2023/10/05

1708【外苑再開発談議】新ラグビー場はPFI入札ダンピングで新規国費投入額抑制されても巨額負担らしい。

熊五郎:ご隠居の9月25日ブログ記事で、神宮再開発の金勘定のことがおぼろげにわかりましたよ。それから9月30日ご隠居談議で、ちょっと脱線気味ながらラグビー場のドジぶりも分かりました。

ご隠居:熊さんにはそれでもよく分からんだろうから、10月2日のブログラグビー場はこの再開発に参加するなって、納税者として書いておいたよ。

●ラグビー場はPFIで81億円で建つ?

:でもねえ、ご隠居、ある人からこんな話を聞きましたよ。実は新しいラグビー場を建てるのに、JSCが入札したらドドーンと安く取った業者が現れて契約したとかするとかってね、それがご隠居のいう540億円どころか、なんと81億円だそうですよ。ご存知でしたか。本当にそうなら再開発やった方が得でしょ。

:それは新ラグー場の建設と運営管理をPFI入札したことだろ、もちろん知ってるよ。

:じゃあ、事実なんですね。なんです、PFIって。

Private-Finance-Initiativeの略称だがね、公共の箱モノを民間事業者に建てさせて運営もさせることを言うのだよ。国立のラグビー場をそれでやろうってんだよ。

:つまり国は土地だけ持っていて、ラグビー場の新建物は民間企業に売ってしまうんですか?

:いやいやそうじゃなくて、新ラグビー場を民間企業の金で建ててもらい、その代わり30年間の運営管理を任せるので、その収益で建設費用を賄ってくれ、という仕掛けだよ。今要る建設費と将来入る予定の収益の差額が、ほれ、熊さんが聞いた81億円だよ。全額を賄いきれなくて81億円赤字になるから、その分をJSCが払うとなったんだね。

(図1)出所はJSC広報

:30年分の未来に入る予定の金を差し引いたら赤字が81億円になる、ということですか、では建てる費用だけならいくらかかるのですかねえ。

:それはJSCが公表しているよ、この施設整備費約489億円と、ちゃんと書いてある、81億円じゃないよ。(図1の最下段の表)

:ふむふむ、この運営対価の412億円ほどが将来収益なんですね、へえ、これをさし引くから81億円かあ、もしもこれが489億円なら差し引きゼロ円ですね、なーんだ、わかりました。

:だからね、捕らぬ狸の皮算用も入っている、そういうリスクを負っているらしい。そこは落札企業を信用するしかない。

:あるいは施設整備費をもう81億円安くしてくれるのでもいいね。まあ、再開発やめてPFIやるとそんなに安くなるのかって勘違いしてました。

●PFI入札でダンピングがあったのか?

:それにしても入札した3者の中で、落札したグループの81億円とはダントツ安さで、他の入札者の金額が225億円とか357億円とかで、あまりに差が大きすぎる、公共事業の入札では、あまり安すぎる金額を入れると失格になる制度がありますよね。

:そうそう、それでねJSCサイト見ていたら、PFIにはそれを適用しなくてもよいのだと書いてあった、いくらダンピングしても失格無しらしい。それは多分、落札者が運営管理もするから。建物があまりに安かろう悪かろうだと自分に跳ね返ることからだろうね。

:あそうですか、失格はないなら安心して大安値を入れたんですね。入札したのは3組だけで、落札したのは鹿島というゼネコンが代表、鹿島は現在のラグビー場の建設をしているから、意地でもこれを落札したかったんでしょうね。

:そういえば、国立競技場は大成建設だった、あれも元の建物をやったゼネコンだね、では野球場と伊藤忠ビルも同様だろうね、ゼネコン業界の鉄の掟があるのかもなあ。

:まあ、それで良いものが安くできるなら、納税者としては歓迎しましょうよ。でも何が原因で、入札額にこれほど差が出たのですかね、JSCサイトを見ても詳しくは分からない。

:ウ~ム、難しいけど、落札者の金額の大内訳の施設整備費、博物館維持管理費、運営対価が公表されているが、このうちであれほど大差が出るのはどれかねえ、維持管理費では大差ないだろうし、運営対価ってのもラグビーやイベントで大儲ける運営なんてないだろうしなあ、やはりこれはゼネコンのお得意の建設費、つまい施設整備費でダンピングしてるような気がするね。

:ということは、他の2者は建設費が140~270億円も億も高額だったのですかねえ、凄いなあ。

:まあ、それでも建設に490億円ほどかかるんだけどね、81億円じゃないよ、いいね。

:はいはいわかりました。ですがね、ご隠居、じゃあ聞きますがね、

:お、いきなり改まってなんだい。はい、聞きましょ。

●再開発とPFIの関係は?

:ここで施設整備費が約489億円と分かりましたよね、ところがご隠居は先回には市街地再開発事業のラグビー場建設には540億円の新規税金投入が必要となる、と言ったでしょ。これら二つの数字の違いは何ですか。

(図2)出所は2023年9月24日岩見良太郎氏による公開ZOOMレクチャー

:おお、ラグビー場の権利変換で、権利床だけでは床面積が3分の一ほどしか手に入らない、残り3分の2の床面積を得るためにはそれを保留床として足して作り、それを自らを買い増しする金額が540億円、これで新ラグビー場全部が取得できるのだね。つまり540億円で建設すると同じことだ、こういうことだよね。(図2の表A赤枠部分

:そうですよ、PFIでは489億円で全部建つ(図1)のに、再開発では540億円かけても建つのは保留床分だけ、全体の3分の2しか届かない(図2表A赤枠)ってのは、おかしいでしょ。

:そうなんだね、わたしもこれには弱ったね、これはどちらかが違っていると考えるしかないね。まだ事業にかかっていないからどちらも不正確だろうが、どちらがより正確かを考えよう。

:え、そうか、間違っているのか、それらの数字の出どころはどこですか。

:PFIの数字は、20220年8月22日付JSC広報室が発表した「PFI方式による「新秩父宮ラグビー場(仮称)整備・運営事業等」の民間事業者をせんてしました」(図1)というものだよ。

:再開発の数字はどこからなんですか。

:それは「神宮外苑地区第一種市街地再開発事業規約」の中の「別表1 保留床の概要及び保留床処分金の額」(図2表A)にあるもので、この表は2023年9月24日に岩見良太郎氏による公開ZOOMレクチャーから引用したが、作成日付は分からない。わたしの推測では、これの作成日はPFIよりも古いように思う。


:では、ラグビー場に関する数字を確かめましょうかね。まずは再開発後の新ラグビー場の敷地規模ですが、JSC資料を見たところ43466㎡とありましたが、岩見資料(図2表C)だと43480㎡です。

:まあ、誤差の範囲だな。

:次は新ラグビー場の床面積です。JSC資料だと70349㎡ですが、岩見資料(図2表A)だと76700㎡です。

:これは誤差の範囲ではない、岩見資料が初期計画数値だろう、それよりも近年のJSC資料を信用したい。

:次は建設費です。JSC資料では施設整備費が489億円です(図1)。一方岩見資料では保留床部分51880㎡で543億円ですから、全床面積78700㎡では床価額は806億円になります(図2表A )。489億と806億とではあまりに違いすぎます。

:延べ床面積の違いもあるが、それにしても違い過ぎるのは、やはりダンピングかねえ。

:たぶん、岩見資料の規約がラグビー場PFI入札よりも前の古い資料なんでしょう、だからラグビー場の床価額の見積もりが甘いのと、予期せぬダンピングのせいでしょうね。

:なるほど、そう考えるしかないねえ。そのうちの権利床価額つまり土地売却金額はそのままだとすれば、806億円から543億円を差し引いて263億円になる。権利床が占める割合が増えて保留床が減ることになる。

:え、ダンピングで543億円の保留床は263億円になる、ということは、ご隠居がこれまで言っていたラグビー場は超高額新規負担で採算が悪いとの説は取り下げですか?

