熊五郎:こんちわー、ご隠居、生きてますかい。
ご隠居:おお、熊さん、ああ、残念ながら生きてるよ。おあがりよ。
熊:昨日の首相記者会見のネット実況中継を見てね、ちょいと腹が立ったので、ご隠居に聞いてもらいたいと思ってね。
隠:そうだったね、菅さんて首相になってから、正式記者会見はたったの2回目、しかも2か月半ぶりなんだってね、よほど話が嫌いなんだろうが、それで政治家を務まるのかね。
熊:いろいろ質疑ありましたが、例の日本学術会議会員の任命拒否問題の件、質問に急に笑顔になって答えたのにびっくりしましたよ。
隠:あの110人任命するところを推薦から6人外して、99人任命した事件だね。ほう、そうかい、あの仏頂面の人が笑顔ねえ、首相としてようやく自信が出てきたんだろうね。それはどんな質疑だったんだい。
熊:記者の質問は、この任命拒否によって学者学会からの大きな反発抗議が起きて問題になっているが、それを予想していたか、どう考えるか、というものでした。
隠:そうか、首相は笑ってどう答えたんだい。
熊:首相は例によって質問に直接答える前に、あれこれと任命拒否の合法性を話し、会議の改革をしなければならないと考えて行ったと、質問してないことをだらだら述べて、最後にニヤッと笑って回答で「予想していた」といいましたよ。
隠:おお、予想してたのかい、それなら確信的な任命拒否だったんだね。それなら初めのころの国会での答弁が、どうしてあんなにゆらゆら矛盾して揺れたのかね。
熊:あ、そうだ、今ご隠居と一緒に、その記者会見の状況を、ネットで見ましょうよ。(https://youtu.be/URdy0NK95TA)
隠:こりゃ首相演説会かねえ、記者たちの質問が鋭くないねえ、今回も事前に質問を募集してたのかねえ、やっぱり原稿を読んでるねえ。でも、その学術会議に関する回答の最後でニヤリと笑って「かなりなるんではないかとわたし思っていました」と言うときは、原稿を読んでなかったね。あの笑いはどういう意味かねえ。
熊:あの笑いってね、わたしにはレイプ犯人が現場を思い出して笑ってるように見えましたよ、レイプされるほうに油断があったからだってね。
隠:そりゃどういうことなんだい。
熊:あの答えにもあったように、首相は学術会議の改革が必要と思っていたから、任命拒否したと言ったでしょ、つまり相手のほうが悪いと言ったんですよ。
隠:そうか、そりゃ酷いねえ、でも、レイプは明らかに犯罪だよ、首相は犯罪者じゃないだろ。
熊:いやいや、首相は犯罪者というか、実は違法者なんですよ。
隠:どうしてそう言えるんだい。
熊:実はその会見を見た後でね、ネットで法律の専門家たちが、この学術会議任命拒否問題で意見を交わす会議のオンライン実況を見たんですよ。そうしたら実に明快に首相が違法だと分ったんです。(https://youtu.be/0pSk7bKYiqM)
隠:おお、法律の勉強したのかい、えらいもんだ。それは菅首相のおかげだな。
熊:へへ、憲法学の木村草太先生が、小学生でもわかるように教えてくれましたよ、違法だよって。
隠:じゃそれを簡単に教えておくれよ。
熊:エヘン、首相はね、公務員となる会員の任命だから、憲法15条によって俺が公務員を任命する権利があるから、拒否権だってあるんだよといってますが、その条文には、首相ができるとはどこにも書いてないいんですね。首相って言葉が出てこない。
隠:おお、そうかい、じゃあ誰ができるんだい。
熊:憲法15条には、その権利は国民にあると書いてあるんですよ。
隠:ということは、国民の選挙で選ばれた国会議員から選ばれた首相にあるってことかい。首相は国民からそれを委任されてるってことだね。
熊:そうなんですよ、だからね、任命しても任命拒否しても、委任された国民に聞かれたら、その理由を説明する義務があるんだそうです。
隠:しかし、首相は人事に関することは言わなくていいんだと言い続けてるよ、それって憲法違反かい。
熊:さらにね、憲法73条ってのがあって、そこには官吏の任免は法律の定める基準に従えと書いてあるんです。首相が好き勝手にやっていいのではないのです。
隠:ほお、で、それはどんな法律なんだい。
熊:それがまさにずばり「日本学術会議法」なんです。
