●屋根のない能舞台に久しぶりに出会って
昨日(3月14日)午後、久しぶりに能楽鑑賞に行ってきた。横浜能楽堂が休止しになり、もう3年以上も能を見ていない。なんだか能禁忌症状がでそうだ。
川崎能楽堂定期能は、観世流能「俊寛」と大蔵流狂言「文蔵」であった。川崎能楽堂へは30年以上も前に能「鵺」を観に行った記憶がある。能の趣味を始める初期の頃だ。会場の様子を忘れていたが、かなりコンパクトで狭く、舞台と客席が近かすぎるくらだ。
舞台には屋根が無くて、四隅の柱は1mほどで伐られてる。見所と舞台の間に玉砂利もない。能専用の能楽堂なのに、何やら小ホールの中に見所と舞台が混在している感があった。狭いので見所で演じているようでもあった。
ここでは見所と舞台が同じ高いひとつの天井のもとにあるから、見所の中で演能がなされている、あるいは客は舞台上で見ている、そんな不思議な気分になった。これまで頻繁に見てきた横浜能楽堂も観世能楽堂も、屋根があり柱がある。それらでは見所と舞台は画然と異なる空間になるものだと改めて認識した。
舞台と見所は画然と異なる空間であることに慣れていたので、改めてその関係を考えた。演能は特別な状況を舞台上に発生させているから、見所と舞台は別の空間の方が良い。特に、能のような様式美を強調する場合は、画然と別空間の方が良いと思う。
そういえば思い出したが、先般KAATで観た「未練の幽霊」の舞台と客席の関係はこの川崎能楽堂に似ていた、だが、置き舞台の真上には同じ大きさの照明を屋根の様に吊っていたからか、舞台と客席とは異なる空間と認識して観た。どうやら舞台にはプロセニアム相当の仕掛けがいると改めて思った。
ということは、狂言の方はむしろ舞台と見所は一体に近い方が良いかもしれない。狂言はいかにも日常の延長のような芸を見せるのだから、客席の延長にある方がリアリティがありそうだ。そうか、狂言と能とはその点で基本的に異なるものと改めて思う。
●能と歌舞伎
狂言「文蔵」は、石橋山合戦の語りがメインである。講談のような堅い口調の語りを長々としゃべらせておいて、軽く逆転的なオチに持ち込む。話としては面白くもないから、オチのあたりの段差の演技が重要だが、堅さが売り物の山本家狂言では、難しそうだ。
能「俊寛」は、演劇的なストーリーで舞が全くない。俊寛が置き去りにされて嘆く最後の場面が見せ場である。同じストリーの歌舞伎「平家女護が島」があるが、この最後の場面の表現が能と歌舞伎の基本的な違いを見せるのが面白い。
能では抑えに抑えた表現でもって大きな悲しみを表現するが、歌舞伎では叫び泣き暴れて手放し状態で悲しみの表現をする。これは能「隅田川」と歌舞伎舞踊「隅田川」の違いも同様である。歌舞伎では嘆き悲しみ過ぎて、見ているこちらが辟易する。
ここでも能舞台が気になった。橋掛かりが短くかつ狭いのである。最後に赦免船が出ていく場が、どうも窮屈なのである。取り残されて嘆く俊寛の演技と、出ていくご赦免船の一行との間合いの具合が、どうも悪い。
●舞台も見所も歳とってしまった
観世の演者たちは観世宗家の一門だった。もう4半世紀も前から一時は毎週のように頻繁に通った東京の松濤の観世能楽堂で、しょっちゅう見ていた能楽師たちが居る。おお、あの人もあんなにも年取ったものだと、自分の歳を棚に上げて感慨にふけった。
地頭の関根知孝、小鼓の鵜沢洋太郎、後見の寺井栄など、若手だったのになあ。シテの観世恭秀の能面の横にはみ出る頬の皴に、直面(ひためん)でもよいだろうにとつい思ってしう。山本泰太郎は則直の子で東次郎の甥、そうだ、5月に東次郎を見に行く予定だ。
そう、5月3日には東次郎「花子」、友枝昭世「鬼界島」を見に行くのだ。しかもこれに馬場あき子の解説があるのだから、出演者たちも演目も超豪華版だ。観世の「俊寛」と同じだが題名が違う「鬼界島」を、喜多流ではどう見せるのかも楽しみだ。ただ、ホール能であるのが気がかりだ。
東次郎とわたしは生年月日が同じであるし、馬場はその10歳上、友枝は40年生まれだから、わたしもいれて4人のうちの誰かが、5月にはこの世にいないかもしれない、そんなスリルのある能楽の日を待ち遠しい。その日のことは、この続きとして書こう。
今回の能鑑賞には、息子と初めて同行した。実は介護人と言うべきかもしれないが、なんにせよ能に興味を示してくれて嬉しい。そして先輩としてなにがしかの能楽解説をして、知ったかぶりを発揮できることも嬉しい。
(2016/03/15記)
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