:いやいや、再開発事業規約で見ると(図2資料A)540億円の保留床取得金を新規国費投入計画だが、JSC発表資料で見ると(図1)PFIダンピングで260億に変える必要があるらしいってことだよ、これだって巨額新規税投入には違いないよ。(注:この項の下線部20232008補綴)

:う~む、ほんとうかなあ、そのうちに詳しく分かるのでしょうかね。

:そのうちに出てくるだろう権利変換計画書を見ればわかるよ。

:そんな重要な計画書が表に出るでしょうか、出てこないと思いますよ。

:いやいや、国有地の処分に関する重要な資料だから、当然に公表されるはずだよ。

●野球場がラグビー場から買った土地は?

:その権利床ってのは、現ラグビー場の土地の一部を、野球場に売却した金額に相当するものですよね、現ラグビー場土地は41100㎡で新ラグビー場では43466㎡ですから土地面積が増えているのに、一部を売却したとはどういうことです?、まちがいですかね。

:いや、間違っていないよ。ラグビー場の土地単価は、ラグビー場のそれよりもかなり高いのだよ、固定資産税の路線価を見ても現は新の倍くらい高い。だから現が新に移ると等価交換なら2倍くらいの広さを確保しその一方で野球場の土地は半分くらいに狭くなる。となると野球場を建てる広さを確保するためには、JSCから土地の一部を買う必要があるんだね。それを買ってもまだ等価交換後のラグビー場の土地面積が広い、だから増えているのだろうね。

:その売却金額が260億円ですかねえ、売った土地面積はいくらなんでしょうね。

:それはJSCサイトを見ても分からない、実際の土地評価額はどこにも出ていない。いろいろあちこち見て計算すれば分るかもしれない。

:その計算をやってみましょうか。

:もういいよ、うちに帰ってやっておくれ、歳とって計算に弱くなってしまい、数字いじりしているとむしろボケが進むような気がするんだ。

:はいはい、ご隠居はもともとこのいちゃもんを、自分のボケ防止のためにやっているんですからね、与太話はともかくとしても、これがもとでボケては困ります。

(20231005記、20231008補綴)

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2023/10/02

1707【外苑再開発いちゃもん】国立ラグビー場だけ大損の再開発にJSCは参加するな

・いま環境破壊と悪評判の外苑再開発(正式名は都市再開発法による「神宮外苑地区個人施行第1種市街地再開発事業」)について、わたしはタックスペイヤ―として考えてみた。結論は、国立ラグビー場は再開発に参加するべきではない。

・現在この事業に対する世間の批判の目は、それによる土地利用の改変が緑の環境と都市公園の景観を毀損するものとして向けられているが、事業の採算性つまり損得についてまったく目が向いていないので、わたしはここでラグビー場のそれについて意見を言う。

・この再開発の権利者のひとりであるJSCのラグビー場は国立施設であり、土地も建物も国有財産である。つまり国税を納める者として、わたしもここにラグビー場に限って反対意見を述べる権利がある。他の民間事業者には言及しない。


・現ラグビー場は再開発事業によりその土地を明治神宮野球場と交換するが(正しくは権利変換による)、その結果でラグビー場は543.5億円もの新規支出(事業損)をするそうである。

・ラグビー場が再開発後に取得する土地の位置は、土地平面形状が不整形であり、保全森林を含むし、青山通りの商業地から遠ざかるので、固定資産税や相続税の路線評価額(固定資産税評価は6割以上も安い)を見てもわかるように、現土地と比べて単価が大きく下がる。

・その実金額は正確には分からないが、かなり安価になるはずだ。土地価格が安価になればそれに反比例して、再開発後に取得するラグビー場の土地面積は現在地よりも広くなるはずである。

神宮外苑再開発地区あたりのの固定資産税評価路額(8千円/㎡)

・ところが再開発後のラグビー場の土地は、6割増加どころか僅か6%弱しか増えていない(表C赤囲み参照)。その差分は、多分、他の民間事業者に売って権利床建設費に充てるのだろうが、それでもなお540億円の税金の持ち出し(保留床買い増し=事業損)をしないと、新ラグビー場を取得できない(表A赤囲み参照)。これは本当に等価交換(適正な権利変換)だろうか?

これらの表は2023年9月24日岩見良太郎氏公開ZOOMレクチャーから引用

・ラグビー場が再開発後に取得する(権利変換)土地には、外苑で唯一の自然植生(に近い)と言われる「建国記念文庫の森」を含むが、土地全体形状が不整形でしかもラグビー場建築には面積が不足していて、森を毀損せざるを得ない状況にあるために、世間から非難されている。狭い使いにくい土地と交換したのが間違いである。

・この建国記念文庫の森はその由緒の名称(ここで神武即位があったのか?)からして明治神宮に帰属すべき森であり、ラグビー場には不要で邪魔だから、ラグビー場との交換(権利変換)対象の土地とすべきでない。もし交換したいならこの森は除外して、その南に整形で利用しやすい面積を取得(権利変換)するべきである。

・要するに再開発によって取得する新ラグビー場は、利用しにくい土地を、不十分な面積で押し付けられて、更に540億円もの税金投入をし、しかも環境破壊と非難される羽目になっている。タックスペイヤーとしては看過できない。

・更なる不満としては、現ラグビー場の国有地が東京の都市計画公園削除の元凶であることっだ。これがあるから公園まちづくりを適用して公園削除ができた。というより、これを狙って公園まちづくり制度を作り、見事に悪用したのだろう。政府機関が環境悪化に加担するどころか元凶になることを、タックスペイイヤーとして哀しむ。

・この再開発で他の民間事業者はそれぞれ不動産投資事業として成功するかも知れないが(損しても一向にかまわないが)、国有財産は投資対象すべきものではないだろうし、一方的に毀損されるばかりの結果になり、しかも多額の国税負担を必要とするするならば、これにはタックスペイヤーとして反対せざるを得ない。

・外苑再開発をやりたいなら、ラグビー場(ここは外苑の外)を除外して、その他のやりたい民間事業者でおやりください。

・あるいはまた、見世物スポーツ嫌いのわたしだから言うが、ラグビー場は国営施設としては不要だから、現在の土地全部を他の権利者たちにできるだけ高額に売却してはどうか(市街地再開発事業では転出という)、いくらか知らないが国庫収入にはなる。そこに民間事業者がどうラグビー場を建てようが建てまいが、わたしには関心がない。ただし、公園削除したJSCつまり文科省つまり政府には、「なんという馬鹿なことをしてくれたのだ」と恨みは残る。

(2023/10/02記)

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2023/10/05・ラグビー場はPFI入札ダンピングで国費新規投入抑制か

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2023/09/30

1706【外苑再開発長屋談議】見世物スポーツに興味ないタックスペイヤとしてはラグビー場に税金投入やめてよ

熊五郎:ご隠居、生きてますかあ。元気そうでよかった。

ご隠居:おや熊さんかい、久しぶりだねえ、うん、どうやらコロナから逃げおおせたようだね。ま、ビールでも飲もうよ。

:ありがてえ、では、乾杯っ、と。どうです、その後ボケは進みましたか。

:ごアイサツだね、うん、昔々仕事で都市計画やってたがね、その古い知識で現今の都市計画にいちゃもん付けるんだが面白いよ、これがボケ進行を少しは遅くしてるだろうよ。

:ハハ、他人が仕事でやる都市計画にケチ付けて、自分のボケ遅延策にするって、安あがりリハビリですねえ、で、今は何にケチ付けてるんですか。

:今というよりももう10年間もケチ付け続けているボケ対策良薬があるんだ、同じ都市計画なのにケチ種が次々と湧いてきてね、ボケてるヒマがない。

:そりゃ結構なことで、あ、分かった、それって神宮外苑再開発でしょ、森や並木が切り倒されるって騒がれてる。あんな洋風庭園に森なんてあったっけ?