隠:ズバリそこに違法って書いてあるんだな。
熊:そう、今回の問題は105人の推薦が会議から出されたのに、99人しか任命しなかったことにあるのですが、そこが違法なんです。
隠:多すぎた困るだろうけど、少ないのも違法なのかい。
熊:そう、学術会議法には会員は「210人とする」と書いてあり、それを超えても未満でも違法なんです。3年ごとに会員の半分を改選せよと決まっていて、だから今回は105人でなけりゃいけないのです。
隠:ほお、それじゃあ6人欠員の今の状況は、違法ってことになるのかい。
熊:そうなんです。この違法状態を作り出したのが首相です。首相は算数ができなくて、210の半分は99と数えたのだろうと、木村先生は皮肉言っています。
隠:それじゃあ、会議がまた6人を推薦をして、首相に任命してもらえばいいだろう。
熊:ところが、そうはいかないのです。任命拒否なんてことが起きるのを法律が予想していないので、そういう時に対応する条文がないのです。
隠:ほお、面白いねえ。
熊:会員の誰かが死んだとかやむを得ない事情で退職した場合には、欠員補充するけれど、その後釜の会員はその前任者の残った期間だけ就任できると、法の条文にあるのです。でも、今の6人欠員には前任者がいないので、この条文を使えないんですね。
隠:おお、そうなのか、こんなことが起きた場合どうするか、法律を作る時に考えなかったのかね。
熊:そうそう、そう思いますよね、ところがね、それはそれでその当時にちゃんと考えていたのだそうです。この学術会議法を作るときの1983年のに国会で、そのことを心配した討議が行われている議事録があるのです。
隠:ほうほう、さすがにちゃんと考えてはいたんだね。
熊:それがねえ、今回の様なことが起きるのではないかと、野党議員が質問してるんです。それに対して政府委員も時の中曽根首相も、「総理大臣の任命はまったくの形式的なことであり、学術会議からの推薦人事を左右することは考えられない、それは学問の自由からそう言えるのであり、これは内閣法制局とも詰めた」と答弁しているそうです。
隠:うーん、立派なもんだねえ、よく考えて記録を残してるんだ。ありゃッ、しかしね、菅首相は今回の任命拒否をしたのは、それができると内閣法制局と詰めたからだと、記者会見でも言ってるよ。ってことは、立法当時の法解釈を変更したんだね。例の集団的自衛権とおなじかい。
熊:いや、それがね、菅首相は立法当時の法解釈を変えていない、当時と考えは一貫していると言ってるそうです。そのいっぽうでは、あの当時のことはよくわからないともいうので、さすがの木村先生は呆れていますね。
隠:それなら私だって呆れるよ。ってことは違法者の首相が会見でニヤッと笑って、「学術会議が問題だらけだからだ」と言うのは、犯罪者の泥棒が「あの家の戸締りが悪いのがいけない」と言うのとおなじだな、変だね。
熊:要するに法律には、学術会議から105人推薦が来ればそのまま105人任命せよと書いてあるのに、99人しかしなかったので違法、これって小学生でもわかる。拍子抜けと同時に、首相が違法行為なんて呆れるしかないですね。
隠:会議側からまた推薦だし直すしかないのかな。
熊:いや、それじゃあ天下の学術権威者たちが、違法行為をを認めることになるのですね。だからできない。
隠:ではどうすりゃいいのか先生は言ってるかな。
熊:違法を解消するには、はじめにもどって105人の推薦どおりに任命するしかないようです。だから、この違法状態に関して、国会議員たちが内閣にも官僚にも根気よく聞きただすしかないし、国民も理由を説明をせよと根気よく声を上げるしかない、とのことです。
隠:ヤレヤレ、違法状態学術会議が何かやってもいいのかねえ、無効なことなのかねえ、コロナ問題に学術会議の活躍がいるだろうに、わざわざ違法状態にするなんて、何を好んでこんなことを首相はやるのかねえ。
熊:首相はほんとにわかってやった確信犯なんですかねえ、あの言動を見ると、違法になるって知らないでうっかりやっちゃった、いや、官邸官僚に踊らされてる感じがするなあ。
隠:もしかして、政治的大陰謀なのかなあ、わからんなア、こんな国民に分からんことやる人って、首相にしておいてもいいのかなあ。(20201205)