ、と。そう発見当時に語っているのであった。
 これって、日本民族は世界にぬきんでて優秀だから、鬼畜米英には負けない高い文化国家なのだって、まるっきり戦中のおハナシだよなあ。

 で、その後の考古学の世界では、あのスキャンダルを藤村ひとりに全部押し付けて、誰も責任は取っていないのだそうである。
 さすがに当時藤村のそばにいつづけてその新発見を学問的業績にした学者たちは、わが身の不明を謝ってはいるが、学界の重鎮のままらしい。
 さらに疑問は続いているらしく、あんな一介の発掘屋の(こういう差別的な言い方もどうかと思うが)藤村ひとりでできるはずはない、実はストーリーをつくってやらせた学者がいる、そこには学会の勢力争いが裏にある、なんて話もある。こちとら庶民を面白がらせてくれる。

 思い出したが、昔、永仁壺事件てのがあったなあ。現代の名工がつくった古びた壺を、文部省は永仁期の本物とまちがえて重要文化財に指定してしまったのだった。あれもおかしかった。
 歴史は面白い。下手な小説よりもまことに虚構に満ち満ちている。
 このあと読んでいてどんな虚の歴史が出て来るか、楽しみになってきた。

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