:そうそう、オリンピックが来るってんで国立競技場の建て替え騒動があったろ、その2013年からだよ、もう10年もっ経つんだ、あのデカ過ぎ運動場ビルを建てるために都市計画変更をしたのはわかるが、それと関係ない外苑迄ひろげて変更した。

:10年も先のことをオリンピックと同時の様に錯覚させて、どさくさ紛れに都市計画変更に持ち込んだのですね。

:そこにいまの騒ぎの元がある。

:じゃあ開発構想を作ったのははそれより前でしょうから、10年以上もかけてなかなかの戦略ですねえ。そのころのご隠居のブログを読むと、今騒ぎになっている外苑再開発の骨格はもう決まっていたようで、それは当時の各種の公表資料を見れば、ご隠居にはわかったが一般には気づかれなかったようですね。

:世間が言うように今年になって初めて知ったなんてことはないね、昔から世間は都市計画に無関心なものなんだよ。わたしだって初めからよくわからなかったけど、沢山ブログ駄文を書いたのを読んでみると、まるで螺旋を描くように事実に近づいていれ、われながら面白い。


:都市計画で決めた道づくりや建物づくりが始まって、目に見える何かが起こってから騒ぎだすが、実はそれまでには法的手続きが終わっている。でも世間じゃあ、その手続きが秘密のうちに進んでいて、計画が公開されて意見を言う期間があっても、たったの2週間しかない、けしからん、と言ってますよ。

:そうだね、でもね、いきなり公開意見求むってのじゃなくて、それまでにも何度もその機会があるのだけどね、平素からネット公開されている都市計画情報を見るなんてしないものだよ、世間は何せ都市計画に無関心だから。

:ところでご隠居はこの前のブログに、外苑再開発は大赤字で540億円も国民負担だと、刺激的なタイトルで書いてますねえ、世間から大げさと怒られてませんか。

:そう、ちょっと赤新聞的で品がなかったね、怒られてはいないないけど、あの文章読んでもすぐには何か分からないだろうなあ、ちょっと都市計画プロ的なところもあるからね。

:その540億円も国民負担とはなんですか。

:外苑再開発をやるのは、民間の明治神宮、伊藤忠商事、三井不動産の3者と、国家機関の日本スポーツ振興センタ(JSC)だがね、民間事業者が儲けようと損しようと勝手にやってくれ、でもJSCには損しないどころか儲けてほしいと、タックスペイヤーとしては思うのは当然だろ。

:そうそう、それなのに540億円も新規負担するのが、大赤字というのですね。ラグビー場建ててタダとか、儲かるってあるんですか。

:そこが問題だ。そもそも一般的な市街地再開発事業で共同事業するなら、地権者はその土地を活用して新規支出無しで必要な建物が建つって仕組みなんだよ。だからラグビー場を市街地再開発事業で建てるというものだから、これはてっきり税金投入はないものと思っていたんだよ。だからこそめんどくさい市街地再開発事業にJSCは乗ったのだろうと思ていたんだよ。

この話のもとになる外苑市街地再開発事業の諸元
左の表の右上から4段目にある数字約54,359に注意

:でもね、そんな金出さないでラグビー場が建つなんて、ありうるんですか?

:そこが市街地再開発事業だよ、他の地権者と共同してしかも今回の様に非地権者の三井不動産にも参加させて事業をやるんだがね、細かい手法はめんどうだから書かないが、要するに三井とか伊藤忠とか明治神宮という金持ちに金をださせるんだよ、それでラグビー場を建てる。

:JSCが他の民間事業者たちを強請るとか、寄付させるとか?

:まさかそんなことはしないよ、JSCの土地の一部を他の民間事業者に売ることにより、建設費を調達して建てるとの言い方が分かりやすいかな。それが都市再開発法による市街地再開発事業の仕組みなのだよ。ただでラグビー場が建つわけがない。

:では今回の再開発でも540億円国民負担で、これが赤字だとご隠居がいうのは、そのJSCの土地の一部を売ったのだけでは建築費に足りなかったのですか。

:そうらしいね、土地売った金だけではラグビー場全部76700㎡のうち52880㎡分が買うには足りなくて、540億円ほど税金から新規に投入する必要があるらしい。

:へえー、そうですか、ならばもっと土地を多く売ればいいでしょ。

:そうすると計画するラグビー場が土地に入らなくなるのだろうね。ラグビー場を狭くすればいいのかもな?

:競技の都合でそうもいかないのでしょうね。

:とにかくね、ラグビー場が新規投入税金が無くても建つように、事業の仕組みを考えてほしい。例えばラグビー場の土地をかなり高く評価するとかしてね、全員同意型市街地再開発事業では土地評価も同意すれば自由に決められるからね、540億円分を民間事業者から拠出してほしいね。

:そういえば、この外苑は全国各地からの寄付金と労力提供で国営神社を作ったそうですから、今度は国営ラグビー場をそうしてもらいましょうか。

:おおそうだね、昔、国営神社の一部として外苑を作る時に、全国の行政システムをフルに使って、献金とか奉仕の美名でヒト・モノ・カネを徴収して作ったんだね。それは当時の植民地も含めて日本各地への国家神道の布教と明治王権の普及の立派な活動だったろう。

:じゃあ、今回は国営ラグビー場を再開発事業の民間企業からの寄付と奉仕で作ることにしましょうか。それが今回の再開発に乗った民間企業のお役目と考えよう、なんてね。

:わたしは見世物スポーツを大嫌いでTVさえ見ないから、国営ラグビー場なんてどうでもいいんだよ。そもそもオリンピックでよく分かったように、見世物スポーツは完全に商業化されているだろ、なんで国営施設をつくる必要があるんだよ、戦前日本かよ。

:まあまあ、話がが横にそれますよ。

:だからさ、新規に税金負担がないならまあいいさ、JSCが市街地再開発事業に乗ったのはそれが無いからだろうと、わたしはてっきり思い込んでいたんだよ、それが540億円投入とはねえ。

:ではJSCが土地をもっと高く売ればいいのですね。

:そうそう、もしもラグビー場が動かなければ野球場は建たないのだから、そこのところを高く評価しろとね。ラグビー場は今の位置で困らない、移転させたいなら金か土地をもっとよこせってね。

:そうですね、ゴネるのですね、金ないから再開発に乗るのや~めたっ、なんてね。

:まだあるよ、そもそもラグビー場が元凶となる都市計画公園の一部廃止ができたからこそ、明治神宮の土地に三井の高層ビルを建てることができる、この事業の最大貢献者だ。

:あ、そうですね、ラグビー場が公園未共用なので一部廃止できた、そこに三井はビルを建てる、これがこの再開発のキモですもんね。JSCは国の機関でありながら、都市の公園を減少させる原因者・元凶になるとは実にけしからんと非難され、大いに評判を落としている上に、また税金投入するなんて、ますます評判落とすばかりだ。これもゴネ種にしますかね。

:ごねると言えば、ラグビー場が移転先で建国記念の森を破壊すると市民から非難されてている、気の毒にね、そんな森の土地なんか要らないから、もう少し南に敷地を拡げてよこせとごねりゃいいのに、野球場が頑張ってできないんだろうね。

:へえ、建国記念の森なんて、あそこで神武即位があったんですか、知らなかったなあ、そうですか、ラグビー場は踏んだり蹴ったりで、再開発に参加しなきゃよかったかも。

:他の3者から貢献への見返りと非難への補償を受けるべきだよね、それにはラグビー場の保留床処分金の540億円を伊藤忠・三井・明治神宮に乗せ換えて、ラグビー場全部を権利床にすればよいのだ、そういう権利変換に修正してもらいなさい、金持ちばかりの全員同意意型再開だからケンカせずにできるだろ。JSCの再開発コンサルを受託しているらしいURはがんばれ。

:だんだん踏み込みますねえ、ご隠居の与太話は大丈夫ですかあ、まあ、JSCは再開発にうまうまと乗せられたドジなのか、それとも乗らなきゃならない何か政治的な事情があるのか、とにかくタックスペイヤーにとっては、まことに不採算な市街地再開発事業であるってことですな。

:あ、そうだ、どうだろ、また国立競技場みたいに、国立ラグビー場も「白紙撤回」してもらっては、。

:ハハハ、そうきたか、でもムリヤリ白紙のアベチャンがいなくなったしなあ、キシダさんはオリコウサンみたいだからこんなハシタガネって、やらないでしょ。

:そうかもな、まあ、わたしとしてはまだまだ揉めて、ボケ進行遅延特効薬になってほしい。

:え~、その薬代として540億円いただきます。

(2023/09/30記、2023/10/01補綴)

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2023/09/25

1705【神宮外苑再開発は不採算事業】意外にもこの再開発に超多額の国民負担が必要と知った

●外苑再開発は不採算事業

 いま反対運動であれこれ取りざたされる東京の明治神宮外苑再開発事業について、事業採算の基本となる資料の一部を知ったので、忘れないうちにコメントを書く。
 2023年9月24日に岩見良太郎氏による公開ZOOMレクチャーがあった。岩見氏をわたしは知らないが、昨今の都市開発事業(たとえば土地区画整理事業や市街地再開発事業)について批判的な立場にあるらしい。神宮再開発について初めて登場した市街地再開発事業に関する専門家と言ってよいだろう。そのレクチャー内容についてわたしは論評しない。

 そのレクチャー資料の一部に事業資金計画等があり、この事業は市街地再開発事業一般としては権利者にとって大赤字の採算割れ事業であることを知った。ここで言う赤字とは、市街地再開発事業の中で権利者の収支が完結しないで、権利者たちが土地のほかに資金投入をして長期回収する必要があるという意味である。零細な権利者にはできない事業である。

 ここですこしだけ基本を解説する。都市再開発法の適用による市街地再開発事業の一般的な方法は、地権者たちが土地建物を持ち寄って、共同して新たなビルを建てる。そのうちの権利者たちの再開発前の資産に相当する床(権利床)部分を受け取り、その他の床(保留床)を第3者に売却する。この保留床売却金を建設事業費に充てることで、権利者は権利床を無償で取得することができる。(後日補足:なお、ここで無償と書いたが、実は事業の中で金銭支出しないで取得する意味であり、実際には保留床に対応する土地の売却金を権利床取得に充てる)

 これが市街地再開発事業の仕組みの基本であり、その建築規模が巨大になればなるほど保留床売却収入が大きくなり、事業採算性がよくなる。これが市街地再開発事業で建設する建築物がが巨大になる原因である。逆に言えば、だから事業に取り掛かる前に、事業区域の都市計画を変更して事業用地の容積率を上昇させておくのである。外苑再開発では再開発等促進区の地区計画がそれである。

 もちろん事業はそれぞれ事情が異なるから、この基本に忠実である必要はない。低層建築でも、赤字でも、権利者や事業関係者それぞれの判断である。金持ち権利者ならば保留床を他人に売らないで自分が買い取る投資をするだろうし、零細権利者ならば保留床を他へ売却できないならば事業を見合わせるだろう。

●事業費の7割は権利者たちの持ち出し

 では神宮外苑地区第1種個人施行市街地再開発事業(以後、「外苑再開発事業」という)の事業採算はどうか。
 結論から言えば、権利者たちにとっては採算割れが著しい大赤字事業である。何しろ権利者たちの持ち出しがものすごい。普通ならば事業をしないだろうが、金持ちばかりのメンバーだからできるのだろう。

この記事は岩見レク資料の内のここに引用した3件の表をもとに書いた

 全事業費は約3千5百億円(349,053,566千円)である。その全部を保留床処分金で賄うのだが、実はそのうちの7割近くは権利者たちが自己負担しており、非地権者で参加してきた三井不動産が負担するのは3割余である。つまり権利者たち(JSC、明治神宮、伊藤忠等)が、事業費の7割を持ち出しで行うのである。

 金持ちの民間事業者がどのような採算割れをする事業をやってもわたしには関係ないから、それらについては金銭的にはどうぞご勝手にというばかりである。
 せめて思うのは、通常の市街地再開発事業では国と都から多額の補助金が入ってくるものだが、この金持ち事業ではそれが一切ないのが、タックスペイヤーとしては幸いである。それは非都市計画の市街地再開発事業だからだが、それを選んだ権利者たちの金持ちぶりを表している。

ラグビー場建設にも新規巨額国費投入

 しかしJSCは文科省所管の特殊法人である。つまり国家機関であり、税金で運営している。わたしも納税者の端くれとしてひとこと言う権利があるので、その事業採算性についてコメントする。

 そのラグビー場の建設費用であるが、市街地再開発事業だから権利床として取得するので新たな支出はないものと思っていた。つまり第3者等床(多分、三井不動産と伊藤忠)に売却する保留処分金収入でラグビー場は建ち、新たな税金からの支出はないものと思っていた。最初に解説したように、それが市街地再開発事業の常識である。

 ところが岩見さんのレクチャーで見た資料によれば、ラグビー場の建設のためにJSCは、約540億円の支出をするのである。え、なんだこれは?、そもそもこのラグビー場建設を面倒な市街地再開発事業に仕立てるのは、保留床処分金を充てることで新たな支出を回避するためであると思っていたが、違ったか?、しないどころか540億円も支出するのである。

 ついでに書けば、明治神宮は新たに約240億円の支出(投資か)、伊藤忠は約1670億円の支出(投資)である。第3者の保留床取得者として登場する三井不動産の投資支出は約1070億円である。これら民間権利者がいくら投資支出しようとどうぞご自由にである。明治神宮は意外に金持ちなんだなあ、事業後の運営や三井からの地代で回収するのであろう。

 だが国有財産であるラグビー場については、約540億円も支出するのは合点がいかない。タックスペイヤーとしては、それだけの金を出すなら、現ラグビー場の改修費用の方が安いだろうに、とも思う。なんにしてもこの建て替えで約540億円の国民負担を必要とする。

●ラグビー場と野球場の土地交換について

 更に問題があることを見つけた。JSCはラグビー場を再開発前の位置から神宮第2球場の位置に移転して建てる。つまり外苑と土地の交換をすることになる。事業の仕組みとしては交換と言わないで権利変換というが、実は交換と同じである。当然のことに等価交換である。

 そしてこのレクチャーで新たに知った資料の中に、再開発前と後のそれぞれの土地面積があった。現ラグビー場の土地面積は41100㎡であるが、神宮第2球場がある位置に移ると43480㎡となり、事業後は2380㎡増加している。

 ところで事業前つまり現在のラグビー場の土地価格と、事業後の土地つまり現野球場の土地の価格を比べてみよう。正確には専門家による鑑定が必要だが、ここでは相続税路線価を比べてみる(ネットで知ることができる)。

 路線価を見ると、ラグビー場の前の道(外苑西通り)は2010千円/㎡である。一方、野球場の前は1490千円/㎡(国立競技場との間の道では960千円/㎡)である。これだけで土地総額は分からないが、両方の土地の単価の比は想像できる。現ラグビー場の土地は現野球場の土地よりも6割ほど高いのである。(当初3割と書いたが6割に修正した20231002、下図参照)


 ということは、現ラグビー場の土地が野球場の場所に移れば、いまよりも倍以上の広さになるはずである。だがこのレクチャーでの資料を見るとわずかに6パーセント弱の面積増加に過ぎない。とすればその差分の土地価額は建物建設費に変換(権利床)されるのであろうが、それでも建設費には届かないので約540億円の支出をすることになる(のであろう)。

 一方でに入れ替わって建つ神宮球場の移転先の土地(現ラグビー場の位置)は3割ほど面積が減るはずだが、そうはなっていない。減らすと野球場が入らないからそうはいかないのだろう。土地全体の広さは変わりようはないのだから、結果的には野球場(明治神宮)がラグビー場の土地(国有地)を買ったことになり、そのカネはラグビー場の建設費の一部になるのだろう。このような権利変換だろうが、要するに結果的にJSCは土地の一部を売ってラグビー場の建設費の一部に充てるのだ。

 この概略推測計算がどれほど正しいか自信ないが、どうもすっきりしない。権利変換計画書を見れば明確にわかるが、国有地処分にかかることだからいずれ公表するのだろう。

 高額な土地と安価な土地を交換するのだから、広すぎる土地の一部を売却すれば(一部転出補償金)、国民負担はないどころかうまくすればもうかるかもしれないとの、タックスぺーやーとしての考えは甘いのか
 市街地再開発事業だから権利者負担はないものと思いこんでいたのが間違い、ということになる。なぜ国民負担が必要な再開発なのか、もっと国民にとって採算をよくしてはどうか。

●JSCはもっとがんばれ

 JSCは権利交渉でもっと頑張ってもらい。自分が使う建築を自分で買い取り、つまり保留床買取をしなくてもよい方法にしなさいよ。せっかく市街地再開発事業に乗ったのだから常識的に行きましょうよ。
 全員同意型事業なのだから、権利変換で権利証として全取得できるように、三井不動産や明治神宮と談判交渉してほしい。このラグビー場建設事業を委託されているらしいUR都市機構には、再開発プロとしてもっとガンバレと言いたい。

 この再開発ができるようにした、つまり公園廃止をした原因者(元凶)であるJSCは、事業者の中で一番の貢献者であるのだから、もっと強い立場で権利交渉してはどうか。下世話に言えばゴネルのである、町場の再開発によくあるようにね、勿論冗談。
 JSCはこんな赤字再開発事業に乗った(乗せられた)のが間違いだったかもなあ、今のところで建て替えるか修復する方がよいのかもなあ。

 以上は、初めて見た基本資料だけで、年取った今も多少は覚えているプロ的な知識で考えたことであり、詳細なことを知らないヒマな老人のピンボケヒマツブシたわごとである。
 まだしばらくボケ進行遅延策に外苑再開発を利用することができそうで、うれしい。

(20230925記)

●最近の外苑再開発瓢論4部作(伊達の眼鏡ブログ)

2023/10/05・ラグビー場はPFI入札ダンピングで国費新規投入抑制か

2023/10/02・国立ラグビー場だけ大損の再開発にJSCは参加するな

2023/09/30・見世物スポーツのためにラグビー場に多額税金投入やめよ

2023/09/25・意外にもこの再開発に超多額の国民負担が必要と知った

●関連するわたしのブログ記事

【五輪外苑騒動】国立競技場改築騒動と神宮外苑再開発騒動瓢論集

2023/09/11

1704 【組踊を観る】横浜能楽堂で4年ぶりに琉球芸能を見て妙なことを連想

 昨023年9月10日の午後、横浜能楽堂で沖縄の組踊などを観た。このまえ組踊を見たのは2019年(「執心鐘入」と「道成寺」https://datey.blogspot.com/2019/02/1185.html)あったから4年ぶりである。野の能楽堂に来たのは6月の能「二人静」以来である。コロナが引いてようやく能楽堂も満員のようであった。


 わたしが芸能を見るのは能との比較が目的だから組踊「万歳敵討」(ばんざいてぃちうち)さえ見ればよいのだが、その他に踊りや独唱もあった。初めて聴いた独唱は「二揚仲風節」(にあぎなかふうぶし)、歌い手は西江喜春というかなりの高齢者であったが、高音を使い分けて上手であったと思うがよく分からない。しかしちょっと能楽堂の屋根から異界のものが下りてくる気配を感じた。

組踊「万歳敵討」

 「万歳敵討」は仇討ちものだが、プログラムに概要の筋が書いてあるものの、言葉をほとんど理解できなくて、字幕表示を欲しかった。能からの翻案ものならば、元の能を知っていれば類推できるのだが、それもないと会話場面の前場はお手上げである。

 組踊の演技をどう観るのかもわからないが、とくに勉強する気にもならない。だが今回あらためて思ったのは、若い女や若い男の装束と顔の化粧である。若い女はともかくとしても、若い男(若衆)の女に近い衣装と顔化粧の、あまりに美しすぎることである。男と女の区別がほとんどつかない。なお、舞台上に居る人たちは、地謡(歌と音楽担当)には女性がいるが、役者はすべて男性である。


 特に思ったのは、若衆の化粧の特別の美しさであ、あの化粧の目で舞台上から見つめられると、女性はボ~ッとするかも、いや男もそうかももしれない、なんて思っていて、突然に連想したのは今世間で妙に話題となっているジャニーズとかいう芸能タレント事務所の前社長(男性、故人)が、実はお抱え芸人少年専門の強姦魔であった事件である。

若衆徳牛節  若衆の扮装

 要するに近世までは普通であった男色行為が、現代では不同意性行為として犯罪となった(はずの)事件である。芸能界では東西を限らずこの類のことがしょっちゅうある(あった)らしいが、わたしはTV観ず、週刊誌も読まず、芸もゲイも知らぬことばかり。

 それで、もしかしたら組踊の役者たちもかつては、琉球貴人たちの男色の相手であったのかもしれないと、能の世阿弥のことに思い至り、ふと連想が働いた。
 時代は14世紀、時の将軍・足利義満(弱冠16歳)があるとき能を観た時に演じた夜叉若(弱冠11歳)という美少年を気に入り、すぐさま側において寵童とした。これが後の世阿弥である。

 そして世阿弥は時の独裁的権力者の庇護のもとにその天才を発揮して、いまにつづく能楽を大成させたのであった。他の能役者が一般的に貴人の男色の対象者であったどうか知らない。それが時代が近世になって武家の社会での衆道であり、町人の社会では歌舞伎役者や陰間がそうであったようだ。

 そしし話が琉球沖縄に戻れば、その王府における芸能であった組踊は、近世初めに朝貢していた明国からの使者たちを接待するために日本の能を参考にして創作したのだから、その芸能者は男色相手であったかもしれない。これは類推である。
 薩摩の侵攻によって支配を受けるようになった近世からは、薩摩からの支配者の接待があるとすれば、有名な薩摩の男色が持ち込まれたかもしれない。これも類推に過ぎない。

 留意することは、日本では中世・近世において貴族支配階級においても町人階級でも男色は普通のことであったらしいのである。
 中世の説話集「今昔物語」の諸所に男色の話が出てきて、これはなんだと思ったことがある。近世の「東海道中膝栗毛」にも弥次喜多コンビが実は男色コンビであることが出だしあたりに書いてあるの発見して驚いたこともある。

 近世以前の日本では性に対する考えが、近代以後とは違っていたらしい。多分、近代になって外国から入ってきたキリスト教文化が男色を排除したのだろうか。
 三島由紀夫や釈超空のそれを、わたしでも知るように語られるのはこの30年くらいの内か。

 少年強姦事件の社長は、死ぬまでそれが犯罪とは思っていなかっただろう。どんな天才芸能者のを育てたのかしらないが、たぶん、現代の足利義満のつもりだったのだろう。
 時代のもたらす人権と性に関する文化の変化がそれを犯罪に仕立てたが、その時は肝心の当人は死んでいて、これはある文化過渡期の矛盾現象なのだろうか。

 それにしても能楽堂の舞台に現れた美少年(若衆=元服前))・美青年(二才=15~25歳男子)の化粧した舞台顔は、どれも同じように見えるのだが面ではなくて本物の顔だからそれなりに個性がある。能では能面があるから、そうはならない。
 一方、わたしはTV見ないから事件被害者美少年たちを一人も知らないが、たまに新聞の広告面に美少年芸人集団公演とかで全員の並ぶ寫眞が登場するので、彼らなのだろう。
 それがどれもこれも同じ髪形と目付きをしていて、なるほどこれが今流行りの顔なのか、そうか、見ようによれば美少女と紙一重の感、フムフム、これが現代の人気男の顔なのか、へえ~。

ネットで拾った芸人グループ写真

 ついでに地球上世界のLGBTXへの容認度合いの地図がったのでのせておく。概してイスラム世界が不寛容らしい。
性的指向に関する世界地図(東京新聞20230910)

 話が組踊と関係ない方向になってしまった。(20230910記)

ーーーーーーーーー資料ーーーーーーーーー

●開館25年謝恩 横浜能楽堂「中締め」特別公演
第2回「琉球芸能600年」 2023年9月9日午後一時開演

【第1部】
王府おもろ「あおりやへが節」「しよりゑと節」  安仁屋眞昭

若衆踊「若衆特牛節」 佐喜眞一輝 知花令磨

二才踊「麾」 田口博章

組踊「万歳敵討」 謝名の子:東江裕吉、慶雲:新垣悟、高平良御鎖:川満香多、
 高平良妻:佐辺良和、高平良娘:伊波心、列女1:佐喜眞一輝、列女2:髙井賢太郎
 供1:金城真次、供2:上原崇弘
 道行人:嘉手苅林一、 きやうちやこ持:下地心一郎

独唱「二揚仲風節」 西江喜春

女踊「瓦屋節」 田口博章  

歌三線:西江喜春

地謡
歌三線:仲嶺伸吾、照喜名朝國、仲嶺良盛 
箏:名嘉ヨシ子
笛:大湾清之 
胡弓:森田夏子 
太鼓:比嘉聰

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●これまでの組踊鑑賞記録(まちもり散人著)

怖く哀し女ストーカー「執心鐘入」と能「道成寺」2019/02/10
琉球古典芸能の組踊をみて現代の沖縄問題考える2015/01/19
横浜能楽堂で琉球のゆったり時間を過ごすぜいたく2011/06

●関連「趣味の能楽等鑑賞記録」(まちもり散人著)

●まちもり散人ブログ 「伊達の眼鏡」 「まちもり通信


2023/09/01

1703【百年目の日に想う】次の巨大地震は巨大津波に加えて巨大核毒を伴って現れるはず

 昨日、久しぶりに映画を見てきた。「キャメラをもって男たちー関東大震災を撮るー」と題して、撮影者に焦点を当てた映画であった。その道の人たちには面白そうだが、被害の様相を見たいと思って行った私には生煮えであった。そのせいもあり、明日は震災中に起きた朝鮮人虐殺「福田村事件」を見に行ってこようと思う。 

 ●今日は関東大震災百年目

 今日2023年9月1日は、ちょうど百年前の今日1923年9月1日の昼、神奈川県を震源とする巨大地震が発生した日である。「関東大震災百年」とて特別なイベントがあちこちであるようだ。

 その発生ゆえに多くの人間が死んだからとて、その日から地球が太陽を百周回したとて、生物的にあるいは物理的には何の意味もあるまい。
 だが文化を持つ人間の側では、覚えやすい日に意味づけをする。初七日とか誕生日とかも同じことらしい。多くの人間が死んだことがなんと言ってもその日を100年間とかの節目に思い出すことになる。「関東大震災」で死んだ人間は約10万5000人だそうである。

 ではその「関東大震災」なるものは、地球上の人間のどれほどに影響を与えたのか。地球全体の人類から言えばそれによって影響の度合いはどの程度か。
 その頃の地球人口は約20億人だったから、105千人の死は誤差範囲である。一方、日本人口は約5800万人だから0.18%となる。このように大局的な数字で見るのは意味がなさそうだ。つまり、人間の側が思うほどには地球の側には大したことではなさそうだ。

●近現代日本巨大震災の比較

 では人間側の問題として見ることにして、近現代の日本での大地震による被害を比べてみよう。この表を見て、死者数と被害額(GDP比、GNP比)では、関東大震災がダントツにもの凄い事件であったと分る。

 こうやって比べると記憶に新しい東日本大震災被害額が、意外にランクが低いものだと不思議である。被災区域の広さでは多分ダントツに広かったであろうが、大都市を含まないとこのように評価されるのかと、興味深い。

 ということは、今話題になる次の関東大震災は、この100年で東京一極集中より富が集中しているから、これまでと比較にならない巨額の被害になるだろう。
 その一方で100年前の関東大震災よりも死者は少なく見積もられているのは、100年前と比べて都市人口は増えたが、耐震耐火建築が多くを占めているということなのだろう。

●震災とは地震+津波+核毒

 ただし、ひとつだけこれまでの大震災とは決定的に違うことが起きそうなのは、核問題である。12年前の福島原発事故が今も国際的な問題を引き起こしているように、次の地震でどこかでも同様なこと、あるいはそれ以上のことが起きると、復興は実に複雑なことになる。

 巨大地震が振動による被害だけでなく、巨大津波を伴う水害を引き起すが、これに加えてもうひとつの引き起こす巨大災害に核毒拡散があることをわれわれは知った。
 振動や津波被災は国内で済むが、核毒拡散は海外にも広がるし、その被害発生時間が一時的なものではなくて、人間の生命を超える時間を要することに、われわれは対処できるのだろうか。

 現に最近になって起きた国際問題は、フクイチの核毒汚染処理水の海洋放出に対して、大陸やオセアニアの諸国が懸念や反対を示していることである。とくにチャイナは日本の海産物輸入禁止に至って、経済問題から外交問題へとことは広がりつつある。

 ということは、日本国内時だけじゃなくて、大陸や半島諸国にある核施設において巨大震災が起きると、日本が被災国になる恐れが十分ありうる時代が来ているということだ。
 次の巨大地震でもこの新たな核毒問題が起きることを前提に考えなければならない。さて、それを考えて対策があるのだろうか。これはもうお手上げのような気がしている。

 おもえば100年前の関東大震災も、28年前の阪神大震災も、12年前の東日本大震災もその時は絶望的な被害だったが、なんとか復興しているのだから、人間は偉いものである。
 だから、つぎの関東大震災が来ても何とかなるのだろうと思う、というか、そう思うしかないのである。ただし、その時はこのわたしはもうこの世にいないはずである、というか、そう思いたいのである。            (20230901記)

参照:地震津波核毒おろおろ日録


2023/08/26

1702 【核毒オロオロ】福一核毒汚染処理水放出って尾銅山鉱毒事件・水俣チッソ水銀中毒事件を連想させる

 2011年3月に東日本大地震で大事故をおこして廃止となった福島第1原子力発電所(「福一」という)は、それ以来12年経ってもいまだに廃炉作業中である。メルトダウンした核施設の廃炉というほぼ前代未聞の仕事だから、いつまでかかるのか誰も分からない。

  こういう仕事をしている人たちは、働くことへモチベーションをどう保つのだろうか。労働賃金がかなり良いのだろうか。あるいは誰もやったことにない先進的な仕事という動機づけがあるのだろうか。それにしても、何かを創造するのではなくて、危険な核のゴミを作り捨てる仕事だから、どう考えてもむなしくなるだろうと思う。

 核施設廃炉という超特殊な仕事は、これからどんどん需要が発生する。つまり現在のいくつかの核発電施設が次々と廃炉の時期を迎えるからだ。ここで仕事をした人々は、その専門家として次々と求められる人材になるのだろう。それは世界中の核発電施設にも言えることだ。まさにダーティワークであるが、世の中に必要なことだ。

福島第一原子力発電所と汚染処理水放出先

 さて「福一」はこの8月24日から海に小便のお漏らしを始めた。この敷地に降ったり流れてきたり湧いたり利用されたりして核毒に汚染された水を外に流すことは汚染拡大になるからできない。だから敷地内にタンクをいくつも作ってどんどん溜め込んできたが、溜まりに溜まってもうタンクの置き場がなくなってきたという。いわば膀胱に小便がたまって我慢できなくなって、お漏らしせずにいられなくなったのだ。

 ところが「福一」小便はいろいろな核の毒が含まれている「汚染水」なので、この毒を除去する処理をした「処理水」に変換し、それを更に海水でで薄めてから、敷地の外に漏らすそうだ。つまり「核毒汚染処理薄め水」であるが、みじかく「処理水」というらしい。。それもいきなり海岸に漏らすのもはしたないとて、1キロほど沖まで地中に管を通して放出するそうだ。

 その海には放出処理水を飲みながら生れ育つ魚はいないのだろうか。漁民からは処理水放出大反対の声があるのだから、とうぜん魚はいるのである。
 わたしは2014年9月に「福一」の北隣にある請戸漁港に視察に行ったことがある。地震と津波と核毒の三重苦に襲われて、集落も港も田畑も荒れ果てていた。漁船が陸上の草原に何隻も浮かんでいた。
 その漁民たちは東電からどのような補償を受けたのだろうか。いままたこの「核毒汚染処理薄め水」で直接あるいは間接の漁業被害が生じる恐れがあるらしい。

 これで思い出したことがある。30年以上前のことだが、瀬戸内海の沿岸部の広大な土地に、レクリエーションリゾート地を開発するという公的な仕事に携わったことがある。このリゾートから発生する汚水を三次処理した「処理水」を海に放出する必要があった。
 反対する漁業者と行政当局と事業団体との調整により、いくばくかの解決金を漁業組合に支払い、排水は海岸から1キロ先まで地中に排水管をのばして海に放出した。福一の処理水と同じである。

 そして開発完了オープンから1年後に訪ねて聞いた話に笑った。その処理水放出のあたりの海面に、養殖カキ筏が集まってきているとのことだった。それは3次処理しても残る有機物が養殖カキのエサになるのであった。もちろん元は糞尿だから畑の下肥を同じである。
 まさかこの福一処理水に魚の餌になる物質が含まれるなんてことはあるまいが、核毒が魚類の遺伝子に作用して、巨大な魚が捕れるようになるなんてことは、、あるまい。

 あの請戸漁港と集落は復興したのだろうか。復興して漁業をやっているのだろうか。ようやく復興したら、今度は「核毒汚染処理薄め水」がやってくる。これが東電が言うように本当に魚に影響なくて、それを食う人間に影響がないと言えるのか、それはいつになればわかるのだろうか。廃炉がいつ終るか分からないのだから、こんご毎日毎日「処理水」がやってくる。薄められた核毒は、あのチッソ水銀中毒事件のように、魚類に濃縮蓄積されて有毒になるということはあり得ないのか、誰も分からない。

 そもそも排出以外の処理方法はないのだろうか。これが最も安い方法なのだろうか。例えば水蒸気にして空中に放出方法はあるのだろうか。あるいは敷地全部を大きな湖にして水をためる方法はどうか。この前例は、足尾銅山鉱毒事件で、銅山から流れ出る鉱毒水を溜めるために作った巨大な人造湖の渡良瀬遊水地である。このことは10年前のブログに書いている。参照:https://datey.blogspot.com/2013/12/875.html

福島第1原子力発電所と渡良瀬遊水地の同スケール比較

 「福一核毒汚染処理薄め水」をボトルに詰めて、福一名物で売るのはどうか。ふるさと納税の返礼品にしてはどうか。どなただったか政府自民党の偉い方が、その処理水は飲めるとおっしゃったとのことだから、これもありうるだろうと思う。(20230826記)

参照:地震津波核毒おろおろ日録

2023/08/15

1701【78年目敗戦記念日愚痴】戦争へ準備をしろと敗戦の日に叫ぶ政治状況に閉口するばかり

●戦後生まれの喜寿

 今日2023年8月15日は日本の敗戦記念日、いつ敗戦したかといえば1945年のことだった。アレ、もう78年も前のことであったか、ということは今年に喜寿を迎えた老人さえも「戦後生まれ」なのか、う~ん。
 戦後生まれという言葉が、若いという意味を含んでいたのは、はるか昔のことであったか。自分の老いは当然と自覚を促すだけ。
 そこで本歌取り狂歌をひとつ。

喜寿なれや目にはさやかに見えねども戦後生まれとぞ驚かれぬる

 じつはわたしはほぼ毎年のこの日には、東京九段にある靖国神社と千鳥ヶ淵戦没者墓苑に出かけていたのだ。といっても戦没者を慰霊しようなんて殊勝にして敬虔な気持ちではなくて、そこでその日だけ見られる戦争の残照諸相を見物するのであった。右や左や上や下や大人や子供が登場してそれぞれ戦争観を表現するのを、野次馬として楽しむのである。

 これまでこの日の九段でどんなことが起きてきたかは、下記のこれまでのわたしの靖国神社見物記をご覧ください。今年も同じようなものかしらね。
2005年と2013年・靖国神社815定点観測風景2005、2013
2014年・終戦記念日の靖国神社の喧騒と千鳥ヶ淵戦没者墓苑の静寂
2017年金モール軍服長靴の若者がスマホをいじる靖国の夏
2018年・夏まつり森の社のにぎわいは今日も戦をたたえる見世物
2019年敗戦記念日は東京九段の靖国神社に戦争の残影を見物に
2020年・コロナ禍敗戦記念日の変わらぬ靖国神社風景が怖い
2021年・この前はアメリカに敗れこの度はコロナに破れかぶれ
2022年あの敗戦から77年の歳月に次々と戦争の日々が重なる 

 その個人的年中行事を2020年以降はとりやめたのは、ひとつはコロナ禍のゆえだが、もうひとつはわたしの歳のせいである。コロナ禍は今年から開けたようだから、行事復活してもよいだろうが、寄る年波でどうも真夏の遠出に無理の感があるのと、家族に老々介護の兆しもあってこれも長時間外出を許さなくなっているのだ。戦後生れが喜寿になるくらいの年月だから仕方ない。今年も行かないから、この年中行事は終わりだ。

●アジア太平洋戦2000万人死者の追悼こそ

 今年も政府による戦没者慰霊の式典が九段で行われたようだ。おりから台風七号による悪天でかなり規模縮小らしい。いつだったかこの日の靖国神社の一隅に腰を下ろしていた時に、ちょうど正午になり全員起立黙祷の指示がNHK放送で境内に流れた。そういう一斉に何かやらされる儀式を大嫌いのわたしは、まわりの人々がみんな立ちあがり頭を下げるのを、一人座り込んで奇異な眼で見回していたことがある。居心地が悪かった。

 今朝の新聞一面片隅に政府の広報記事があり、政府主催「全国戦没者追悼式」をやるから、正午から1分黙祷せよとある。こういうのは政府に言われてやるものかしら、わたしはこの一律右向け右を大嫌いである。

 そしてまた、追悼する戦没者とは誰のことか調べると、日本人310万人ほどが対象だそうである。それはおかしいだろうと思う。戦争だから戦った国はそれぞれ大量の戦没者が発生したはずだ。それら両方の戦没者を追悼するのではないらしい。政府は不戦を誓っての儀式ならば、殺し殺された戦没者全部をこそ追悼するべきである。

 ではアジア太平洋戦争で、どれくらいの人が死んだのかネットで調べたら、日本310万人、フィリピン100万人、ベトナム200万人、中国1000万人以上で、全体では2000万人以上とある。
 2000万人死んだのに310万人しか追悼しないのは、どのような理由があるのだろうか。これは靖国神社が政府に反逆した戊辰戦争の敵方を祀っていないことに倣っているのだろうか。


 (追記20230816)15日の戦没者追悼式で総理大臣式辞が、去年のそれとほとんど同じという批判が16日の東京新聞に載った。わたしは昔々に植木等が歌ったドンと節を思い出したので、こう書いてFBとXに載せた。
 アッそうか、解説ないと分からん時代かもなあ、アノネ、元歌はサラリーマンが”タイムレコーダがちゃんと押せば”というのだよ。
政府主催戦没者追悼式での総理大臣マンネリ式辞批判記事(東京新聞20230816)

●戦争準備への足音が

 「今年の終戦の日 各党談話」なる記事が東京新聞にある。興味ないがヒマなので読んでみて驚いた。総じて防衛力という戦争能力を整備強化せよというのである。
 これってプーチン戦争が終わらずに、似たようなことが台湾有事として東アジアでも起きるかもしれないから備えろという状況判断なのだろうか。戦争で死んだものを追悼するのに、軍備を備えよとは、そんな時代が来てしまったのか。
 これでは憲法9条のもつ理想は、もう雲散霧消らしい。「戦後民主主義すくすく派」としてはまことに悲しい。


 どうしてこういう世の中が来たのだろうかと、戦後社会で起きた体験的あれこれをを思い出しつつ、思想史として「<民主>と<愛国>戦後日本のナショナリズムと公共性」(小熊英二)を、積ン読本棚の中から20年ぶりに引っ張り出して読み返している。少年期青年期に概略的に知っていたことを,今しっかりと資料を並べて解説してくれるこの本はすごい。それにしても1000ページには疲れる。


 なんにしても、わたしはまた戦争に出くわすのはまっぴらゴメンこうむるので、この辺でこの世からおさらばしたいと、またもや思うのである。戦争がおきないうちに間に合うだろうか、それが心配である。やっぱりコロナで死ねばよかった。

 それにしてもだらしないコロナだった。最も期待したのにクレムリンを襲わなかった。バカヤロウ。
 そしてわたしのもう一つの期待であった「願わくは花の下にて春死なむその如月の望月のコロナ」という私の毎春の願いも外れたのだ。バカヤロウ。
 いや待てよ、この年の暮れに第九波が来るという説もあるとかないとか、まだあきらめないでおこうか。

●毎年思い出すあの日々

 毎年8月15日には思い出さずにいられない。森の中のラジオ、聞いた大人たちの沈黙、疎開児童たち、そして続いては教科書の黒塗り作業、教師の変節、なにより辛かった空腹の日々、、ろくなことがなかったあの頃。
 唯一の嬉しかった記憶は、父が8月末に帰郷してきたことだけだ。43年末に送り出した日に母が号泣した戦中の嫌な記憶が、帳消しになった。

 このブログに戦争記憶を何回も書いてきたが、こんなことを思い出さなくてもよくなる身になる日が、そう遠くなく来るのを待っている。(20230815記)

参照:戦争の記憶(まちもり通信:伊達美徳)




2023/08/08

1700 【横浜ご近所探検が行く】横浜中華街の向こうをはる「横浜大韓街」誕生か

 暑い日が続くが、カネのかからない年寄りの健康法でとにかく歩くのだ。横浜の都心住いだから、買い物と徘徊が一致するのがありがたい。趣味の街並み景観見物が毎日できて、この街の変化をもう20年以上にわたり続けている。

 徘徊とは目的の無い彷徨行為と定義されるが、それが日常買い物と景観見物と健康に資することになっている。これは徘徊から言えば本意ではない。目的の無い外出と、その他を厳密に分けて、それぞれあらためて出直すべきである、というご叱責もあろうが、まあ、先が短い年寄りのやることに、いちいち目くじらたてなくてもよいだろう。

 さて、今日も今日とて横浜ご近所徘徊していて発見、おや、横浜チャイナタウン「中華街」の向こうを張って、福富町はコリアタウンの「大韓街」になったのか、と。
 福富町の中央部に西通り・仲通り・東通りを串刺しにする南北の通りがある。この通りには沿道の両側に1950年代に防火建築帯として建てた共同建築群が立ち並ぶので、その変化に興味を持ってちょくちょく観察に通るのである。

 その通りの南入口ともいうべきあたりに道路をまたぐゲート状の工作物が建っていて、そこに大きな字で「KOREATOWN 福富町国際通り」と書いてあるのだ。あれ、こんなのが前からあったかなあ、こんなに大きな文字だから気がつくはすだよなあ、いつの間にできたのだろうか。この通りは国際通りというのか、初めて知った。

KOREATOWNの大文字のゲート

 福富町については、以前からコリア系とチャイナ系の店舗が多くなってきたなあ、でも風俗系の店も多いなあと思っていた。この大看板を見て通りの店の看板を見まわしていたら、たしかにコリア系店舗がさらに増えている、一方で風俗系が減った感がある。
 家に帰ってからGoogleストリートを見たら、去年11月撮影の同じ通りの風景があり、そこには同じ道路をまたぐゲート風のアーチがあるが、KOREATOWNの文字はないから、今年になってできたのだろう。

2022年11月撮影の同じゲートには文字がない google street

 チャイナタウンが中華人民共和国街つまり「中華街」ならば、コリアタウンは大韓民国街つまり「大韓街」というのだろうか。
 それにしても横浜中華街のような横浜発祥の歴史を背負うチャイナタウンはともかく、福富町が中国系も日本系もある商店街でコリアタウンを名乗るには、それ相当の何かがあるような気がする。商店街組合がこのように名付けるのだろうか。
 風俗の街にイメージがある福富町全体が、中華街のような大規模な横浜大韓街KOREATOWNに変身するのは、なかなか面白いと思う。期待している。

KOREA系店舗の看板が目立つ

福富町KOREATOWN 北から見る全景

 横浜橋商店街もコリア系の店がかなりあり、KOREATOWNのイメージがある。実は単なる遊びであるが、数年前にKOREA系と中華系の店の数をカウントして、この商店街の全店舗の中でどれくらいの割合を占めるか計算したことがある。12パーセントほどで、意外に少ないと思ったことがある。それらの日常性から離れた店舗風景に気をひかれてしまてて、イメージ先行するのだろうか。

 さて、横浜都心部の関外に特に多い戦後復興の防火建築帯は、次々と建て替えられている。商店街としては関内側の馬車道の防火建築帯はかなり建て替えが進んだ。だが関外側の伊勢佐木町や福富町あるいは吉田町のような古い商店街では、建て替えが進まずに、いまも戦後復興期の姿であり、横浜の特徴ある街の風景として生きている。

 生き残っている理由は、建築物の所有権が複雑化していることもあるだろうが、テナントの身代わりの早さがあるのかもしれない。福富町がかつては伊勢佐木町のような普通の商店街だったのが、風俗街へ、そしてエスニック街へと時代に対応して生き残り作戦で変遷しているのが興味深い。普通の商店街が地域でも有名は風俗街に変身して生き残っている例として、群馬県太田市南口商店街がある。

 伊勢佐木町でも防火建築体に入る店舗が、コロナ以後その変遷が著しい。次々とテナントは変わっても意外に空き店舗は少ない。ただしわたしの観察によれば、物販店も飲食店もどうも安売り店舗へと変化する傾向がある。あまり変わらぬ商売を続けている元町商店街との落差が著しくなっている。
 その変遷が一段落したころに、建て替えによる変化が始まるだろうと、それがいつ来るのかと、それも興味を持って待っている。(20230808記)

2023/08/06

1699 【広島原爆の日】ヒロシマ核爆弾被爆者だった親友がこの世を去った今年の夏

 今日は8月6日、1945年にUSAが広島に世界初の核爆弾殺人目的投下の日である。毎年この日が来るのは当たり前だが、今年は来てみて初めて特別な日であると気が付いた。それは、今年の春に亡くなったわたしの親友のひとり(とよぶ)が被爆者であったからだ。

 あの8月6日、Fは広島市内の自宅の庭で遊んでいて、何かを取りに家の中に入ったとたんに、閃光が走り被曝、家は半壊したが奇跡的に生きていた。爆心から約1.7kmだった。
 そこから凄惨なる被風景の中を、被した身の母子4人で苦難きわまる避難行、逃れた郊外で治療とも言えない治療の日々、それを彼は歩きながら一日中話してくれた。
 話してくれた場所は、5日で100キロ歩くという趣旨のウォーキング旅行の旅先のことだった。ほかにもあちこちに一緒に旅した。よく飲み会やった。

 そのFの死因が原爆病であるかどうか知らない。元気な遊び仲間だったFが、入退院を繰り返すようになったのは2年前だった。それは被曝による病かと聞いたが、化学者の彼の答えは「それがわからんのだよ」という。それには核被曝治療の諸問題もあるらしい。
 Fの直接の死因は血液の病だった。私は素人だから勝手に決めつけているのだが、これこそ核爆弾の故に違いない。
 Fが病床からくれたLINEメッセージの最期は4月1日のこと、「来年も花を見られるかな」であった。その月末からもうFは居ない。

Fは行ってしまった

 わたしにはこの日は普通の日だったから、広島原爆の日であるほかにとくに考えもしなかったし、とくにこの日にFと何かをしたこともない。
 そうか、Fにはこの日が特別に日であったのだ、そして今日はその日なのだ、Fがいない今年のこの日は、わたしにも特別な日としてやってきた。

 ヒロシマ核爆弾投下の故の今年までの死者数は、総数339,227人で毎年増えてゆく。この1年で5320人が新たに加わったそうだ。
 爆心から500mほどの兵営にいたFの父は、核爆弾で消滅させられたとて、確実にそのひとりである。その名簿のなかにFは加わったのだろうか。

Fの実妹によるその母の被曝物語

 あれから78年もたったが、核の恐怖は地球上から消えないままに、いや、それどころか、またもや核爆弾を投下する奴が出現の気配の中で、被爆者たちはもちろん、わたしもこの世を去ることになる。



 そして世界3番目の殺人用核爆弾投下する為政者がいつ出現するのだろうか。せめて私が死んだ後にしてほしい。エゴに聞こえるがそれでよいのだ、だって地球上の人間全部がこう考えると核兵器廃絶に進むだろう。(20230806記)

参照亡き親友Fへのオマージュ 2023